JR九州815系電車

815系電車(815けいでんしゃ)は、九州旅客鉄道(JR九州)の交流近郊形電車

JR九州815系電車
2両編成で運用される815系電車
(崇城大学前駅 - 上熊本駅間)
基本情報
運用者 九州旅客鉄道
製造所 日立製作所笠戸事業所
九州旅客鉄道小倉工場
製造年 1999年
製造数 26編成52両
主要諸元
編成 2両編成
軌間 1,067 mm (狭軌
電気方式 交流20,000V 60Hz
架空電車線方式
最高運転速度 120 km/h
設計最高速度 120 km/h
起動加速度 2.63 km/h/s[1]
減速度(常用) 4.2km/h/s[1]
減速度(非常) 4.2km/h/s[1]
編成定員 177人(立席)+ 94人(座席)= 271人
自重 クモハ815形33.0t
クハ814形26.0t
編成重量 59.0 t
全長 20,000 mm
全幅 2,950 mm
全高 3,680 mm
車体 アルミニウム合金A-train
主電動機 かご形三相誘導電動機
主電動機出力 150 kW
駆動方式 TD継手式中実軸平行カルダン駆動方式
編成出力 150kW×4 = 600 kW
制御方式 IGBT素子VVVFインバータ制御+PWMコンバータ
制動装置 回生ブレーキ純電気式)併用電気指令式空気ブレーキ
保安装置 ATS-SKATS-DK、EB装置、防護無線

概要

ワンマン運転と、朝夕のラッシュ時間帯と日中との間で乗客の需要変動が大きいエリアでの運用に対応できる車両として開発された[2]

1999年平成11年)10月1日豊肥本線熊本駅 - 肥後大津駅)の電化開業にあわせて営業運転を開始し、その後423系および457系・475系の置き換えのため鹿児島本線熊本地区・日豊本線大分地区に投入された[3]

JRグループでは初めて日立製作所A-trainシステムを用いて製造された車両である。運転台や先頭部、座席などを予め製作しておき、それを車体に接合していくというプレハブ的な工法で製作された[2]。デザインは他のJR九州車両と同様に水戸岡鋭治が手掛けている[4]

N001 - N026の2両編成26本(52両)が製造され、N026編成のみ小倉工場が製造を担当した[5]

2001年(平成13年)、グッドデザイン賞およびブルネル賞・近距離旅客列車部門で国際賞を受賞した[4][6]

車両概説

車体

A-trainシステムの特徴の一つである摩擦撹拌方式 (FSW) により製造されたダブルスキン構造アルミ合金車体であり[7]、車重は813系より約13パーセント軽量化している[2]。前面部は鋼製であり[7]、車体との間に生じた結合部にスリット状のフィンを貼ることによりデザイン面で違和感のないように施されている[8]。前照灯のデザインはカシオの腕時計・G-SHOCKがモチーフとされた[9]

車体は全長20メートルで、片側3箇所に両開き扉が設置されている[2]。客室側窓は、扉間に1枚の固定式大窓を設けている[8]。車端部の窓も固定式であり、開閉可能な客用窓はない。窓ガラスUVカットガラスを採用し、カーテンは省略された[2]。床面高さは1125 mmであり、813系よりも10 mm低くなっている[7]。平床構造でステップはない[7]

前面部中央に貫通扉を設け、半自動幌装置を装備し[7]、電気連結器・自動解結機能付密着連結器を装着している[2]。これにより811系、813系[10]、817系、BEC819系、821系との併結が可能となっている。このうち、813系、817系、BEC819系、821系とは、貫通幌を使用することで編成間貫通とすることが可能である。貫通扉には膨脹性のシールゴムが使用されている[2]

塗装については前面部がシルバーメタリックを基本に縁が赤く塗装され、前照灯は黒に塗装されている[11]。車体は無塗装であり、側扉も赤に塗装されている[8]。なお、2012年3月25日より順次車体に銀色塗装が施されている[12][13][14]

行先表示器は字幕式で、種別・行先の2連タイプである。側面表示器の駅名表記は、前2系列と同様に白地に黒文字で日本語と英語の並記だが、設置箇所は第4エンド端の1箇所で、編成単位での片側面では1箇所に集約された[11]。また、正面の表示器もキハ200系と同様に列車種別表示器が設置されるとともに、黒地に白文字の駅名表記も日英並記となった。

