非接触型決済
非接触型決済(ひせっしょくがたけっさい)は、決済(電子決済)の方式のうち、非接触ICを搭載したカード(ICカード)・携帯電話・ウェアラブルコンピュータと、店舗などの決済端末との間を無線通信して決済する仕組みである[1][2][3]。本項目ではいわゆる「タッチ決済」[4]について記述する。
- もうひとつの非接触方式であるQRコードを利用したものについてはQRコード決済を参照。
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概要
インストア・キャッシュレス決済の一種であり、非接触IC(NFC、FeliCa、RFIDなど)の技術を利用する[5]。
EMVコンタクトレス決済方式
NFCかつEMVに準拠する非接触決済は、「コンタクトレス決済」(Contactless Payment)」と呼ばれ[5]、世界標準として各国で少額のクレジットカード対面決済として普及が進んでいる[注釈 1]。なお日本ではこれを「タッチ決済」と呼ぶことも多い[注釈 2]。
- Visa payWave[注釈 3] (Visa)
- Mastercard Paypass[注釈 4] (Mastercard)
- JCB Contactless(ジェーシービー)
- American Express Contactless (American Express)
- D-PAS(Discover・Diners Culb)
- ダイナースクラブ コンタクトレス(三井住友トラストクラブ)[注釈 5]
- UnionPay QuickPass (銀聯)[注釈 6]
普及が進んだ国では、クレジットカード対面決済(少額)の大半は、このコンタクトレス決済で行われている。
- オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、台湾、ロシア、ポーランド、チェコ、ハンガリー、スロベニア、ルーマニア、ジョージア、ギリシャ、スペイン、ほか
また世界の都市の公共交通機関で、このコンタクトレス決済による乗車方式の採用が始まっている。
- ロンドン、シンガポール、ニューヨーク、台北、シドニー、バンクーバー、ブリュッセル、ストックホルム、ほか
店頭・改札入場機などに、対応クレジットカードとコンタクトレス決済のシンボルが掲示されている[注釈 7]。
日本
日本では、後述するFeliCa方式が多数を占める為、非接触リーダー更新のタイミングでコンタクトレス決済対応機器を設置するケースが多く、大手のコンビニエンスストア・総合スーパーなどを皮切りに採用が進みつつある[注釈 8][注釈 9]。
FeliCa方式
FeliCa方式は日本のソニーで開発された。日本では、交通・店舗で比較的普及している。
ただし世界での普及は少数である。またそれまでFeliCa方式を採用していた都市で、「EMVコンタクトレス決済」方式への転換も起きている(ロンドン、香港、シンガポールなど)。
非接触決済の利用
資金決済の分野で非接触型決済が進むことをコンタクトレス(非接触)化という[6]。
各国の非接触決済
日本
- 前払 楽天Edy:1億3,900万枚 (7.6%)
- 前払 WAON:8,801万枚 (6.5%)
- 前払 Suica:8,501万枚 (4.2%)交
- 前払 nanaco:7,366万枚 (3.9%)
- 後払 iD:4,688万枚 (11.3%)
- 前払 PASMO:4,024万枚 (1.7%)交
- 前払 ICOCA:2,518万枚 (4.9%)交
- 後払 QUICPay:1,861万枚 (9.8%)
- 前払 majica:1,440万枚 (31.3%)
- 前払 manaca:763.9万枚 (5.4%)交
- 前払 nimoca:461万枚 (6.7%)交
- 前払 SUGOCA:345万枚 (7.5%)交
- 後払 PiTaPa:336万枚 (-0.9%)交
- 前払 TOICA:327万枚 (5.5%)交
- 前払 Kitaca:184万枚 (4.5%)交
- 前払 はやかけん:165万枚 (12.4%)交
- ※カッコ内は前年同月比(2021年7月末現在の発行枚数)。「交」は交通系ICカード。
歴史
日本での非接触決済の商用サービスは1996年6月に「としまえん」でICチップを内蔵した「キャッシュレスタグ」が開始されたのが最初である。
