役所

(やくしょ)または(やくば)とは、中央官庁)や地方公共団体都道府県市区町村)が、公の事務とりわけ行政事務を取り扱う組織、およびその組織が入居する建物をいう。後者の意味に限定して呼ぶ時には(ちょうしゃ)という。

1880年代フィンランドクオピオに建てられた市庁舎

単に「役所」という場合には行政機関の意味に限定して用いられるが、「官公庁」「官公署」という場合には司法機関・立法機関も含む。

各国の役所

概要

札幌市西区役所庁舎

日本では国家機関官庁(かんちょう)[1]、または、官署(かんしょ)[2]地方公共団体その他の公法人の組織を公署(こうしょ)[3]といい、総称して官公庁(かんこうちょう)[4]、または、官公署(かんこうしょ)[5]という。

地方公共団体の事務所をその種別によって以下のように区別する。

  • 都道府県 - 都庁(とちょう)、道庁(どうちょう)、府庁(ふちょう)、県庁(けんちょう)
  • 市や区 - 市役所(しやくしょ)、区役所(くやくしょ)
  • 町や村 - 町役場(まちやくば、ちょうやくば)、村役場(むらやくば、そんやくば)

自治体によっては「役所」の名称を用いず「市庁」などと称する場合もある(例:八戸市)。本土復帰前の沖縄の町村では町役所・村役所(ちょうやくしょ・そんやくしょ)の名称を使用しており、本土復帰後も豊見城村(現在の豊見城市)のみは村役所を名乗っていた。また、1878年から1926年まではアメリカ合衆国同様の「郡役所」(ぐんやくしょ)が存在した(所在地は郡庁所在地)。また、東京都における区役所と、他の政令指定都市における区役所は、名称は同じであるが、前者は独立した地方公共団体であり(したがって選挙で選ばれた区長や区議会の監督を受け、職員は他区役所へ転勤することはない)、後者は市役所の支所にすぎないため、まったく性格が異なる。

地方公共団体の役所

地方公共団体の役所(地方公共団体事務所)の場合は、地方自治法4条1項の規定により、その所在地を位置条例で定めなければならないため、役所の引越しには、議会における条例の改正等が必要となる。一般的な条例改正にあたっては、出席議員の過半数によって決するが、役所の位置を変更する場合は、出席議員の3分の2以上の同意を得なければならない。

山口県旭村(現在:萩市)と高知県東洋町では、合併時の経緯から、定期的に役場本所と支所を入れ替えるというユニークなシステムを取っていた。

また、地方自治法4条2項では、庁舎の位置の決定・変更にあたっては、住民の利便性が最も高くなるように、交通事情や他の官公署との関係等を考慮しなければならないとされている。地方公共団体の庁舎は、通常その地方公共団体の地域内に置かれるが、町村内の移動よりも隣接自治体の市街地への移動の利便性が高い場合には、他の公共団体内に庁舎を置くことがある。2018年2月現在、以下の3町村がこれにあてはまる。

島嶼を除く地方公共団体では、青森県下北郡東通村が、村の成立から100年間、1988年までむつ市庁舎を置いていた[12]

2011年3月11日東北地方太平洋沖地震東日本大震災)による福島第一原子力発電所事故で帰還困難区域とされた福島県双葉町は、4月1日より役場機能を埼玉県加須市に移転し、2013年6月17日以降は役場機能を福島県いわき市に移転している[13]ただし、これは役場機能の移転であって、庁舎を移転しているわけではない[14]

市町村の役所の部署の例

市町村の役所は、法律によって市町村が行うこととされている事務のほか、市町村独自に定めた住民サービスなどあらゆる行政事務を行うために種々の部署が設けられている。

広域行政を担う都道府県と住民により近い行政を担当する市町村では、設置する部署にもさまざまな相違がある。

  • 市町村にあり都道府県にない部署の例:戸籍住民票関連を取り扱う部署。ただし、政令指定都市では区役所に実質的な窓口が置かれており、市役所本庁では取り扱っていない場合が多い(証明書発行に特化した窓口を設置している場合はある[注釈 1])。
  • 都道府県にあり市町村にない部署の例:旅券の発給を行う部署。ただし、事務移譲されている市町村もある。

なお、政令指定都市や中核市などでは、都道府県の事務の一部が移譲されており、これらの事務を担当する部署が設けられている。

次に市町村の役所の部署について例を掲げる。これらの各部署は、地方自治体によって名称や業務分掌が大きく異なるので留意のこと。各部署は議会、とりわけ管轄する委員会により監督されている。例外として、千葉県松戸市の「すぐやる課」を嚆矢とする、首長直轄の即応サービス部門を置く役所もある。