製造当時は前照灯が電球であったが、熊本車両センター所属の編成のみLED化された。

内装

室内は車体に合わせてアルミニウムの無垢材を使用しており[7]、クリア塗装が施されている[8]。平床構造でステップ部も含め段差はない[7]。床面高さは1115 mmで813系よりも10 mm低くなっている[7]。妻壁部に収納されていた配電盤の機器類のうち、必要性の低い機器は床下の配電箱に集約し点検蓋をなくしたため、貫通路幅は従来車の820 mmより広がり1000 mmとなった[7]。車両間の仕切り扉は廃されている[7]。運転室、トイレと車内側の乗降扉は黄色に塗装されている[8]。床面はブルーグレーを基調に四角い黒点柄と黒いストライプ状の柄を配したデザインの床材であり、汚れが目立たないようにされている[8]。清掃を容易とするため床材は側壁まで巻き上げられている[8]

客室内の片側の乗降扉の上部に一行表示のLED式車内案内表示器が設置された[8]座席は、JR九州発足以降の新系列電車としては初の全席ロングシートであり、壁面に取り付けられている[11]。背もたれと座布団が一人分ずつ独立した形状で、各々が取り外せるようになっており、座席下部には電気式の暖房ヒーターが設置されている[8]。ヒーターにはセンサーが設けられ、空調装置内のマイコンにより自動で制御されている[8]

本系列では車内収受式ワンマン運転を行うため、運賃箱運賃表示器および整理券発行器を備えた[15]。ワンマン機器はキハ200系に搭載されているものをベースとしているが、本系列ではバス用の流用ではなく鉄道車両用に設計の見直されたものを設置している[15]

クハ814形にはトイレユニットが設置されている。バリアフリー対応とし、ドアの開口幅は900 mm確保されている[11]。汚物処理装置は循環式、便器は洋式である[16]。床上に50 Lのタンクを搭載しており、自然落下による重力式で手洗い器へ給水される[17]

運転室ユニットは片側構造で、背面は曲面ガラスで構成されている[11]。助士側は上部が開放されており、通路寄りにワンマン運転用のミラーを設置している[17]。その後ろにゴミ箱が設置されている[11]

室内の機器配置は813系をベースとしながら[18]、運転台の主幹制御器は、JR九州の電車では初めてワンハンドル式が採用された[16]。力行は5段、常用ブレーキは7段刻みで制御する[17]。ワンマン運転を行うことから乗降促進放送を搭載している[15]。また、ドアスイッチやマイクジャックなどワンマン運転用の機器類も収められている[17]乗務員支援モニタは、813系と同等のものが採用されているが、使い勝手が良くなるように改善されており、検修用画面には積算電力の設定や空ノッチ関連の表示が、車掌用の画面には空調設定画面が追加されており冷暖房の切り換えと車内の温度設定を行える[15]

機器類

TR404K台車

台車は軽量ボルスタレス台車のDT404K(電動車)、TR404K(制御車)で、低床化を図るため車輪には810 mm径の小径車輪が採用された[8]。在来車の813系に装着されているヨーダンパは省略され、準備工事に留まっている[11]

制御方式は、JR九州では初めて交流回生付きPWMコンバータ+VVVFインバータ方式を採用した[7][16]。また、インバータ素子にはIGBT素子 (3300 V/1200 A) が採用された[17]。これも同社の電車では初採用である[3]。主変換装置はPWMコンバータ+VVVFインバータを一体化したCI装置が搭載されている[17]。主変圧器は2次1巻線・3次1巻線方式で、保守費用を低減するため自冷式の油冷却器を採用した[10]。3次巻線より空気圧縮機、車内の空調装置、暖房ヒーターへ電源を供給している[16]

ブレーキ装置は応荷重機能付き回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキを搭載する[16]。回生ブレーキ時のセクション通過対策として小型のブレーキチョッパを内蔵したことにより回生ブレーキ中でもセクション通過を可能にしている[16]。部品の共通化を目的として、付随台車ではユニットブレーキを採用し、ディスクブレーキは省略された[8]。車両重量の関係で、電動台車と付随台車ではシリンダ径とてこ比が異なる[10]。ブレーキ受量器はT車遅れ込め制御方式を採用している[15]。ブレーキ受量器はクモハ815形に設置されており、クモハ815形とクハ814形の常用ブレーキを制御している[18]

主電動機はコスト低減を理由に813系に搭載されているMT401K形と機能・取付け互換を持った1時間定格出力150 kW有する三相かご形誘導電動機のMT401KA形を搭載している[16][17]。駆動装置はTD平行カルダン方式であり[17]、歯数比は1:6.5である[16]。主電動機と歯車装置を繋ぐ継手はC-FRP製のたわみ板の改良品が採用されている[8]。床下の主回路機器は低騒音・低保守化を図るため、主電動機を除き完全ブロアレスとなっている[7]

