静岡鉄道1000形電車
静岡鉄道1000形電車(しずおかてつどう1000けいでんしゃ)は、静岡鉄道が1973年(昭和48年)から導入した通勤形電車である。
静岡鉄道1000形電車 | |
---|---|
静岡鉄道1000形電車(スカート取付前) (2007年10月 日吉町駅) | |
基本情報 | |
製造所 | 東急車輛製造 |
製造年 | 1973年 - 1985年 |
製造数 | 24両(2両編成12本) |
運用開始 | 1973年4月25日[1] |
主要諸元 | |
編成 | 2両 |
軌間 | 1,067 mm |
電気方式 |
直流600 V (架空電車線方式) |
最高運転速度 | 70 km/h[注釈 1] |
設計最高速度 | 90 km/h[1] |
起動加速度 | 2.2 km/h/s[3][注釈 2] |
減速度(常用) | 3.5 km/h/s[1][3] |
減速度(非常) | 4.5 km/h/s[1][3] |
編成定員 | 280(座席96)人 |
車両定員 | 140人(座席48)人[1] |
車両重量 |
クモハ1000(Mc) 非冷房時:31.7 t[1] 新製冷房車:32.7 t[4] クハ1500(Tc) 非冷房時:23.5 t[1] 新製冷房車:25.7 t[4] |
最大寸法 (長・幅・高) | 17,840 ×2,744 ×4,110 mm(新製冷房車)[5] |
車体 | ステンレス鋼[1] |
台車 |
ダイレクトマウント式空気ばね台車 Mc車:TS-812[1][4] Tc車:TS-813[1][4] |
主電動機 |
直流直巻電動機 TDK806/6-G[1] TDK806/6-J[6] |
主電動機出力 | 110 kW(一時間定格)[1][6] |
駆動方式 | 中空軸平行カルダン駆動方式 |
歯車比 | 84:15(5.6)[1][3] |
編成出力 | 440 kW |
定格速度 | 35.8 km/h[6] |
制御装置 |
抵抗制御・直並列組合せ・弱め界磁 ES769-A-M[1] ES769-A1-M[4] |
制動装置 | 発電ブレーキ併用全電気指令式電磁直通空気ブレーキ[1][3]、直通予備ブレーキ |
保安装置 | i-ATS(変調方式MSK、車上パターン制御方式)、静鉄式ATS(点制御速度照査機能付) |
備考 | 鉄道友の会静岡支部より「79年 おれんじ賞」を受賞 |
概要
車体に高抗張力ステンレス鋼を使用した静岡鉄道初のオールステンレス車両である[2]。 静岡清水線の在来車両置き換えのために、制御電動車クモハ1000と制御付随車クハ1500からなる2両固定編成が1973年(昭和48年)から1985年(昭和60年)にかけて12本の計24両が導入された。
車体
18 m級[2]3扉という基本的な車体規格は300形と共通であり、側面窓配置は同じくdD3D3D1(d:乗務員扉, D:客用扉)であるが、本系列において戸袋窓は設置されていない。ステンレス車体を生かして外板は無塗装とされ、軽量化および保守の容易な構造となっている[1]。 前面デザインは運転台からの視界確保を目的として大型窓の非貫通形状とされ、窓ガラスには安全性強化を目的として防曇特殊強化ガラスを用いている[1]。側面窓にはバランサー付きの一段下降窓を採用し、客用扉には幅1,300 mmの両開き式扉を採用した[1]。コルゲート外板を使用した18 m級車体や戸袋窓の無い両開き扉に加えて一段下降窓を採用した本系列の車体は側面から見た場合、同じく東急車輛製造製の東急7200系電車に類似したものとなった。
運転台
力行とブレーキを一本のハンドルで操作するワンハンドルマスコンを採用した。計器盤はデスクタイプとされ、走行中に必要な各種灯具やスイッチ類は確認・操作がしやすいように取付位置を検討したほか、運転士の姿勢や足回りのスペース等乗務時の疲労低減や保守作業のしやすさも考慮されている[1]。
- 運転台(2022年4月)
内装
室内および天井にはメラミン樹脂積層合金のアルミデコラを使用して無塗装とし、床面はステンレスのキーストンプレートにユニテックスを充填したうえで、厚さ3 mmのロンリウムを用いて被覆した構造[1]とした。室内照明には、40 Wのラピッドスタート形蛍光灯を14本と15 Wの予備灯を4灯設置した[5]。また、座席はすべてロングシートである[5]。
- 車内(2022年4月)
- 優先席(2022年4月)
主要機器