住民課/市民課など
婚姻届離婚届出生届死亡届・転入届・転出届・転居届など戸籍住民票に関する届出。
印鑑登録証明書マイナンバーカードやその他の各種証明書の発行。
国民健康保険及び国民年金なども扱うことが多いが大規模な市区などになると当該部門が独立している場合がある。
税務課/市民税課/収税課など
地方税市町村民税)の賦課(課税)、徴収(集金)を行う。
福祉課/福祉保健課/健康福祉課など
住民福祉に関する事務を扱う。公的扶助の受付や審査、公立保育所の運営など。
管財課/資産管理課など
市区町村が管理保有している土地及び庁舎の管理をおこなう。用地取得売却など建築物を管理する。公民地境界線確定。
都市計画課/都市整備課など
土地区画整理、市街化調整区域、市街化区域、開発許可。
環境整備課/環境課など
ごみなど不法投棄の監視も扱う。廃棄物処理、リサイクル、汚染物質の除去、監督、指導を行う。
清掃工場などの運営も行うが、一部事務組合や外部団体が運営するケースもある。
土木課/建設課/道路河川課など
公園や歩道、公道(市区町村道)などの管理、自治体の保有する建築物の補修、道路・河川等の管理を行う。
法定外公共物(赤線・青線)の管理も行う。
水道局/下水道局/水道部/水道課/上下水道課/下水道課など
内部部局ではなく地方公営企業の形をとることもある。一方、土木部門の中に組み込まれている自治体もある。
上水道下水道の管理や水道料金の収受を行う。
病院局/病院事業部など
公立病院の運営などを行う。公立病院を有する場合のみ存在するが、専門の内部部局を設けない場合も多い。近年はPFIなどにより運営を外部に委託するケースも増加している。
交通局/交通部など
地下鉄路面電車公営バスといった公営交通を管理する。公営交通を有する場合のみ存在するが、内部部局ではなく地方公営企業の形をとることが多い。
消防本部
消防署の運用管理。効率化などのために、他の自治体と一部事務組合を組織し共同運用する事例も増加傾向にある。

以下の行政委員会については、地方自治法で設置が義務付けられている。

選挙管理委員会
人事委員会又は公平委員会
監査委員
教育委員会
幼稚園小学校中学校の施設管理、学齢簿の管理など学校関係の事務、公立図書館公民館及び博物館などの管理を扱う。
図書館などの施設はPFIなどにより外部に管理委託するケース、指定管理者制度の導入も増加している。
農業委員会
固定資産評価審査委員会

役所の経済効果

役所が置かれた都市地域は経済的に発展する傾向がある。県庁所在地には県の官僚機構、国の出先機関、全国企業の支店などが集中し、都市の発展に有利な条件が形成される[17]

香川県高松市では、国の出先機関が集中しており、1955年までは四国最大の人口を有していた。

また廃藩置県の後、愛媛県庁が置かれた松山市では、県庁舎の周辺に店舗や施設などが増え、江戸時代伊予松山藩)には「外側」と呼ばれていた地域に中心市街地が形成された[18]。松山市と隣接する今治市明治時代に工業都市として発展しており、県庁が置かれなければ松山の金融・流通機能が今治に移転していたとする見方もある[19]。2010年代には、安倍晋三政権によって、地方創生のために一部政府機関を移転することが検討された[20]

建て替えと共用

2011年(平成23年)3月中旬に起こった東北地方太平洋沖地震東日本大震災)以降、防災意識の高まりから、新庁舎の建設が促進された。現在地の余地を生かして建て替える地方自治体もあるが、条例を改正したうえで、他所に建設地を定めて建て替え、移転する例も多い。しかし、財政問題を始めとする諸問題が立ちはだかって建て替えを断念する例もある。また、新しくできる複合商業施設の建物を民営企業と共用する例も出てきた。この場合、役所の存在そのものが所在地域の価値を高めることになり、商業経済的利点となる可能性がある[21]。商用施設などでのテナント的運用は行政庁の威厳を必ずや低下させるであろうが、日本の警察官が威厳以上に一般人への親しみやすさに重きを置いて交番業務などに力を入れる姿勢があるのと同様、日本の文化、とりわけ現代日本の価値観に照らして、問題視していない当局が少なくないことが分かる。インバウンド需要の急速な拡大で来日する機会が増えた2010年代後半の中国人観光客などから見れば、デパ地下を進んだ先にさり気なく役所の受付カウンターがあるなど考えられないことで[21]、威厳や面子に重きを置く中国の常識からすれば、極めて異質な光景と映っている[21]