日本での非接触決済の草分け的存在は、楽天Edy(当時はビットワレット株式会社による「Edy」ブランドで開始)である。2001年1月にサービスを開始し、2006年5月時点で、累計1,790万枚(そのうち、おサイフケータイでの利用者は310万人)発行され、32,000店の利用可能店舗を擁するサービスとなった。楽天EdyにはFeliCaが使われており、クレジットカードや、キャッシュカード、全日本空輸と提携してのANAマイレージカードを代表とする各種のポイントカード・会員カード、社員証・学生証など各種の身分証明書などと一体化したタイプのカードの発行、おサイフケータイでのサービス提供などを行っている。
楽天Edyと双璧をなすのが、JR東日本が発行するSuicaである。楽天Edyと同様に2001年にサービスを開始し、2006年5月末時点で累計1,665万枚(そのうち、ショッピングサービスが可能なのは、1,263万枚)発行され、6,300店の利用可能店舗を確保した。
また、Suicaは楽天Edyと違い、鉄道・バスなどの交通機関を利用できるという利点を持つ。定期乗車券を搭載する事もできる。当初は首都圏、仙台周辺、新潟周辺だけでのサービスだったが、各地でも同様にICOCA等の交通系ICカードが誕生し、2007年3月にSuicaとPASMOの相互利用を開始[8]、2013年には交通系ICカード全国相互利用サービスにより全国で共通利用できるようになった。
SuicaとiDの共通端末の整備(2007年1月運用開始)[9]や、nanacoの端末での他の非接触決済の利用(2007年4月利用開始)[10]など交通系以外との相互利用も行われている。
課題
その非接触決済のサービスごとに使える店舗が分かれ相互に利用できない、個人経営の店やローカルチェーンなどで使えない店舗も多いことなどである。そのため、顧客側に、サービスと、そのサービスが使える店舗の組み合わせを把握させるという手間を強いている。
ただし非接触決済のサービスが並立していることは、顧客に短期的な不利益を与えている一方、サービス間での競争が積極的に行われることによって、より良いサービスを顧客は受ける事が出来るため、長期的には利益を与えているとも言える。(クレジットカードもサービス開始当初は端末などが相互利用できなかった)。
また日本国内では非接触決済の通信プロトコルとしてFeliCaが採用されることが多いが、国際的にはFeliCaの普及度は低いため、ガラパゴス化しているという指摘もある(詳しくはガラパゴス化#非接触ICカードを参照)。2015年秋に東大の学生にアンケートでは「おサイフケータイ」をまったく使わないと答えた者が96%だった。2016年にiPhoneにFeliCaが搭載されて以降も依然として、おサイフケータイは低調を維持している[11]。QR決済元年となった2019年には一年で利用率で抜かれている[12]。
香港
1997年、FeliCaを用いた交通系ICカードの八達通(オクトパス)の使用を開始。日本に先行してFeliCa技術を用いた[5]。その後、「EMVコンタクトレス決済」の方式へ転換した。
オーストラリア
オーストラリアでは「EMVコンタクトレス決済」が広く普及している[5]。コモンウェルス銀行など国内主要銀行は自社の発行するMasterCard・VisaブランドのカードをMasterCard PayPassおよびVisa payWaveで利用することを推進している。
モバイル決済での利用
フィーチャーフォン・ガラホ
フィーチャーフォンは、FeliCaを利用する決済に対応しているものが多い。
フィーチャーフォンのFeliCaを利用する決済は、おサイフケータイに対応している。従来のフィーチャーフォン(ガラケー)のほか、ガラホと呼ばれるフィーチャーフォンに類似するAndroid携帯電話にも装備されている。そのうえ、すでに楽天Edyが標準装備されているため、初期設定を行いチャージをすれば、すぐに利用することが出来る。また、NTTドコモは、902iSシリーズ以後、iDのNTTドコモでのサービスであるdカード(旧DCMX)のアプリが標準装備されており、dカード mini(旧DCMX mini)なら(簡易な審査が存在するが)初期設定を行えばすぐ利用できたが、2019年2月26日21時を以てiモードケータイのdカードのiD及びdカード miniを終了した[14]。