主制御装置は、東洋電機製造製で一台で4台の主電動機を制御する1C4Mの発電ブレーキ付電動カム軸式制御器ES769-A-Mもしくは同ES769-A1-Mを採用した。いずれも制御方式は抵抗制御方式である。 これらの制御器は応荷重装置を設け、定員200 %まで加減速度を一定に保つことができるほか、空転検知機能を持つ[1][3]。
主電動機は、東洋電機製造製の直流直巻電動機であるTDK806/6-GおよびTDK806/6-Jを採用した。いずれも300形の主電動機であるTDK806/6-Fと比較して出力強化がなされた改良型であり、両者共基本性能は同一[注釈 3]である。駆動装置はKD-320-Aハスバ歯車一段減速中空軸平行カルダン駆動装置を採用した。歯車比は300形と同じく84:15であり定格速度も同系列と同じ35.8 km/hとなっている[5][6]。
補助電源装置は、当初東洋電機製造製の電動発電機(MG)であるTDK368-A(出力7 kVA・100 V - 60 Hz)およびバッテリーとしてアルカリ電池(100 V、20 Ah)を搭載したが、新製冷房車となった1009編成以降、MGは冷房用電源を供給するための大容量化およびメンテナンスフリー化を計ってブラシレス電動発電機であるTDK-3314-A(出力60 kVA・3相交流200 V - 60 Hz)に変更された[5][4]。電動空気圧縮機(CP)はHB-1500B(吐出量1500 L/min)を1台搭載する[3]。
ブレーキ装置は、日本エヤーブレーキ(現ナブテスコ)製HRD-1全電気指令式電磁直通空気ブレーキを採用した[1]。これは静岡鉄道の車両として初めての全電気指令ブレーキである。常用ブレーキのほかに、非常ブレーキ、また保安ブレーキとして予備直通ブレーキを設置している[1]。
集電装置は、1008編成までPT-4308-A-M[5]菱型パンタグラフを採用したが、1009編成・1010編成からは搭載する分散式冷房装置の設置間隔をできる限り均一化するために折り畳み寸法が小さい下枠交差型パンタグラフのTDK-4814[4]に変更された。
台車は、東急車輌製造製の車体直結(ダイレクトマウント)式空気ばね台車であるTS-812(Mc)およびTS-813(Tc)を採用した。いずれも枕ばねにはダイヤフラム式空気ばねを用いており、下揺れ枕は使用しない。基礎ブレーキ装置はレジン製ブレーキシューを使用する片押し式踏面ブレーキとした[1]。
1008編成までは非冷房車として竣工し、各車内には客室および運転室に計7台の扇風機が設置されていた[5]が、1979年(昭和54年)に増備された1009編成および1010編成からは扇風機を廃止のうえで冷房装置が導入され、屋根上に東芝製RPU-2211分散式冷房装置(冷凍能力8000 kcal/h/基)を各車4基ずつ搭載した[7]。のちに非冷房車に対しても冷房装置の搭載改造が行われたが、こちらは集中式冷房装置を各車1基ずつ搭載する形に改められている。
運用開始後
静岡清水線においては1975年(昭和50年)9月からワンマン運転を開始し、それ以前に竣工した車両にも以下の改造工事が施工された。
- 列車無線装置の設置[8]
- テープ再生機を用いた自動放送装置の導入[8]
- 車両用信号炎管の設置[8]
- 車内非常通報装置の設置[9]
- 車側ミラーの設置[9]
- 連結面妻部にドア閉時警告用の警報装置の設置[9]
1979年以降に導入された新製冷房車は冷房装置を搭載するために構体部分の設計変更が行われたほか、主制御装置がES769-A1-Mへ主電動機がTDK806/6-Jへとそれぞれ機種が変更されている[6][8]。
前述の様に当初車体は無塗装であったが、1985年より一部の編成の前面にストライプ状の警戒塗装が施され[10]、のちに全編成に波及した。その後さまざまな試験塗装を経て、全面裾にオレンジ色の反射素材による警戒塗装が追加されている。
また、2008年(平成20年)の1006編成を皮切りに前面に排障器(スカート)の設置が開始されている[11]。また、2011年から車側ミラーの撤去が実施された。
1011編成は2015年(平成27年)7月27日からちびまる子ちゃんのラッピング車両として運用を開始した[12]。当初は2016年(平成28年)7月26日まで一年間の運行予定であったが、度々延長され2023年(令和5年)3月まで「ちびまる子ちゃんラッピングトレイン」として運用されていた。運用時間は公表されており、平日/金曜ダイヤの10時 - 16時、土休日ダイヤの終日の運用列車において主人公のまる子(声:TARAKO)の車内アナウンスも使用されていたが[13]が、車両の老朽化を理由に、同年3月26日をもってラッピング列車としての運行を終了した[14]。
編成