2010年代における状況
土浦市役所本庁舎が入居する複合商業施設「ウララ」(中央)
2008年に閉店となったさくら野百貨店石巻店の土地建物の譲渡を受けて、2010年に市役所が移転した。1階は食品スーパーなどの店舗が入居している。
土浦駅西口前の複合商業施設ウララ」の核店舗であるイトーヨーカ堂が撤退した跡地に、2015年(平成27年)9月24日付で移転した。他に比して遥かに大規模ではあるが数多くのテナントの一つとして入居し、この商用ビルは市役所本庁舎として供用されている。屋上には企業広告と同じ形式の巨大看板が掲げられている。[21]
下館SPICA内に「スピカ分庁舎」として一部機能を移転。10年後、本庁舎に昇格。
福田屋百貨店栃木店の旧建物を改装し、市役所本庁舎として開所したうえで、東武宇都宮百貨店栃木市役所店)などと建物を供用する。
本庁舎の新築計画を延期し、2つの仮庁舎を開所する。1つ目は、木更津駅前商業施設「スパークルシティ木更津」の7階・8階を仮庁舎「駅前庁舎」として、2つ目は、ショッピングセンターイオンタウン木更津朝日」の2階を仮庁舎「朝日庁舎」として。
かつての岩槻市役所本庁舎から、岩槻駅東口前複合商業施設内へ移転。
中央区役所庁舎は、超高層ビルNEXT21」内へ移転。ふるまち庁舎は、新潟大和跡地の再開発ビル「古町ルフル」内へ移転。
  • 新潟市 東区役所 庁舎
東区役所庁舎は、2007年2月25日に閉店となったイトーヨーカ堂新潟木戸店の跡地に2011年(平成23年)9月20日付で新潟市中地区事務所から移転した。
黒崎駅前再開発で建設されたコムシティが早々に経営破綻し、未活用の期間が長く続いたが、最終的には北九州市が買い取り、2013年4月2日に区役所が移設された。
政府機関の地方支分部局と共同で合同庁舎に入居。

大韓民国

大韓民国では「〜庁」が使われる(京畿道庁・ソウル市庁・潭陽郡庁・江南区庁など)。

中華人民共和国

中華人民共和国では「〜人民政府」と称する(北京市人民政府、江蘇省人民政府、青島市人民政府、平遥県人民政府、八達嶺鎮人民政府など)。

中華民国

中華民国では「〜政府」「〜公所」が使われる(台北市政府、台湾省政府、彰化県政府、鹿港鎮公所など。なお、省政府は機能を凍結している)。

アメリカ合衆国

アメリカ最古のニューヨーク市庁舎

アメリカ合衆国の地方政府については「〜政府」「〜庁」と表記されることが多く、州レベルのものはもっぱら「州政府」「州庁」と呼ばれる(「カリフォルニア州政府」「ハワイ州庁」など)。市以下の地方公共団体では日本の役所になぞらえ「役所」が用いられることもある(「サンフランシスコ市政府」「サンフランシスコ市庁」のほかに「サンフランシスコ市役所」など)。これは、庁舎を示すcity hall(市庁〈舎〉、市役所)等でも同様である。

脚注

注釈

出典

  1. 官庁”. コトバンク. 2019年4月15日閲覧。
  2. 官署”. コトバンク. 2019年4月15日閲覧。
  3. 公署”. コトバンク. 2019年4月15日閲覧。
  4. 官公庁”. コトバンク. 2019年4月15日閲覧。
  5. 官公署”. コトバンク. 2019年4月15日閲覧。
  6. 三島村役場の案内”. 三島村. 2018年2月25日閲覧。
  7. 三島村誌編纂委員会 1990, p. 328.
  8. 庁舎案内”. 十島村役場. 2018年2月25日閲覧。
  9. 十島村誌編集委員会 1995, p. 1130.
  10. 町役場案内”. 竹富町. 2018年2月25日閲覧。
  11. 新竹富町役場に関する基本方針(案) (PDF). 竹富町 (2017年5月). 2018年2月25日閲覧。
  12. 東通村役場へのアクセス”. 東通村. 2018年2月25日閲覧。
  13. 埼玉県加須市と友好都市の盟約締結のお知らせ”. 双葉町 (2016年10月1日). 2018年2月25日閲覧。
  14. 庁舎案内”. 双葉町 (2017年4月3日). 2018年2月25日閲覧。
  15. 京都市:証明書発行コーナー”. 京都市文化市民局地域自治推進室市民窓口企画担当 (2018年4月8日). 2018年8月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年8月17日閲覧。
  16. 福岡市 証明サービスコーナー”. 福岡市市民局総務部区政課 (2017年1月1日). 2018年8月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年8月17日閲覧。
  17. 市川虎彦『保守優位県の都市政治』(晃洋書房2011年)29ページ
  18. 前掲市川7 - 9ページ。
  19. 前掲市川29ページ。『松山市史』(松山市史編集委員会編、1999年)8 - 9ページ。
  20. “文化庁、京都に決定 消費者庁は8月結論 政府”. http://mainichi.jp/articles/20160322/ddf/001/010/007000c 2016年6月21日閲覧。
  21. 村山健二 (2019年3月7日). こんなの中国じゃ絶対ありえない! 日本の役所が不思議すぎる=中国メディア”. サーチナ. モーニングスター. 2019年4月15日閲覧。

参考文献

  • 三島村誌編纂委員会『三島村誌』三島村、1990年。
  • 十島村誌編集委員会『十島村誌』十島村、1995年。

関連項目

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