補助電源装置は813系に搭載している装置から容量が見直され、3両対応から2両対応となった[15]。故障時は、マスコン内のリセットスイッチで一括リセットができるようになっている[15]

その他にも定速抑速制御機能、力行・回生ピークカット機能、空転・滑走制御機能などの機能が搭載されている[16]

パンタグラフはJR九州の電車として、初めてシングルアーム式が採用された[8]

保安装置は、登場時はATS-SK形を搭載した[16]。後に2015年6月までに全てATS-DKに換装され、運転台上に取付られた[13]。その他にも乗務員無線、防護無線、EB装置を搭載する[16]

空調装置は、42,000 kcalの能力を持つ集中式の装置を屋根上に設置している[17]。本形列の開発当時、技術の進歩と凡用インバータの低価格化により安価で高機能な空調装置が開発可能になっていた事から、インバータ制御方式の空調装置を開発し搭載した[8]。暖房容量はクモハ815形が14.5 kW、クハ814形が13.2 kW有する[17]

消費電力は、415系のおよそ58 %程度である[19]

形式・編成

クモハ815-13
クモハ815形(Mc:1 - 14、16 - 27)
上り方制御電動車。パンタグラフ、主変圧器、主変換装置などの主回路装置およびブレーキ受量器を搭載する[16][15]。定員138名[16]
クハ814-4
クハ814形(T'c:1 - 14、16 - 27)[バリアフリー対応車両]
下り方制御付随車。空気圧縮機、蓄電池[17]および補助電源を備える[10]。後位側にトイレ、給水装置[17]および車椅子スペースを備える[15]。定員133名[16]
編成番号
鳥栖・中津
八代・佐伯
クモハ815形
(Mc)
クハ814形
(Tc)
N001 - 014・016 - 027 0番台0番台

全編成とも熊本側からクモハ815形 (Mc) - クハ814形 (T'c) の2両で組成されている[7]車両番号は編成ごとに同じ番号で揃えられ、編成自体にも「Nxxx」の編成番号が与えられている。「N」は815系であることを示し、「xxx」は車両の製造番号に対応している。

車両前面に表示される編成番号は「Nxxx」だが、正式な編成番号は熊本配置車は「NTxxx」、大分配置車は「NOxxx」である。

運用

2015年現在の運用区間は、以下の通りである[20]

熊本車両センター所属車

フレスタくまもとラッピングトレイン

1999年10月1日のダイヤ改正に併せて、熊本運転所(現・熊本鉄道事業部熊本車両センター)にN001 - N017編成の17本が配置された[5]。このうちN007 - N010編成は豊肥本線高速鉄道保有株式会社が所有していたが、2015年度にJR九州が買い取った[21]。同時に、2両編成単独運転時は車内収受式ワンマン運転を実施するようになった。N015編成は2000年(平成12年)2月にN027に改番されている[12]

配置当初、運用線区は鹿児島本線銀水 - 八代間および豊肥本線熊本 - 肥後大津間が中心で、朝1本下りのみ鳥栖始発の運用があった。

2005年(平成17年)3月1日のダイヤ改正により、N016編成およびN017編成が大分鉄道事業部大分運輸センター(当時)に転出し、代わりに大分に配置されていた817系V012編成およびV013編成が当センターに転入した。また、同改正で鳥栖 - 銀水間でのワンマン運転が開始されたことから、熊本地区だけでなく、北部九州地域本社管内(現在は本社鉄道事業本部管内)でも常時運用されるようになった。これに伴い、南福岡電車区の運転士も本系列の乗務を担当するように改められた。更に、この改正で当センターに転入してきた817系も、同区間で使用されるようになったが、同系とは運用が分離されている。ただし、互いに代走することがあるほか、同系との併結運用もある。2012年(平成24年)3月17日のダイヤ改正より、当センターの817系が博多 - 鳥栖間にも乗り入れるため、代走で乗り入れることがある。

717系900番台が1編成当センターに在籍していた時期(2004年3月 - 2007年3月)は、本系列が代走に充当されていた。

2006年(平成18年)3月のダイヤ改正で、ワンマン運転が駅収受式に改められたため、運賃箱や整理券発行器を使用しなくなった(運賃表示器の駅名表示のみ使用)。

営業運転に先立ち、1999年5月27日にN001編成は813系RM227編成と併結試運転を行い、長崎本線の肥前鹿島まで入線している[22]

2016年3月にはN027編成が大分車両センターへ転出しており、2022年10月1日現在、NT001 - NT014編成の14本計28両が配置されている[23]

