ネスレ

ネスレ仏語: Nestlé S.A.独語: Nestlé AG英語: Nestlé Ltd.)は、スイスヴヴェに本社を置く、世界最大の食品飲料会社である。ミネラルウォーターベビーフードコーヒー乳製品アイスクリームなど多くの製品を取り扱っている。スイス証券取引所上場企業(SIX: NESN)。日本法人ネスレ日本株式会社

ネスレ
Nestlé S.A.
ヴヴェイの本社
種類 株式会社
市場情報
OTCBB NSRGY
本社所在地 スイスの旗 スイス
ヴォー州ヴヴェイ
北緯46度28分01秒 東経6度50分06秒
設立 1866年 (1866)
業種 食料品
事業内容 離乳食乳製品シリアル菓子インスタントコーヒーミネラルウォーター調味料冷凍食品ペットフードなど
売上高 914.3億スイスフラン
従業員数 35万2千人
関係する人物 Henri Nestlé、創業者
Peter Brabeck-Letmathe、会長・最高経営責任者
外部リンク https://www.nestle.com/ (英語)

イギリスでは20世紀の間「Nestle's」を「Nessels」として宣伝していたため、現在でも一部で「ネスレ・ミルクバー」などにおいて「ネスレ」を「ネッスル」のように発音することがある。日本では1994年に、社名を「ネッスル日本」から「ネスレ日本」に変更している[1]

ドイツ語で nestle は「鳥の巣」を意味する。「鳥の巣」が同社のトレードマークとなっているのはそのためである[2]

沿革

アルプスの鳥

1915年当時の広告

1866年に設立。創業者で薬剤師アンリ・ネスレは、母乳で育つことのできない新生児のためにベビーフードFarine Lactée Henri Nestlé」を開発。母乳やそれまで一般的だった代替品も受け付けなかった早産児にも効果があったことで、瞬く間にヨーロッパで広く販売されるようになった。1900年頃までにはアメリカイギリスドイツスペインで工場の稼働を開始している[3]

1905年にアングロスイス・コンデンスミルク・カンパニー(Anglo-Swiss Condensed Milk Company)と合併した。この対等合併は、クレディ・スイスとスイス・フランス銀行(現・HSBCホールディングス)の仲介で実現した[4]。クレディ・スイスのCEOは、アングロスイスの重役を兼ねていた。対等合併のため、実質的には1920年代まで組織の融合には至らなかった。

第一次世界大戦の影響で乳製品に関する公共事業の受注も始まり、大戦後には製品の生産高がそれまでの2倍以上にまで拡大した。一方で終戦後に公共事業の発注が減り、消費者の嗜好が再び生乳へ戻った[3]

経営の合理化や負債の縮小を進めたのち、1920年代にはチョコレートを新製品として広く展開。ネスレの第2の重要な商品となるまでに成長した[3]

戦う食品会社

第二次世界大戦下においては収益が2000万ドル(1938年)から600万ドル(1939年)に減じ、ラテンアメリカを中心とする開発途上国に新工場が造られた。皮肉にも戦争の影響でネスカフェ米軍の主要な飲料となった。1947年、調味料やスープを扱うマギーと合併した。1950年、食品業のクロス・アンド・ブラックウェルとも合併した。[3]

1963年、冷凍食品のフィンダス(Findus、現在は広域でJPモルガン・チェースなどがブランド保有)と合併。フィンダスは収益性の高い事業であったが、しかし旧三国同盟の支店はユニリーバとの共同事業にしてしまった[5]ジュネーヴのリビーズ(1971年)、クリーブランドのストーファーズ(1973年)とも合併して協業を進めていった[3]1974年にはロレアルの株式取得で多角化が始まり、1977年にはアルコン社(眼科用医薬品事業)の取得で食品産業とは別の業界への投機も始まった。他方、発展途上国における乳児用調製粉乳の販売手法が強引と問題視され、ネスレ・ボイコットを引き起こした[6]

