堂島取引所

株式会社堂島取引所(どうじまとりひきじょ、: Osaka Dojima Exchange, Inc.、 略称: ODEX)は、先物取引を行う取引所を運営する日本株式会社である。かつて、商品先物取引法上の「会員商品取引所」の法人形態であったが、2021年4月1日に株式会社に組織変更され、同法上の「株式会社商品取引所」となった[2]

株式会社堂島取引所
Osaka Dojima Exchange, Inc.
種類 株式会社
機関設計 監査役会設置会社[1]
略称 ODEX
本社所在地

日本の旗 日本
550-0011
大阪府大阪市西区阿波座1-10-14

北緯34度40分49.3秒 東経135度29分39.7秒
設立 1952年10月6日
業種 その他金融業
法人番号 8120005004175
事業内容 先物取引を行う取引所市場を開設・提供し、市場の公正を確保する
代表者 代表取締役社長 村田雅志
資本金 10億8,900万円
従業員数 23名(2023年3月31日現在)
外部リンク http://www.odex.co.jp/
特記事項:2021年4月1日に株式会社に組織変更された。

概要

堂島取引所は、江戸時代の大坂堂島米会所の流れを汲む商品先物の取引所である。

大阪穀物取引所(本所の母体)は、旧大阪堂島米穀取引所の伝統を受け、米穀、雑穀等の大阪商人が中心となって、大阪市西区阿波座で誕生した。大阪の堂島先物取引の発祥地であるというプライドをかけている。

2005年8月1日時点では、農産物市場68名、農産物・飼料指数市場52名、水産物市場46名、砂糖市場36名、繭糸市場18名の会員によって組織されていた。会員は一般会員と受託会員があった。

近年は同種の商品が上場されている日本取引所グループ(JPX)傘下の大阪取引所へ取引が集中しているため本取引所の取引高は非常に減少しており、取引所の収入は旧神戸生絲取引所の建物等からの賃貸料収入が大半を占める。2021年7月の取引高は、大阪取引所が2587万枚だったのに対して、堂島取引所は7万枚余りに止まっており、両社の格差は大きい[3]

第35回臨時総会(2012年、平成24年3月30日開催)において、次期取引システムの導入が承認され、「取引マッチングシステム」をインタートレードに、清算系システムをエヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズに発注した。次期取引システムは備えていたザラバに幅寄せ機能を追加し、ザラバ部分をさらに拡充させた。

2012年9月3日、幅寄せ仕法で取引が開始され、2018年10月に「ザラバ取引」に移行した[4]

2013年2月12日、法人名称が「大阪堂島商品取引所」となる。

2020年10月12日、経営再建に向けた有識者会議「経営改革協議会」(議長:土居丈朗慶応大教授)は、コメの現物と先物に加えて、農産物先物や工業品先物、金融先物も幅広く取り扱う「総合取引所」を目指すことを求める最終提言を取りまとめた[5][6][7]。現在のODEXは、JPX傘下の東京商品取引所と同様に、商品先物取引法上の「株式会社商品取引所」であるが、日本初かつ唯一の総合取引所となった大阪取引所は、金融商品取引法上の「株式会社金融商品取引所」であり、根拠法が異なっている。この提言では、第二の総合取引所グループとして、JPXの対抗馬になることを求める将来構想を提示した。経営改革協議会は、経営陣に対して下記の経営改革を要求した[5]

  • 2021年1月を目途に株式会社化して、増資による資本の充実と同時にガバナンスが効いた経営効率の高い取引所運営を目指す。
  • コメ関係者や内外金融機関に出資を呼び掛ける一方で、経営陣を刷新する。
  • 小口化などの商品設計の見直しを行い、当面は農林水産省所管の農産物取引所として取引量の拡大を目指す。
  • SBIグループから流動性提供などの支援を受ける。
  • コメ先物の本上場が認められず試験上場が終了した場合でも、体制整備を果たした上で再度上場を目指す。

