ケンブリッジ大学

ケンブリッジ大学(ケンブリッジだいがく、University of Cambridge)は、イギリス大学都市ケンブリッジに所在する総合大学であり、イギリス伝統のカレッジ制を特徴とする世界屈指の名門大学である。中世に創設されて以来、英語圏では「オックスブリッジ」として並び称される一方のオックスフォード大学同様に古い歴史をもち、アンシャン・ユニヴァシティーに属し[1]、また、欧州内の中世大学群に属する。国内大学ランキングでは主要3ランキングより国内1位に評価されており、入学難易度も最も高い。

ケンブリッジ大学
University of Cambridge
ケンブリッジ大学
ラテン語: Universitas Cantabrigiensis
モットー Hinc lucem et pocula sacra (ラテン語)
From here, light and sacred draughts(英語)
種別 古代の大学国立大学
設立年 1209年[1]
資金 £5.89 billion
教員数
6,645
職員数
3,178
学生総数 19,515
学部生 12,230
大学院生 7,285
所在地 イギリスの旗 イギリス
イングランドの旗 イングランドケンブリッジ
スクールカラー   ケンブリッジブルー
ラッセル・グループ
ヨーロッパ大学協会
G5 universities
Golden triangle
ヨーロッパ研究大学連盟
国際研究型大学連合
SES-5SES-5
公式サイト www.cam.ac.uk
紋章

ハーバード大学オックスフォード大学マサチューセッツ工科大学スタンフォード大学と共に世界トップ5大学として知られる。ケンブリッジ大学のノーベル賞受賞者の人数は100人以上、9人のチューリング賞受賞者を誇る。

概要

2019年のTimes Higher Education World University Rankingsで世界第2位と評価されるなど[2]ハーバード大学オックスフォード大学等と並び、各種の世界大学ランキングで常にトップレベルの優秀な大学として評価されており、公式のノーベル賞受賞者は121人(2023年5月現在)と、世界の大学・研究機関で最多(内、卒業生の受賞者は65人)である[3]。 公式サイトでは国公立大学(Public University)と紹介している。

法的根拠が国王の勅許状により設立された自治団体であること、大学財政審議会(UFC)を通じて国家から国庫補助金の配分を受けており、大学規模や文科・理科の配分比率がUFCにより決定されていること、法的性質が明らかに違うバッキンガム大学等の私立大学が近年新設されたことによる。ただし、自然発生的な創立の歴史や高度な大学自治、独自の財産と安定収入のあるカレッジの存在、日本でいう国公立大学とは解釈が異なる。

アメリカヨーロッパアジアアフリカ各国からの留学生も多い。2005年現在、EU外からの学生は3,000人を超え、日本からの留学生も毎年十数人~数十人規模となっている。研究者の交流も盛んで、日本からの在外訪問研究者も多い。

沿革

13世紀初頭に、町の人々と対立してオックスフォードから逃れてきた学者たちが、この町に住み着き、研究・教育活動を始めたのを起源とする中世大学である(大学としての公式な創立年度は1209年)。彼らの活動はやがて、イングランド国王の保護なども受けて発展をはじめ、現存する最古のカレッジ、Peterhouse(ピーターハウス)は1284年の創立。13世紀にはヴァチカンからストゥディウム・ゲネラーレの認定を受けている。アイザック・ニュートンチャールズ・ダーウィンジョン・メイナード・ケインズ等、近世以降の人類史において、社会の変革に大きく貢献した数々の著名人を輩出してきた。

特徴

カレッジ制

ケンブリッジ大学は、31のカレッジから成るカレッジ制を採る。カレッジは「学寮」とも訳され、全ての学生は学部生・大学院生を問わず、1つのカレッジに所属する。学部生の入学者選抜はカレッジ毎に行われ、一部の学科を除いてAレベル試験の成績の他に、面接試験で判定される。歴史的に見れば、カレッジは教師と学生が寝食を共にし、そこで共に学ぶという修道院の形態に由来している。19世紀の半ばまで、教員は英国国教会徒であること、および生涯独身であることなどが義務付けられていたが、大学改革により義務は緩和された。現在では国教会に限らず、プロテスタント系、カトリックのカレッジも存在している。各カレッジは代々固有の財産と安定収入を持ち、伝統的な資産はイギリス各地の荘園、農園であり、近年では株式の割合も増えている。カレッジの資産を管理・運用するフェローのことをバルサーと呼び、経済学者のケインズはケンブリッジ大学のキングス・カレッジのバルサーであった。