ネスレ社の最終損益は伸び、1984年には新たな買収攻勢が始まり、1985年にはエバミルクを扱うアメリカの大企業カーネーション(Carnationフリスキーブランドでペットフード事業へ参入)を[3]、1988年にはイギリスの製菓会社Rowntree Companyを初めての敵対的買収で取得した。また、イタリアの食品会社であるペルジーナを買収し傘下とした。

ペリエ買収以降

ルーラ大統領も出席したブラジル工場の落成式(2007年)

1990年代前半はネスレ社には好都合なことが続いた。すなわち貿易障壁が撤廃され、世界市場における商圏が統合されたのである。おかげでネスレは1992年ペリエを買収し[5]、国際的な金融関係を安定させることができた。

1996年以降も企業買収は進んだ。その中にはサンペレグリノ社(ミネラルウォーター事業、1997年)、Spillers Petfoods社(1998年)、ピュリナ社(ペットケア・ペットフード事業、2002年)などが含まれる。北米では大規模な買収が2件2002年に行われており、6月にはアメリカでのアイスクリーム事業をDreyer's社と統合、8月には26億ドルでChef America社(冷凍スナック事業)を買収したと発表した[3]2005年12月にはギリシャのデルタ・アイスクリーム社を2億4000万ユーロで買収。2006年1月にはDreyer's社の経営権を完全に取得、世界で17.5%のシェアを占める最大のアイスクリームメーカーとなった。2007年4月、ノバルティスの傘下で、アメリカのヘルスケアニュートリション事業を扱っていたガーバー(Gerber)を買収した[7]

2010年1月、世界金融危機で弱体化したクラフトフーヅから冷凍ピザ事業を買収[8]2012年4月、ファイザーのベビーフード部門であったWyeth nutritionを買収[9]2013年2月、医療用食品を扱うアメリカのPumlabを買収した[10]2017年9月、アメリカのコーヒーチェーンのブルーボトルコーヒーを買収し傘下とし[11]、同年12月、カナダの栄養補助食品会社アトリウム・イノベーションズを買収し、ヘルスケア食品部門に併合することを発表した[12]米国法人の本社が立地するカリフォルニア州グレンデール市はネスレの企業城下町である。ネスレが本社を置くスイス、レマン湖畔の町ヴヴェイでは、創業150周年を記念して2016年6月に新ミュージアム「ネスト」がオープン。ネスレ社の足跡をはじめ、食に関する様々な展示がされている[13]

2020年代

2022年ロシアのウクライナ侵攻が始まると、欧州では官民そろってロシアとの事業を見直すなどの経済制裁が行われるようになった。そうした中、ネスレはロシア国内における事業の見直しを行わなかったため、同年3月18日にはウクライナの大統領ウォロディミル・ゼレンスキー直接非難すると[14]これに呼応してツイッターではネスレを批難する風潮が高まった。ネスレは「従業員の雇用に対する責任がある」として現地工場の稼働を続ける意思を表明したものの、同月末までにチョコレート菓子などの商品の大半を販売停止にする措置を余儀なくされた[15]

2022年10月19日、シアトルズベストコーヒーをスターバックスから買収すると発表した[16]

事業

Yahoo!ファイナンスによると2017年12月現在ネスレには、スイス・フラン建て銘柄でヴァンガード(The Vanguard Group)の上場投資信託Iシェアーズが、USドル建て銘柄でガードナー・ルッソ(Gardner Russo & Gardner LLC)やワシントン・ミューチュアルが、それぞれ機関投資家として資本参加している。大衆貯蓄がネスレの買収力を支えている。

経営管理

2005年ごろのネスレ理事会メンバーは、ギュンター・ブローベル・Peter Böckli・ダニエル・ボレル・Peter Brabeck-Letmathe・Rolf Hänggi・出井伸之・Andreas Koopmann・アンドレ・クデルスキ・Jean Pierre Meyers・Carolina Müller-Möhl・カスパー・フィリガーである。このうちPeter Brabeck-Letmatheは取締役・最高経営責任者を務めている。[17]