2021年4月、SBIホールディングスジャパンネクスト証券オプティバー岡安商事豊トラスティ証券など8社から20億円の出資を受け、株式会社へ組織変更し、「株式会社大阪堂島商品取引所」となった。この結果、SBIホールディングスと傘下のジャパンネクスト証券で議決権の33%超となり、SBI系の取引所となった[8][9]

2021年8月10日、法人名称が「商品」を抜いた「株式会社堂島取引所」になる。商品(コモディティ)だけでなく、金融先物も取り扱う総合取引所を目指す方針を明確にするためである[10]。「大阪」も抜いているが、英語の社名には"Osaka"を残している。

2023年1月16日 、貴金属の先物市場の開設が国に認可され、3月27日から白金の先物取引を開始した[11][12]

堂島取引所が目指す姿

堂島取引所は次の3つの柱を掲げ、「世界に伍する総合取引所」になることを目指している[13]

Customer-Oriented 利用者にとって使いやすい市場
  • 利用者が安心かつ信頼して利用できる市場インフラを提供する。
  • 機関投資家や実需事業者などの多種多様なヘッジニーズを発掘する。
  • 個人投資家が参入しやすい設計のエッジの効いた多様なデリバティブ商品の提供を図る。
  • 透明性と利便性の高い市場を目指す。
Global アジアにおけるクロスボーダーハブ型市場
  • 主たる流動性供給の担い手である海外の機関投資家や取引所との連携等を通じた裁定取引の機会を提供する。
  • アジアにおけるクロスボーダー取引のハブを担うグローバル市場を目指す。
Innovative 既存市場の枠にとらわれない新しい市場
  • 従来の農産物を対象とするデリバティブのみならず、貴金属ESG関連資源、株価指数為替暗号資産を対象とするデリバティブなど、幅広い金融商品を取り揃える。
  • 金融リスクマネジメントを必要とするあらゆる取引のヘッジが可能な総合取引所市場を目指す。

大阪国際金融都市構想への貢献

大阪府大阪市は、夢洲で2025年大阪・関西万博が開催され、統合型リゾート(IR)も計画されている機会を捉えて、世界中から大阪に投資を呼び込み、ビジネスチャンスを生み出すことで日本経済成長をけん引する「国際金融都市OSAKA」構想を推進している[14][13]。推進組織として、行政・経済界・各種団体で構成する「国際金融都市OSAKA推進委員会」が2021年3月に設立された[15]。この委員会には、大阪取引所、堂島取引所、SBIホールディングス、ジャパンネクスト証券などが参画している[16]

大阪国際金融都市構想では、デリバティブ取引の成長を取り込むため、大阪をアジアのデリバティブ市場を牽引する一大拠点にすることを目指している[17][13]。SBIホールディングスの北尾吉孝社長は、「首都機能型」の東京とは異なる「クロスボーダー型」の国際金融センターを大阪と神戸に誘致する構想を持っており、その中核として堂島取引所を位置付けている[18][19]。堂島取引所は、証券・金融・商品のデリバティブを扱う日本最大の総合取引所である大阪取引所、SBI系の私設取引システム(PTS)及びセキュリティトークン (電子記録移転権利)取引所である大阪デジタルエクスチェンジと共に、大阪国際金融都市構想の一翼を担う存在になることが期待されている[3][13][20]

将来構想

「経営改革協議会」の最終提言では、「先物市場はしっかりした現物市場があってこそ成り立つ派生商品市場である」と指摘しており、現物取引所と先物取引所の両方を運営することを堂島取引所に求めている[5][21]。さらに、「単にローカルな一取引所として延命策を模索するのではなく、総合取引所となった日本取引所グループに競合できるほどの存在感を有する将来構想」の実現を求めている[5][21]東京証券取引所大阪取引所東京商品取引所日本証券クリアリング機構経営統合し、日本取引所グループ(JPX)に集約されたことで、JPXが日本の金融市場をほぼ独占しており、有力な対抗馬がいない状況になっている[18]。日本商品先物振興協会の多々良実夫会長(豊トラスティ証券会長)は、堂島取引所がJPXに対抗できる総合取引所グループになれば、競争を通じて両社の競争力が向上し、投資家へのサービス向上につながると述べている[5][18]。また、同じ上場銘柄を二つの取引所が取り扱うことで、裁定取引で利鞘を得る機会を投資家に提供できるようになる[5]

