桜島爆発記念碑

桜島爆発記念碑櫻島爆發記念碑 さくらじまばくはつきねんひ)とは、1914年大正3年)1月12日鹿児島県桜島噴火災害大正大噴火)の後に建てられた石碑災害記念碑)であり、複数存在する[1][2]が、中でも1924年(大正13年)1月に当時の鹿児島県鹿児島郡東桜島村大字湯之(現:鹿児島県鹿児島市東桜島町)に建立された碑を指すことが多い。本項でもその碑についてのみ述べる。

鹿児島市立東桜島小学校にある桜島爆発記念碑

概要

石碑の現在の所在地は、鹿児島県鹿児島市東桜島町にある鹿児島市立東桜島小学校の敷地内となっている。高さは2.5mほど。碑文の内容は、前述の桜島大正大噴火の被害を伝えるものになっている。この大正大噴火の被害を伝える石碑は他にもあり、いずれも噴火時の桜島からの避難者らが移住先で建立したものが多く、大隅半島を中心に鹿児島県内に約50基確認されている[3]が、中でもこの石碑が注目される理由は、碑文の内容から「科学不信の碑」として知られているためである[4]

碑文

大正三年一月十二日櫻島ノ爆發ハ安永八年以来ノ大惨禍ニシテ全島猛火ニ包マレ火石落下シ降灰天地ヲ覆ヒ光景惨憺ヲ極メテ八部落ヲ全滅セシメ百四十人ノ死傷者ヲ出セリ其爆發數日前ヨリ地震頻發シ岳上ハ多少崩壊ヲ認メラレ海岸ニハ熱湯湧湯シ旧噴火口ヨリハ白煙ヲ揚ル等刻刻容易ナラサル現象ナリシヲ以テ村長ハ數回測候所ニ判定ヲ求メシモ櫻島ニハ噴火ナシト答フ故ニ村長ハ残留ノ住民ニ狼狽シテ避難スルニ及ハスト諭達セシカ間モナク大爆發シテ測候所ヲ信頼セシ知識階級ノ人却テ災禍ニ罹リ村長一行ハ難ヲ避クル地ナク各身ヲ以テ海ニ投シ漂流中山下収入役大山書記ノ如キハ終ニ悲惨ナル殉職ノ最期ヲ遂ゲルニ至レリ

本島ノ爆發ハ古来歴史ニ照シ後日復亦免レサルハ必然ノコトナルヘシ住民ハ理論ニ信頼セス異變ヲ認知スル時ハ未然ニ避難ノ用意尤モ肝要トシ平素勤倹産ヲ治メ何時變災ニ値モ路途ニ迷ハサル覚悟ナカルヘカラス茲ニ碑ヲ建テ以テ記念トス
    大正十三年一月                  東櫻島村


(訳)「大正三年一月十二日の桜島の爆発は安永八年以来の大災害で、全島が猛火に包まれ、噴石が落下し、降灰が天地をおおい、その光景は凄惨を極め、八つの部落を全滅させ、百四十人の死傷者を出した。 この爆発の数日前より、地震が頻発し、山頂には多少の崩壊が認められ、海岸には熱湯が吹き出し、旧噴火口から白煙があがるなど、刻刻と容易ならざる現象があったため、村長は何度も測候所に判断を求めた。しかし桜島は噴火なしという回答であったため、村長は残っていた住民に、狼狽して避難するに及ばないと伝達した。しかし間もなく大爆発が起き、測候所を信用した知識階級の人がかえって災難にかかり、村長一行は難を避ける場所もなく、各自海に飛び込み漂流中、山下収入役、大山書記などはついに悲惨な最期を遂げるにいたった。 
本島の爆発は、古来の歴史にてらせば、後日また免れないことは必然である。住民は理論を信頼せず、異変を認知する時は、未然に避難の用意をすることをもっとも肝要とし、平素から倹約・貯金し、いつ災害にあっても路頭に迷わない覚悟をしなくてはならない。 ここに碑を建て、記録する。 

    大正十三年一月                  東桜島村」

経緯

上述の「村長」とは当時の東桜島村長・川上福次郎である。川上は危うく助かったが、自分が鹿児島測候所(現:鹿児島地方気象台)の回答を信用して住民に避難しないよう指示し、結果として多くの遭難者を出してしまったことを悔い「この噴火では、測候所を信用して多くの死者を出した。住民は桜島の異変を知ったら、理屈を信用しないで未然に避難せよ」との文面の石碑を建て、教訓を後世に残すことを念願した。川上はこれを果たせずに死去したが、噴火から10周年を迎えた1924年1月に、後任の村長・野添八百蔵が碑の建立を果たした。

碑文は、当時の鹿児島新聞(現:南日本新聞)の記者・牧暁村が執筆したが、自らの判断で「測候所」を「理論」とぼかして「理論ニ信頼セス」としたことから、この碑が「科学不信の碑」として知られることになった[5]

拓本採取

鹿児島県立博物館では、2014年が桜島大正大噴火100周年であったことから、2013年度にその企画展を行うことを計画し、その一環として、この記念碑も含めて、被害を伝える石碑の拓本採取に取り組んだ。こうした石碑の多くがもろい溶結凝灰岩で作られていることから、風化により字が崩れるなどして碑文が判読しづらくなっているためである[3]

脚注

参考文献

  • 柳川喜郎『桜島噴火記―住民ハ理論ニ信頼セズ…』日本放送出版協会、1984年。ISBN 414008362X

関連項目

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