赤外線通信を利用する決済は、幾つかの実験やトライアルが行われたが、いずれも実用化には至らなかった。KDDIの CDMA 1X を利用する「Kei-Credit」のテストが2002年に、トライアルが2003年にそれぞれ行われた[15]。また、VisaのVISAッピが商用化試行まで行ったが、計画は止まり、Visaの携帯電話での非接触決済サービスはFeliCaを採用したVisa Touchを展開することになったが2014年6月末を以てモバイルサービスを終了し、「EMVコンタクトレス決済」を採用した Visa payWave(現在のVisaのタッチ決済)を展開することとなった。
スマートフォン
スマートフォンでは、NFC・Bluetoothを利用する決済に対応しているものが多い。FeliCaはiPhoneなど一部に搭載されている。
- FeliCa
- NFC (NFC Type-A/B、MIFARE)
- Google Pay[注釈 10]
- Apple Pay
- Samsung Pay
- Bluetooth
脚注
注釈
- ただし、高額取引を行う場合など、コンタクトレス決済の動作に失敗する場合には旧来の方法で行う必要がある。
- この理由はVisaによる翻訳から始まり、他社にも広がっているためである。
- 近年は専らVisaのタッチ決済と呼ばれている。
- 近年は専らMastercardコンタクトレスと呼ばれている。
- ダイナースコンタクトレスは規格自体はD-PASである。日本では基本的にJCBが取次。
- 銀聯は接触処理はEMVではなくPBOC仕様ではあるものの、非接触決済はEMV準拠である。QuickPassは日本国内ではおもに三井住友カードとJCBが取次。
- なお、店舗内の決済端末上のタッチ面にEMVコンタクトレス決済のシンボルが表示されていても、店舗としては対応していない場合もあり注意が必要である。
- ただし系列であっても未採用の場合があるので注意が必要である。
- また一部の地域では導入が進んでいる。例えば、「知られざるVisaのタッチ決済王国、石川県珠洲市 普及のワケ」
- Android 5.0以降の端末でNFC Type-A/B(MIFARE)に対応していれば、ハードウェア上はアクセス可能である。ただ、アクセス可能と言ってもカードとの無線通信に対応しているだけで、MIFAREほか非接触決済等におけるセキュリティ等の要件をハードウェアが満たしていなければ利用できない場合もある。
出典
- 高橋隆雄『センサーの基本と仕組み』2011年、52-53頁。
- 『非接触型端末』 - コトバンク
- 『非接触型ICカード』 - コトバンク
- スマホ非接触決済の利用率は8.7%、トップは「モバイルSuica」 - MMD研究所 | マイナビニュース
- “コンタクトレス決済とは?世界各国での普及状況まとめ”. ピピッとチョイス. 2018年11月4日閲覧。
- 中田真佐男「我が国における小額決済手段のイノベーションの現状と課題 (村本孜教授退任記念号)」『成城大学社会イノベーション研究』第12巻第1号、成城大学社会イノベーション学会、2017年2月、323-352頁、ISSN 1880-6414、CRID 1050282677566271744。
- 『月刊 消費者信用(2021年9月号)』金融財政事情研究会、2021年、31頁。
- 京浜急行電鉄|報道発表資料 - ウェイバックマシン(2008年3月9日アーカイブ分)
- 報道発表資料 : ケータイクレジット「iD」と「Suica電子マネー」の共通インフラを運用開始 - NTTドコモ
- 2007年春『 nanaco(ナナコ)』誕生!
- “QRコードの普及と「おサイフケータイ」の末路”. Newsweek日本版 (2018年2月8日). 2020年9月27日閲覧。
- “「QRコード決済」利用率は年初から約2倍、格安スマホで優勢に”. MONEYzine. 2020年9月27日閲覧。
- “モバイル決済の現状と課題”. 日本銀行決済機構局. 2021年1月9日閲覧。
- “iモードのdカード(iD)/dカード miniの提供終了のお知らせ”. 2020年5月18日閲覧。
- 『「Kei-Credit(ケイクレジット)」トライアルの試験機でのテスト開始について』(プレスリリース) 。
- “「LINE Beacon」でお買い物をする”. 2018年7月8日閲覧。
- 『スマホアプリ「Coke ON」キャッシュレス決済機能「Coke ON Pay」を開始』(プレスリリース) 。