学部生の教育は、伝統的にはカレッジで教員と学生の1対1で行われていた。カレッジによるこうした指導を「チュートリアル」と呼び、チュートリアルを施す教員を「チューター」と呼ぶ。現在ではチューターは生活面で学生の面倒を見る教員を指す。ただし、「シニア・チューター (senior tutor)」と呼ばれるチューターのリーダーは、現在でも各カレッジにおける教育の最高責任者と見なされている。またオックスフォード大学、ダラム大学は、同種のカレッジ制を採用した大学であることから、大学間でカレッジ対抗のスポーツイベント、ドオックスブリッジが開催されている。

ケンブリッジ大学の一番学生人数の面で、ノーベル賞の受賞者数でも大きいコレッジはトリニティ・カレッジトリニティ・カレッジの現在、過去のノーベル賞受賞者の人数は34人。(トリニティ・イン・ジャパン・ソサエティ、トリニティ・カレッジ)

授業・研究活動

現在の授業はカレッジではなく、学部・学科が中心となって行われる。授業には2つの形態があり、1つは学部・学科の提供するもので多くの学生が集まって聴講する講義形式の授業、もう1つはカレッジの責任で行われる「スーパービジョン (supervision)」と呼ばれる個人または少人数形式の授業である。各カレッジには科目毎に学習指導教員 (Director of study) がおり、学習指導教員は学部・学科から推薦された教員・研究員・大学院博士課程の学生の中から、学生ひとりひとりに「スーパーバイザー (supervisor)」と呼ばれる指導教員を任命する。スーパービジョンでは文科系の場合、与えられた課題に対して小論文 (essay) を事前に提出し、その小論文について指導教官が添削したものを学生と議論しながら指導していくという形式を取ることが多い。

大学院生の教育には、研究科(学部・学科)が主に責任を担っている。大学院の入学者を選抜する権限は専門の研究科にあり、研究科からの入学許可を得た後に、属するカレッジが決定する。大学院においても修士課程や博士課程の初年度には講義が行われる場合が多いが、その勉学・研究活動の中心は指導教官とのスーパービジョンにある。学部生とは異なり、大学院のスーパービジョンは現在でも一対一の原則がほぼ貫かれている。また、スーパーバイザーの選択はカレッジの学習指導教員でなく、それぞれの研究科の責任で行われる。

学期

ケンブリッジ大学は、1学年を3つの学期に分けている。学則上、10月1日~12月19日をMichaelmas Term、1月5日~3月25日をLent Term、4月10日~6月18日をEaster Termと呼ばれている。このうち授業が行われる「フル・ターム (full term)」と呼ばれる期間は、各学期8週間である。学部と一部の大学院のコースの試験は、5月に一斉に行われる。この学部の試験と数学の修士の試験は、「トライポス (tripos)」と呼ばれる。日の長くなる6月には各カレッジ毎にメイ・ボール (May Ball) あるいはジューン・イベント (June Event) 等と呼ばれる園遊会のシーズンを迎える。大学院の場合は、6~7月に学年の終了するコースもある。

試験と入学基準

受験に際しては、通常の試験による。外国人の場合は、IELTS(英国英語検定試験)の受験が義務付けられている。入学基準において、GPA3.70以上に加え(大学院博士課程は大学院の修士号GPA3.70)、IELTS7.5以上、またはTOEFL PBT620点以上(IBT110点以上)が必須。博士号を進むにあたっては職歴も問われ、大学院の修士課程でのGPAの成績が問われる。