大分車両センター所属車

熊本配置の17本と同時に、大分鉄道事業部大分運輸センター(現・大分鉄道事業部大分車両センター、略号「分オイ」)にも、N018 - N026編成の計9本が配置された[5]

運用区間は前述のとおりだが、中津 - 佐伯間の運用が主体となっている。2009年3月14日のダイヤ改正により、中津 - 柳ヶ浦間でのワンマン運転が開始され、この区間でも815系電車2両編成で運用されるようになった。一方で大分地区での列車車両数が不足するようになり811系電車が大分地区でも運用がされるようになったが、415系の転属等により1年程度で解消された。815系電車の大部分がワンマン運転を実施している。2018年3月17日のダイヤ改正から佐伯 - 重岡間での運用が開始された。

2005年3月に、熊本からN016およびN017編成[5]が、2016年3月にN027が転入したことにより、N016 - N027の12本配置となった。

2006年3月の改正より、大分地区でもワンマン運転が駅収受式に改められた。ただし、上岡 - 重岡間では運用開始時より、佐志生 - 佐伯間では2022年9月23日のダイヤ改正以降車内収受式のワンマン運転を行う。また、2022年9月23日以降、ワンマン運転の拡大に伴い本系列を2編成併結した4両編成での運用は車外確認カメラが設置された編成に限定されたことから本系列の運用が減少しており、それを補う形で813系ワンマン運転対応編成が宇佐 - 佐伯間で定期運用を開始している[24]

N018編成の運転台の後ろ(上り方向)にブルネル賞受賞プレートが掲出されている。

2017年、台風18号による臼杵 - 津久見間不通に伴い、これまで815系の入線実績がない佐伯以南にN025編成が入線し、鹿児島車両センターまでの走行実績がある[25]

2022年10月1日現在、No016 - No027編成の12本計24両が配置されている[26]

出典

  1. 日本鉄道車輌工業会「車両技術」219号(2000年3月)「JR九州815系近郊形交流電車」記事。
  2. 鉄道ジャーナル, p. 84.
  3. 普通列車年鑑, p. 104.
  4. 電車[815系]”. GOOD DESIGN AWARD. 2015年8月25日閲覧。
  5. 鉄道ダイヤ情報, p. 26.
  6. 主なデザイン関連受賞歴”. 九州旅客鉄道. 2015年8月25日閲覧。
  7. 鉄道ファン9月号, p. 59.
  8. 鉄道ファン9月号, p. 60.
  9. 水戸岡鋭治『鉄道デザインの心 世にないものをつくる闘い』日経BP社、2015年6月、109頁。
  10. 鉄道ファン9月号, p. 58.
  11. 鉄道ジャーナル, p. 85.
  12. 鉄道ダイヤ情報, p. 27.
  13. JR電車編成表, p. 226.
  14. JR電車編成表, p. 229.
  15. 鉄道ファン9月号, p. 62.
  16. 鉄道ファン9月号, p. 61.
  17. 鉄道ジャーナル, p. 87.
  18. 鉄道ジャーナル, p. 86.
  19. 九州を走るエコ車両(JR九州 環境報告書2017)-九州旅客鉄道(2017年10月1日、10月2日にオリジナルをアーカイブ化。)
  20. 普通列車年鑑, p. 147 - 148.
  21. JR九州 ファクトシート2018”. 2018年10月17日閲覧。
  22. 鉄道ファン9月号, 5/27,815系+813系併結試運転.
  23. ジェー・アール・アール編『JR電車編成表』2023冬 交通新聞社、2022年、p.223。ISBN 9784330067223。
  24. 『鉄道ファン』2022年12月号(通巻740号)、交友社、53頁。
  25. 815系NO-25編成が鹿児島へ”. 鉄道ファン railf.jp. 交友社 (2017年10月19日). 2020年3月23日閲覧。
  26. ジェー・アール・アール編『JR電車編成表』2023冬 交通新聞社、2022年、p.220。ISBN 9784330067223。

参考文献

  • 『鉄道ファン』第39巻第9号、交友社、1999年9月。
  • 『鉄道ジャーナル』第369号、鉄道ジャーナル社、1999年9月。
  • 『鉄道ダイヤ情報』第346号、交通新聞社、2013年2月。
  • 『普通列車年鑑 2015-2016』、イカロス出版、2015年8月、ISBN 978-4-8022-0030-1。
  • 『JR車両編成表 2017冬』、交通新聞社、2016年11月、ISBN 978-4-330-73716-4。
  • 日本鉄道車輌工業会「車両技術」219号「JR九州815系近郊形交流電車」

関連項目

This article is issued from Wikipedia. The text is licensed under Creative Commons - Attribution - Sharealike. Additional terms may apply for the media files.