取引所持株会社

金融商品取引法上の金融商品取引所持株会社を設立し、取引所持株会社が現物取引所と先物取引所、および両方の取引所の清算業務を行う中央清算機関を保有する。堂島取引所の企業集団が総合取引所グループとなり、JPXと競争できる事業体制を確立する[5][21]

現物取引所

先物取引所

中央清算機関

堂島取引所は、近隣の大阪取引所といくつかの商品(とうもろこし、大豆、小豆、金、銀、白金)で競合している一方で、JPXの子会社である日本証券クリアリング機構(JSCC)に清算業務を委託しており、JPXが提供する清算インフラに依存している。東京商品取引所の子会社だった日本商品清算機構(JCCH)が東京商品取引所と堂島取引所で成立した取引の債務引受けを行っていたが、2020年7月27日に、東京商品取引所から貴金属市場(金現物取引は移管対象外)、ゴム市場及び農産物・砂糖市場(粗糖は上場廃止)の各商品が大阪取引所へ移管されたことに伴い、JCCHがJSCCに吸収合併された。この合併により、大阪取引所、東京商品取引所、堂島取引所の上場商品デリバティブ取引に係る清算業務をJSCCが引き継いでおり、各取引所の取引参加者がJSCCに払う清算手数料はJPXの収益源の一つになっている[22]。JPXに対抗するためには、堂島取引所も独自の中央清算機関を持ち、今は取りこぼしている清算関連の収益を得る必要がある。

歴史

沿革

  • 1950年 - 商品取引所法制定
  • 1951年 - でん粉豆類の統制撤廃
  • 1951年5月14日 - 神戸生絲取引所の開所
  • 1952年4月21日 - 大阪砂糖取引所の開所
  • 1952年10月6日 - 大阪穀物取引所の開所(現・株式会社堂島取引所の旧母体)
  • 1952年10月8日 - 神戸穀物商品取引所の開所
  • 1953年10月1日 - 関門穀物商品取引所の開所
  • 1991年10月 - 大阪砂糖取引所がシステム売買導入
  • 1992年6月 - 大阪穀物取引所がシステム売買導入
  • 1993年10月1日 - 大阪穀物取引所大阪砂糖取引所神戸穀物商品取引所を吸収合併し、「関西農産品商品取引所」に名称変更
  • 1995年1月30日 - 阪神・淡路大震災の震災により立会が不可能となったため同年1月17日より立会の停止をしていた神戸生絲取引所大阪穀物取引所の旧手振り立会場での仮設市場を設置し立会再開(同年2月24日関西農産商品取引所内の仮設市場閉鎖同年2月27日から従前の神戸市場での立会再開)
  • 1997年4月1日 - 神戸生絲取引所を吸収合併し、「関西商品取引所」に名称変更
  • 1998年 - 農産物・飼料指数市場を開設、現在のコーン75指数を上場
  • 2000年 - NON-GMO大豆を上場
  • 2001年 - コーヒー指数を上場
  • 2002年 - 日本国内唯一の水産物市場を開設し、冷凍えびを上場
  • 2006年12月1日 - 福岡商品取引所を吸収合併
  • 2011年7月1日 - 農林水産省が米相場の試験許可開始(米相場の復活・取引開始)。「72年ぶりに復活」
  • 2012年9月3日 - インタートレードが開発した「取引マッチングシステム」(板寄せ仕法)が稼働。
  • 2013年2月12日 - 東京穀物商品取引所からコメ先物取引(東京コメ)を引き継ぐ。法人名称が「大阪堂島商品取引所」となる。
  • 2018年10月15日 - 取引方法をザラバ取引に変更[4]
  • 2021年4月1日 - 組織変更されて株式会社になる。法人名称が「株式会社大阪堂島商品取引所」になる。[23]
  • 2021年7月16日 - コメ先物を恒久的に取引できる「本上場」の認可を国に申請したと発表した[24]
  • 2021年8月6日 - 農林水産省がコメ先物取引の本上場を認可しない方針を通知[25] し、試験上場期間が満了する8月7日付けで、コメの上場廃止が決定。
  • 2021年8月10日 - 法人名称が「株式会社堂島取引所」になる[26][27]
  • 2022年9月16日 - 貴金属の先物市場開設の認可を農林水産省と経済産業省に申請した[28]
  • 2023年1月16日 - 貴金属の先物市場の開設が農林水産省と経済産業省に認可された[29][30]
  • 2023年3月27日 - 金・銀・白金の先物を試験上場し、取引を開始した[11][12]