学生生活

ケンブリッジ大学には、他の大学とは異なる慣習やルールが多数存在していた。かつては大学の自治警察に町内の警察権が与えられ、その他にワインや食料を独占的に販売する特権、近傍の市場の度量衡などの監督権[4]、学生がカレッジの外に出る際にはガウンを着用する義務などがあった。それらは数百年にわたる大学改革によって徐々に姿を消してきたが、中世由来の慣習の一部は現在でも存在している。例えば授業期間中は大学教会であるセント・メアリー教会から2マイル以内に居住しなければならないこと、カレッジごとに「フォーマル・ホール (formal hall)」と呼ばれる晩餐会が設けられていること、所属するカレッジのフォーマル・ホールにおいてはガウンを着用することなどである。

ケンブリッジの学寮には「犬の飼育は禁止だが、猫は構わない」というルールがあり、女子寮を含む複数の学寮で猫が飼われている。[5]

オックスフォード大学との関係

オックスフォード大学とは強いライバル関係にあり、両大学合わせて、「オックスブリッジ」と呼ばれる。両校の間では、スポーツなど各種の親善試合が頻繁に行われる。中でもとりわけ有名なのは、毎年春にロンドンテムズ川で行われるボートレースレガッタ)である。両大学は、互いに「あちら(the other place, another universityなど)」と呼び合うだけでなく、パントと呼ばれる舟遊びでも逆方向から漕ぐ徹底振りである。

市内中心部を諸カレッジの壁面が覆うことよりオックスフォード大学が「大学の中に町がある」と言われるのに対し、大学都市である、ケンブリッジ市内中心部が明るく伸びやかな雰囲気のあるケンブリッジ大学はよく「町の中に大学がある」と称される[6]

カレッジ一覧

盾章 スカーフ・カラー カレッジ 設立年 学部生数 院生数 サイト
                     
クライスツ・カレッジ Christ's College 1505年 395 95
                             
チャーチル・カレッジ Churchill College 1960年 440 210
                     
クレア・カレッジ Clare College 1326年 400 180
                             
クレア・ホール Clare Hall 1965年 0 135
                     
コーパス・クリスティ・カレッジ Corpus Christi College 1352年 250 150
                             
ダーウィン・カレッジ Darwin College 1964年 0 591
                 
ダウニング・カレッジ Downing College 1800年 409 292
           
エマニュエル・カレッジ Emmanuel College 1584年 494 98
                     
フィッツウィリアム・カレッジ Fitzwilliam College 1966年 474 180
                             
ガートン・カレッジ Girton College 1869年 503 201
       
ゴンヴィル・アンド・キーズ・カレッジ Gonville and Caius College 1348年 468 291
                     
ホマトン・カレッジ Homerton College 1976年 550 500
             
ヒューズ・ホール Hughes Hall 1885年 39 314
     
ジーザス・カレッジ Jesus College 1496年 503 237
                     
キングス・カレッジ King's College 1441年 397 239
                                   
ルーシー・キャベンディッシュ・カレッジ Lucy Cavendish College 1965年 106*† 116*
                     
モードリン・カレッジ Magdalene College 1428年 335 169
                             
マレー・エドワーズ・カレッジ Murray Edwards College 1954年 377* 74*
                     
ニューナム・カレッジ Newnham College 1871年 396* 120*
                     
ペンブルック・カレッジ Pembroke College 1347年 ~420 194
       
ピーターハウス Peterhouse 1284年 270 125
                     
クイーンズ・カレッジ Queens' College 1448年 490 270
                 
ロビンソン・カレッジ Robinson College 1977年 390 96
                     
セント・キャサリンズ・カレッジ St Catharine's College 1473年 436 165
                                 
セント・エドムンズ・カレッジ St Edmund's College 1896年 100 200
                             
セント・ジョンズ・カレッジ St John's College 1511年 570 340
                             
セルウィン・カレッジ Selwyn College 1882年 360 140
   
シドニー・サセックス・カレッジ Sidney Sussex College 1596年 338 181
                     
トリニティ・カレッジ Trinity College 1546年 656 380
                     
トリニティ・ホール Trinity Hall 1350年 364 241
                             
ウルフソン・カレッジ Wolfson College 1965年 90 510
ノート
* – 女子学生のみ
– 21歳以上の学生のみ

他にウエストミンスター・カレッジや Ridley Hall Theological Collegeなどの Cambridge Theological Federationと提携する神学校がある