A3000形の導入の推進に伴い置き換えられる計画があり[15]、2023年(令和5年)3月現在、2編成が運用についている。
- 凡例
- Mc …制御電動車、Tc …制御付随車
CON…制御装置、PT…集電装置、CP…電動空気圧縮機、MG…補助電源装置
形 式 |
← 新静岡 新清水 →
|
竣工 | 運用終了 | 備考 | |
---|---|---|---|---|---|
クモハ1000 (Mc) | クハ1500 (Tc) | ||||
搭載機器 | CON,PT | CP,MG | |||
車 番 |
1001 | 1501 | 1973年(昭和48年) | 2020年(令和2年)3月 | |
1002 | 1502 | 2017年(平成29年)3月[16] | |||
1003 | 1503 | 2018年(平成30年)3月[17] | |||
1004 | 1504 | 2016年(平成28年)3月[18] | |||
1005 | 1505 | 2019年(平成31年)2月 | |||
1006 | 1506 | 1976年(昭和51年) | 2020年(令和2年)3月 | ||
1007 | 1507 | 2019年(平成31年)3月 | |||
1008 | 1508 | ||||
1009 | 1509 | 1979年(昭和54年) | 2021年(令和3年)2月[19][20] | 熊本電気鉄道に譲渡[20] | |
1010 | 1510 | 2021年(令和3年)3月[19][20] | えちぜん鉄道に譲渡予定[20] | ||
1011 | 1511 | 1984年(昭和59年) | 2023年(令和5年)7月予定 | ||
1012 | 1512 | 1985年(昭和60年) | 2023年(令和5年)2月 | 熊本電気鉄道に譲渡予定[21] | |
他社への譲渡
2021年2月18日に、廃車予定の1009編成が熊本電気鉄道、1010編成がえちぜん鉄道にそれぞれ譲渡されることが発表された[20][22]。静岡鉄道の車両が他社へ譲渡されるのは福井鉄道へ譲渡された300形以来36年ぶりとなり、熊本電気鉄道への導入は500形以来42年ぶりとなる。
- 2021年7月に「1009編成」が陸路・航路にて西鉄筑紫車両基地(筑紫工場)に運搬され改造を施した。2022年2月1日未明に改造を終えた熊本電気鉄道北熊本車両基地に搬入され[23]電車形式もそのまま引き継いで1000形とし[24][25]同年3月27日から運用開始した[26]。
- 2023年2月に静鉄で運行を終えた「1012編成」熊本電気鉄道に譲渡を発表[27]。
- えちぜん鉄道
- 2021年3月に「1010編成」が陸路にて阪神尼崎工場へ搬出。車体の改造を行った後、2023年夏を予定する勝山市の福井県立恐竜博物館のリニューアルオープンに合わせて試運転中。車両型式はMC8000形として入籍される[28]。運行開始日は2023年7月15日を予定[29]。
- 主な改造内容は、正面窓上の行先表示器が前照灯に、種車の前照灯は標識灯に変更され、急行灯や標識灯、側面の種別表示器を撤去。通勤・通学用の列車には使用されないため、各車両中央の客用ドアは閉鎖され、大型の固定窓が付いたステンレス板で塞がれた。車体の内外全てに、恐竜に関するラッピングが施され、座席も化石発掘現場や、ジャングルをイメージしたオリジナルのソファーに交換。乗降用のドアも交換されたが、窓部分もラッピングしているため、ドア付近での眺望はできない。車内には、記念撮影用の恐竜のオブジェ(大型のぬいぐるみ)が設置されている[30]。
- 北陸鉄道
- TS-813台車の一部が北陸鉄道に譲渡され、内灘検車区で仮台車として使用されている。
- 熊本電気鉄道に譲渡された1000形(2022年3月)
脚注
出典
- 『鉄道ピクトリアル (通巻280号)』 p.55
- 寺田裕一『データブック 日本の私鉄』ネコ・パブリッシング、2002年、p.83
- 『鉄道ファン』通巻227号 p.巻末
- 『鉄道ファン』通巻227号 p.79
- 『鉄道ピクトリアル (通巻280号)』 p.56
- 『鉄道ピクトリアル (通巻431号)』 p.143
- 『鉄道ファン』通巻227号 p.78
- 『鉄道ファン』通巻227号 p.76
- 『鉄道ファン』通巻227号 p.77
- 『鉄道ピクトリアル (通巻453号)』 p.78
- 静岡鉄道 1006編成にスカート設置 - 鉄道ファン・railf.jp 鉄道ニュース、2008年10月12日
- “ちびまる子ちゃんラッピング電車が登場!!”. ちびまる子ちゃん オフィシャルサイト (2015年7月27日). 2021年3月25日閲覧。