コメ先物の試験上場期間(2011年8月~2021年8月)

近年の日本では、日本人の食生活が多様化し、コメの需要が年々減少し、コメ余りの状態が続いた。先物取引を利用することによって、農家の経営力強化につながる、農家の販売先を多様化することと価格形成の透明化が期待されていたため、2011年8月8日、東京穀物商品取引所と関西商品取引所で「コメ先物」が試験上場された。この年の3月末、財団法人「全国米穀取引・価格形成センター」(コメ価格センター)が解散したため、現物取引の価格指標が無くなっており、それに代わる価格指標の提供が期待されていた[31][32]。2004年の食糧管理制度の大幅改正により、米の流通が自由化されて以降は、集荷団体等の売り手にとっての上場メリットとコメ卸等の買い手にとっての調達メリットが感じられなくなり、コメ価格センターを通じた取引数量が激減したことが解散につながった[32]

2013年2月12日、関西商品取引所が「大阪堂島商品取引所」に名称変更し、東京穀物商品取引所が閉所したことにより、大阪堂島商品取引所がコメ先物取引(東京コメ)を扱う唯一の市場となった。現物決済の標準品は、「東京コメ」については茨城県産、栃木県産および千葉県産コシヒカリ、「大阪コメ」は石川県産および福井県産のコシヒカリとなっていた。それと並行して、大阪堂島商品取引所はSBIホールディングスジャパンネクスト証券、などから出資を受け入れ経営基盤を強化していった。大阪堂島商品取引所は、コメ先物を恒久的に取引できる本上場を目指し、2年間の試験上場の期間延長を4回繰り返した[33]。これまで農林水産省が提示してきた本上場の認可基準は、十分な取引高が見込めるか、コメの生産・流通を円滑にするために適当かの2点だった[34]。堂島取引所は営業努力を重ね、取引高を増やすことに注力した[34]。2020年度の取引高は前回の試験上場期間(17年8月~19年8月)と比べて約3倍に伸び、過去最高を記録した[33][34]。コメ先物取引が活発化し、取引価格は上昇傾向にあった。認可基準を満たせると判断した堂島取引所は本上場を申請した。

コメ先物の本上場不認可と上場廃止(2021年8月~2022年6月)

しかし、2021年8月、農林水産省は、コメ先物の本上場を認可しないことを決定した。生産業者や流通業者の参加が十分に増えていないことなどを不認可の理由に挙げたが、申請前の堂島取引所との打ち合わせで、農林水産省は取引の参加者数について何も指摘しなかった[34][31]。このため、認可基準が恣意的だとして、中塚一宏社長(当時)は「青天のへきれきで、甚だ心外だ。ゴールポストを恣意的に動かされた」と農林水産省に抗議した[34][31]。同省による意見聴取で、堂島取引所は「生産者の参加は増えていて、本上場へ移行したら参加したいと話している人もいる」と訴えた[35]。さらに「主食のコメの価格は国が安定をはかるべきという考えと、市場を活用して決めるべきという考えがことあるごとにぶつかり、混乱をもたらしている」と農政の迷走を非難した[35]。しかし、不認可の決定を覆すことはできなかった[36][34][35]。堂島取引所の会議室に揃った取締役たちは「本上場以外はあり得ない」として、試験上場の延長はしない方針を決めた[31]。2011年に72年ぶりに復活したコメ先物は、わずか11年で再び消えることになった[33]