以前存在したカレッジ

今は存在しないカレッジで代表的なもの:

参照

学べる分野

31のカレッジに加え、150以上の学部、学科、スクール、シンジケート、その他の機関によって構成されている。これらのメンバーは通常いずれかのカレッジのメンバーでもあり、大学の学術プログラム全体を運営する責任は、これらのメンバーに分担されている。

また、大学には生涯教育を専門に行う部門、インスティテュート・オブ・コンティニュイング・エデュケーションがあり、主にケンブリッジシャーにある16世紀のマナーハウス、マディングリーホールに拠点を置いている。そのプログラムは、学部のサーティフィケートからパートタイムの修士号まで多岐にわたる。

ケンブリッジ大学における「スクール」とは、関連する学部やその他の単位からなる広範な管理上のグループである。各スクールには、構成組織の代表からなる選出された監督機関(「評議会」)がある。以下の6つのスクールがある。

  • 人文科学
  • 生物科学
  • 臨床医学
  • 社会科学
  • 物理科学
  • 技術

人文科学

  • 文学・文化・歴史
  • 言語学・通訳・翻訳

教育

  • 教育:TESOL

芸術

  • 音楽

社会科学

  • 経済
  • 経営・ビジネス
  • サステナビリティ・リーダーシップ
  • 法律
  • 開発・平和
  • 国際関係・政治

理工

  • 建築・都市計画
  • 理学
  • 工学
  • IT/コンピューター

医学

  • 看護・医療・薬学

芸術科学

  • アングロサクソン、北欧とケルト
  • 考古学と人類学
  • アーキテクチャ
  • アジアや中東研究
  • クラシック
  • 経済学
  • 教育
  • 英語
  • 地理
  • 歴史
  • 美術史
  • 土地経済
  • 法律
  • 言語学
  • 経営学
  • 現代と中世の言語
  • フランス語
  • ドイツ語
  • イタリア語
  • ポルトガル語
  • ロシア語
  • スペイン語
  • 音楽
  • 哲学
  • 政治、心理学と社会学
  • 神学と宗教学
  • 化学工学
  • コンピュータサイエンス
  • エンジニアリング
  • 製造エンジニアリング
  • 数学
  • 医学
  • 医学(A100)コース
  • 大学院医学(A101)コース
  • 自然科学
  • 天体物理学
  • 生化学
  • 生物学と生命医科学
  • 化学
  • 遺伝学
  • 地質科学
  • 科学の歴史と哲学
  • 材質科学
  • 神経科学
  • 病理
  • 薬理学
  • 物理科学
  • 物理学
  • 生理学、開発と神経科学
  • 植物科学研究
  • 心理学
  • システム生物学
  • 動物学
  • 獣医学

教員、著名な卒業生等

出典

  1. About the University (英語). University of Cambridge. 2016年2月10日閲覧。
  2. World University Rankings (英語). Times Higher Education (THE) (2018年9月26日). 2019年2月15日閲覧。
  3. https://www.cam.ac.uk/research/research-at-cambridge/nobel-prize
  4. コルネリウス・ウォルフォード 『市の社会史』 中村勝訳、そしえて、1984年。 p.111
  5. トニー・イェンドレイ&志村博「Cambridge Cats ケンブリッジの誇り高き猫たち」『SINRA 1998年7月号』新潮社、1998年、pp114-117。
  6. 『地球の歩き方 イギリス 1999~2000年版』ダイヤモンド・ビッグ社 p.234.

参考文献

  • Japanese Students at Cambridge University in the Meiji Era, 1868-1912: Pioneers for the Modernization of Japan (Lulu Press, September 2004, ISBN 1-4116-1256-6)

関連項目

授与する賞

外部リンク

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