- “新型車両A3000形・ラッピングトレイン運行予定”. 静岡鉄道 オフィシャルサイト (2021-03-26現在). 2021年3月26日閲覧。
- 静岡鉄道で「ありがとう!ちびまる子ちゃんラッピング電車!」イベント開催 - 鉄道ファン・railf.jp 鉄道ニュース、2023年3月27日
- “2020年度移動等円滑化取組計画書” (PDF). 静鉄グループ 静鉄レールウェイ. 静岡鉄道株式会社. p. 1 (2020年7月6日). 2020年9月7日閲覧。 “・現在静岡清水線で使用している13編成の車両の内、旧車(1000形)7編成は40年以上前に設計された車両であり移動円滑化が十分になされていないことから、新型車両A3000形の導入を推進し、2022年度までに12編成の車両を置き換える。”
- 静岡鉄道「1002号さよならイベント」開催 - 鉄道ファン・railf.jp 鉄道ニュース、2017年3月18日
- 静岡鉄道で1000形1003編成の撮影会 - 鉄道ファン・railf.jp 鉄道ニュース、2018年3月22日
- 静岡鉄道で「ありがとう1004号」イベント - 鉄道ファン・railf.jp 鉄道ニュース、2016年3月11日
- (PDF)『静岡県内初!再生可能エネルギー100%で運行 〜静鉄電車 新型車両運行開始および引退車両ラストランのお知らせ〜』(プレスリリース)静岡鉄道、2021年2月10日。 オリジナルの2021年2月12日時点におけるアーカイブ 。2021年2月18日閲覧。
- (PDF)『静鉄電車1009号・1010号の譲渡が決定! 熊本電鉄・えちぜん鉄道で今後も活躍します 〜オリジナルコラボグッズを販売〜』(プレスリリース)静岡鉄道、2021年2月18日。 オリジナルの2021年2月18日時点におけるアーカイブ 。2021年2月18日閲覧。
- (PDF)『新型車両 A3011 号出発式 および 1012 号ラストランのお知らせ ~ 静鉄電車 新型車両導入プロジェクト ~』(プレスリリース)静岡鉄道、2023年2月16日。 オリジナルの2023年2月25日時点におけるアーカイブ 。2023年3月11日閲覧。
- “静岡鉄道車両、えち鉄「恐竜電車」に 「1010号」譲渡、恐竜博物館新装合わせ再出発”. 福井新聞. (2021年2月19日). オリジナルの2021年2月22日時点におけるアーカイブ。 2021年2月25日閲覧。
- 生活に欠かせない県民の足として静岡から熊本に (22/02/01 18:30)(テレビ熊本)(冒頭〜) - YouTube
- 1000形撮影会開催決定のお知らせ - 熊本電鉄ニュースリリース2022年3月11日(2022年3月12日閲覧)
- 【普通速度 ver】熊本電鉄1000形 本線試走行(北熊本整備工場~上熊本駅間) (2022/03/03)(熊本電気鉄道)(冒頭〜) - YouTube
- 熊本電気鉄道1000形デビュー! 元静岡鉄道の車両、ストライプも健在 - マイナビニュース(2022年3月27日掲載、同年4月6日閲覧)
- 静鉄1000形が熊本電鉄へ 昨年に続き2本目 ラストランは2/25新静岡16時ちょうど発 - 乗りものニュース(2023年2月23日掲載、同年6月25日閲覧)
- えちぜん鉄道「新恐竜電車」内覧ツアー(鉄道ニュース) - 鉄道ファン railf.jp、(2023年5月6日掲載、同年6月25日閲覧)
- “えちぜん鉄道「恐竜列車」7月15日(土)運行開始!!”. えちぜん鉄道. (2023年6月8日) 2023年6月29日閲覧。
- “恐竜列車でGO!…車両内はジャングル 福井県立恐竜博物館の来館者向け、えちぜん鉄道が観光列車”. 福井新聞ONLINE (福井新聞). (2023年3月31日) 2023年6月29日閲覧。
参考文献
- 鉄道図書刊行会 鉄道ピクトリアル 通巻280号 1973年7月
- 「静岡鉄道新造1000形車について」静岡鉄道株式会社鉄道部 pp. 55-56
- 電気車研究会 鉄道ピクトリアル 通巻431号 1984年4月
- 「静岡鉄道 」 武田忠雄 小林隆雄 pp. 141-143
- 電気車研究会 鉄道ピクトリアル 通巻453号 1985年9月
- 「静岡鉄道1000系にストライプ入る 」 p. 78
- 交友社『鉄道ファン』1980年3月号 No.227
- 「静岡鉄道に冷房車が登場」 静岡鉄道鉄道部技術課 pp. 76-79
- 「形式図 静岡鉄道1000系冷房車」 p. 巻末
- 寺田裕一 『データブック 日本の私鉄』 ネコ・パブリッシング 2002年、p. 83