また、「重役会議」は「理事会」と違い、以下の人物を含む。

  • Cario Donati 取締役、副社長、ネスレウォーターズ最高経営責任者
  • Frits van Dijk アジア・オセアニア・アフリカ・中東地域副社長
  • Ed Marra 経営戦略部門・販売部門副社長
  • Francisco Castañer 薬品・化粧品部門、人事部門、対ロレアル社連絡部門副社長
  • Paul Bulcke 南北アメリカ地域副社長
  • Paul Polman 金融部門副社長
  • Chris Johnson 情報システム・事業実務代表副社長
  • Lars Olorsson ヨーロッパ地域副社長
  • Luis Cantarell 栄養学経営戦略部門代表副社長
  • Werner J. Bauer 研究・開発部門副社長

ネスレ理事会の最新メンバーは、Günter Blobel・Peter Böckli・Daniel Borel・Peter Brabeck-Letmathe・Rolf Hänggi・Nobuyuki Idei・Andreas Koopmann・Andre Kudelski・Jean Pierre Meyers・Carolina Müller-Möhl・Kaspar Villigerである。

株式保有、合弁事業

ネスレは美容、化粧品業界で世界を代表するロレアル社の株式の23.3%を保有している[18]Laboratoires Inneov 社ガルデルマ社(Galderma)は、両社の合弁企業であり、前者は美容サプリメントを扱い、後者はスキンケア商品や塗り薬を扱っている。そのほかに、シリアル・パートナーズ・ワールドワイド社(Cereal Partners Worldwide、General Mills社と合弁)、ビバレッジ・パートナーズ・ワールドワイド社(Beverage Partners Worldwide、コカ・コーラ社と合弁)、デイリー・パートナーズ・アメリカズ社(Dairy Partners Americas、Fonterra社と合弁)がある。

主な取り扱い品目

脚注

  1. よくある質問”. ネスレ日本. 2017年1月1日閲覧。
  2. ネスレ日本 企業情報
  3. Yordanka Chobanova, Strategies of Multinationals in Central and Eastern Europe, Springer, 2009, pp.58-59.
  4. 津田康英 ネスレの生成と国際化 奈良県立商科大学研究季報 7(4), 65, 1997-07-10
  5. International Directory of Company Histories, vol.148.
  6. Gavin Fridell, Fair Trade Coffee: The Prospects and Pitfalls of Market-driven Social Justice, University of Toronto Press, 2007, p.238.
  7. Nestle to acquire Gerber from Novartis for $5.5bln (英語). Market Watch (2007年4月12日). 2017年1月1日閲覧。
  8. Nestle buys Kraft pizza business for $3.7 billion (英語). ロイター (2010年1月5日). 2017年1月1日閲覧。
  9. Nestle to Buy Pfizer’s Infant Nutrition Unit for $11.9 Billion (英語). ニューヨーク・タイムズ (2012年4月23日). 2017年1月1日閲覧。
  10. Nestle Buys US Medical Nutrition Company Pamlab (英語). Industry Week (2013年2月26日). 2017年1月1日閲覧。
  11. ネスレ、ブルーボトルコーヒーを買収 独立子会社として運営へ”. IT Media (2017年9月15日). 2017年9月16日閲覧。
  12. 食品大手ネスレ、加サプリメント会社を買収”. 日本経済新聞 (2017年12月6日). 2017年12月7日閲覧。
  13. スイス政府観光局ニュース (2016年6月4日). 2017年1月1日閲覧。
  14. スイス企業はロシア事業継続と非難 ウクライナ大統領”. AFP (2022年3月20日). 2022年3月31日閲覧。
  15. ネスレを名指し批判のゼレンスキー氏、ネットには「我が家に不要」…対応に苦慮する多国籍企業”. 読売新聞 ON LINE (2022年3月31日). 2022年3月31日閲覧。
  16. “ネスレ「シアトルズベスト」買収”. 日本経済新聞. (2022年10月21日)
  17. LexisNexis Corporate Affiliations, LexisNexis Group, 2006, p.11.
  18. 仏ロレアル、ネスレから自社株8%買い戻しへ-約8400億円で”. ブルームバーグ (2014年2月12日). 2017年1月1日閲覧。

外部リンク

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