不認可の決定には、日本国内のコメ流通の4割を握るJAグループ[31]、コメ先物取引の参加に否定的であることが影響した。もし、コメ先物の上場が認められれば、コメの価格が先物市場という透明なマーケットで決定されることになり[35][37]、それまで、自分達JAグループが相対取引で決めていたコメ価格の主導権が、先物市場に奪われていく[31][33]、という不安もあった。全国農業協同組合中央会(JA全中)の中家徹会長は、「農家やJAのためにならないことは、すべきではない」と自民党にクギを刺した[31]。最も流通量が多いJAグループの不参加が、市場への参加者数が増えない要因になっている[35]

JAを支持基盤とする自民党は、堂島取引所への意見聴取の前日、農水省に「厳正に判断すること」を要求し、認可しないよう圧力をかけた[31][38]。自民党の農林部会は、先物取引の大部分が新潟県産コシヒカリに偏っていて、全国的に広がっていない、価格がゆがみやすい点などをあげ、これでは、コメが投機の対象になり、マネーゲームになってしまう[39]、そして、コメの生産者を不安にさせてしまう、それならば、今まで通り、JAグループがコメ価格を決めるほうがいい、としてコメ先物の本上場に反対を示した[31]

NHKの取材によると、戦後長い間、国がコメの価格を決めてきて農業の硬直化を招いたとの反省から、「消費者重視」「価格は市場で決まるべき」との理念を持ってコメ政策を進めてきたと、農水省のある幹部は話していたという[35]。関係者によると、2021年6月には本上場を認める方向で動き出していたが、「役所が勝手に話を進めている」などと反発され、自民党を説得できなかった[35]

一方、農林水産省のこの決定についてSBIホールディングスの北尾吉孝社長は、2021年8月3日、記者団に対し、「堂島はコメの先物取引の発祥の地で、大阪はこれを失ってはいけない。これを否定することは、『無知蒙昧(むちもうまい)』の、経済を知らない、世界を相手にしない人たちだ」と述べ、農林水産省、自民党農林部会などの対応を強く批判した[31][35]

2021年8月10日の記者会見で、野上浩太郎農相は、取引に参加する当業者数が横ばいであること、当業者の取引利用意向が減少していること、取引の9割が新潟コシヒカリに偏っていることを不認可の理由に挙げた[40]。また、8月4日、自民党農林・食料戦略調査会と農林部会から、米の現物市場の創設に向けて農林水産省が検討会を設置し、2021年度内を目途に検討するよう申入れがあったことを受けて、JAグループを含む関係者による検討会で現物市場について議論し、制度設計を進めることを明らかにした[40]

2022年6月20日をもって新潟コシヒカリあきたこまちなど主力取引銘柄が上場廃止。2023年11月20日(新潟コシEXW納会日)までに輸出米対象の取引が行われるが、売買実績はなく、事実上のコメ先物終了となった[33]

コメ先物取引に参加していた新潟県の大規模生産法人「新潟ゆうき」の佐藤正志社長は「先物取引という新しい流通手段が定着すれば、農業全体の風向きが変わる可能性があった。市場を意識することで、これまでJAに頼っていた農家も『経営』という感覚が生まれたきっかけになっていたかもしれない」と上場廃止を悔やんだ[41]。コメ卸からは、新潟コシヒカリに取引が偏るといった商品の使いづらさは、本上場したら修正していけばよかったとの声があった[38]

10年にわたってコメ先物取引に参加してきたJA大潟村秋田県大潟村)の小林肇代表理事組合長は、大学卒業後に2年間、アメリカのトウモロコシ農場で働いた経験から、生産者が販売先を多様化でき、価格下落のリスクを回避できる先物の有用性を指摘している[42][41]。アメリカでは先物を使ったリスク回避が定着しており、トウモロコシを先物取引で売っておかないと銀行からお金を借りられなかったという[42]。多くの生産者は、収穫期の秋にコメがいくらで売れるのか分からないまま、翌年のタネを発注し、翌年春に作付けをしており、採算を見通せないことが経営リスクになっている[42]。先物取引で将来の売却価格を決められれば、所得を確定でき、価格下落で損失を被るリスクを回避できる[42]。小林組合長は、堂島取引所が秋田市内で開いたコメ先物取引のセミナーに登壇し、先物によってリスクを分散する重要性を説いた[41]。堂島取引所はこのようなセミナーを新潟県や宮城県などの産地で開催し、生産者に先物取引への参加を呼びかけてきた[41]。しかし、先物の有用性が認知されておらず、ごく少数の生産者しか活用していない[41]。コメ流通量のうち、堂島取引所で取引されるコメは1%にも満たない水準で、「全体からみればほとんどゼロ」(農水省)なのが現状である[41]。小林組合長は、全中の会長ら幹部に先物取引を活用するよう直談判したことがあるが、聞く耳を持ってもらえず、冷淡な対応だったという[41]

農水省OBで、キヤノングローバル戦略研究所山下一仁研究主幹は、価格形成の主導権を誰が握るのか、その意見の隔たりこそが今回の問題の本質だと述べている[35]。流通量をコントロールして米価と販売手数料をできるだけ高い水準で維持したいJAは、自分達がコントロールできない形で独自に価格が形成される先物市場を受け入れられない[31][35]。生産者にとって、コメ先物契約は保険のようなものであり、豊作で値崩れして「豊作貧乏」になってしまうリスクを回避できる[43]。生産者に代わって価格変動リスクを引き受けるのは、利鞘を狙う不特定多数の投資家や投機家である[42][43]。先物市場に参加する生産者が増えない理由について、農協がコメの価格を調整している上、生産者の減収を補てんするために、国による手厚い保険的制度があることを挙げている[43]。しかし、この制度には税金が使われているため、先物市場があれば投資家や投機家が引き受けるはずのリスクを納税者が負担させられており、生産者だけでなく、納税者も不利益を被っていると指摘している[42][43]

貴金属市場の開設とコメ先物再上場への取組(2022年6月以降)

2022年6月29日の株主総会で中塚一宏社長が退任し、SBIホールディングス出身の村田雅志執行役員が社長に就任した[33]。コメ先物の上場廃止で主力事業を失ってしまった堂島取引所は、再起をかけて貴金属市場の開設を発表し、2023年1月16日、貴金属先物の上場が国に認可された[44]。同日の記者会見で村田社長はコメ先物の再開と農産物・砂糖市場の再活性化に取り組むと述べた[44]。記者からコメ先物への想いを問われ、「当社の社名は、歴史ある『堂島米会所』から命名した。世界で初めて先物取引が生まれた伝統やプライドを後世に引き継ぐものとして受け止め、次世代に繋げるためにもこの取引所をより多くの方に使っていただきたいという想いがある。やはり『堂島』という名前を冠するものとしてコメ先物は取り組むべき課題の一つだ。残念ながら2021年に不認可となってしまったが、さまざまなご指摘をいただいた。挙がってきた課題を短時間で解決することは難しいが、行動しなければ再開することもできない。また、主要農産物であるにも関わらず公的な場所での価格形成機能が存在しないこと、コメ先物のニーズはあるのに具現化する場所がないこと――をこのままにして良いのかとも思う。その点も踏まえ再開に向けて努力をしていきたい」と答えた[44]。また、「堂島米会所」の流れを汲む歴史をアピールし、取引先の企業、大学や研究機関などと交流を深め、同社の知名度向上に努めると述べた[44]

堂島取引所は、コメ先物取引の再開を求める強い要望があるため、取引参加者、生産・流通事業者のニーズの把握などを通じて、再上場を模索している[44]。2023年秋には、2つの米の現物市場の開設が予定されており、コメ現物市場が有効に機能すれば、天候などによる価格変動リスクをヘッジできるコメ先物取引のニーズが高まることが想定される。

上場商品

農産物・砂糖

以下の5品目(7市場)。

  1. 小豆
  2. 粗糖
  3. 米国産大豆
  4. トウモロコシ
  5. 新潟コシEXW…上場廃止の見込み。売買実績はない。

2021年7月において、本取引所がウェブサイトで公開している資料によれば、コメ以外の商品については取引が無かった。なお大阪取引所では、大阪取引所またはそのグループ会社がウェブサイトで公開している資料によれば、とうもろこしについて同月7000単位、取引金額ベースで100億円を超える取引があった(大豆、小豆については同じく取引無し)[45][46]

貴金属

以下の3品目を試験上場した。3年間の期限付きだが、取引を増やして常設市場化を目指している[30]。取引単位の小口化や夜間の取引により、国内外の取引参加者を呼び込む[29][30]

  1. 白金

取引参加者

堂島取引所が開設する商品市場で直接取引ができる者を取引参加者という[47]。取引参加者は市場取引参加者と受託取引参加者に大別される[47]。取引参加者以外の者は、受託取引参加者を通じて取引を行う[47]

受託取引参加者の一覧

受託取引参加者は、自己の計算による取引と委託者の計算による取引を行う[47]

受託取引参加者(2023年5月18日現在)[47]
参加者 農産物 砂糖 貴金属
岡地株式会社
岡安商事株式会社
株式会社コムテックス
サンワード貿易株式会社
日産証券株式会社
北辰物産株式会社
豊トラスティ証券株式会社
株式会社SBI証券

市場取引参加者の一覧

市場取引参加者は自己の計算による取引のみを行う[47]。2023年5月18日現在の市場取引参加者は下記の通り[47]

関連項目

脚注

  1. 会社情報 組織図 - 株式会社堂島取引所
  2. 当法人の組織変更により商品先物取引法により法人格が定義される「会員商品取引所」という法人形態の組織が消滅した。
  3. 岡本 祐大, 日野 稚子 (2021年8月10日). 【消滅 コメ先物市場㊦】金融都市構想に暗雲 揺らぐ大阪の成長戦略”. 産経ニュース. 2023年6月7日閲覧。
  4. ザラバ取引システム稼働開始のご挨拶 (PDF). 大阪堂島商品取引所 (2018年10月15日). 2019年9月29日閲覧。
  5. 「堂島の灯を消してはならない」 総合取引所を目指す大阪堂島商品取引所(小菅努) - 個人”. Yahoo!ニュース. 2023年2月18日閲覧。
  6. 堂島取引所、コメから「総合」へ SBIが再建を主導 :朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2020年10月13日). 2023年2月18日閲覧。
  7. 「大阪堂島商取を総合取引所に」 経営改革協が提言”. 日本経済新聞 (2020年10月13日). 2023年2月18日閲覧。
  8. 堂島商取が増資、8社から20億円”. 日本経済新聞 (2021年2月13日). 2021年2月13日閲覧。
  9. <独自>堂島商品取引所、海外投資ファンド出資へ 4月に株式会社化、マネー呼び込み”. 産経新聞 (2021年2月10日). 2021年2月13日閲覧。
  10. 大阪堂島商取、「堂島取引所」に改称へ 総合化明確に”. 日本経済新聞 (2021年6月2日). 2023年2月18日閲覧。
  11. 金と銀・白金「貴金属先物」取引スタート 堂島取引所 - 日本経済新聞”. www.nikkei.com. 2023年3月27日閲覧。
  12. INC, SANKEI DIGITAL (2023年3月27日). 貴金属先物の取引開始 堂島取引所”. 産経ニュース. 2023年3月27日閲覧。
  13. ビジョン – ODEX – 堂島取引所 Osaka Dojima Exchange”. www.odex.co.jp. 2023年2月18日閲覧。
  14. Global Financial City OSAKA”. global-financial-city-osaka.jp. 2023年2月18日閲覧。
  15. Global Financial City OSAKA | about”. global-financial-city-osaka.jp. 2023年2月18日閲覧。
  16. 「国際金融都市OSAKA推進委員会」委員・オブザーバー名簿”. 国際金融都市OSAKA推進委員会 (2023年4月21日). 2023年6月17日閲覧。
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  18. 〔記者ノート〕堂島商取を国際金融センターの中核に=北尾SBIHD社長”. 時事フィナンシャルソリューションズ. 2023年2月18日閲覧。
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