ブレナム宮殿

ブレナム宮殿(ブレナムきゅうでん、Blenheim Palace)は、イギリスオックスフォード近郊のウッドストックにあるマールバラ公爵スペンサー=チャーチル家所有の宮殿[1][2]。イングランド最大のカントリー・ハウスといわれる[3]

世界遺産 ブレナム宮殿
イギリス
ブレナム宮殿
ブレナム宮殿
英名 Blenheim Palace
仏名 Palais de Blenheim
登録区分 文化遺産
登録基準 (2), (4)
登録年 1987年
公式サイト 世界遺産センター(英語)
地図
ブレナム宮殿の位置
使用方法・表示

沿革

初代マールバラ公爵ジョン・チャーチルは、スペイン継承戦争中のブレンハイム(ブレナム)の戦いで立てた戦功によって当時のアン女王からウッドストック (イングランド)の王室の料林と[4]、そこに建設中だった宮殿を下賜された[5]

本館と柱廊でつながった2つの翼棟からなるイギリス・バロック様式の屋敷は部屋数200以上をもち、庭園の総面積は4600ヘクタールに及ぶ。英国バロック建築の巨匠ジョン・ヴァンブラの設計により17年の年月をかけ、1722年に完成した。ヴァンブラの代表作となっている[3]

第二次世界大戦中の首相であったウィンストン・スペンサー=チャーチルは、第7代マールバラ公爵ジョン・スペンサー=チャーチルの次男ランドルフ・スペンサー=チャーチル卿の長男にあたり、ブレナム宮殿で生まれている[2]

8代マールバラ公爵ジョージ・スペンサー=チャーチルの代には保有していたルーベンスヴァン・ダイクティツィアーノレンブラントなどの名画の大半が売り飛ばされたため、ブレナム宮殿には価値のある絵画はほとんど残っていない[6]

9第マールバラ公爵チャールズ・スペンサー=チャーチルの代には更に家計がひっ迫し、アメリカマネーに頼らざるを得なくなり、アメリカの鉄道王ヴァンダービルト家コンスエロ・ヴァンダービルトと結婚した。この結婚で巨額の資金を手に入れ、ブレナム宮殿の維持に成功した[7]

ブレナム宮殿を評価する上で、その庭園は重要な要素である[5]。宮殿完成時には宮廷画家だったヘンリー・ワイズによって設計されたロマン主義的なイギリス式庭園だったが、3代マールバラ公爵チャールズ・スペンサーが1764年から1774年にかけて風景庭園師ランスロット・ブラウンに依頼して植林、人工湖、運河、橋などを配置した風景式庭園に改造し、イングランドでも無類の景観を作り出した[8]。その後、1925年から1932年のあいだにアシル・デュシェーヌの設計によるル・ノートル様式のフランス庭園に改造され今日に至っている。

1987年世界遺産に登録された[1]

2016年には映画『トランスフォーマー/最後の騎士王』でナチスの司令部のロケ地になった。この件についてアフガニスタン駐留英軍の元司令官であるリチャード・ケンプ大佐らは、ナチスと戦った戦争指導者ウィンストン・スペンサー=チャーチルの生家ブレナム宮殿に巨大なナチスハーケンクロイツの旗が掲げられたと批判した。貸し出した所有者の12代マールバラ公爵ジェイミー・スペンサー=チャーチルはこの件に沈黙を貫いている[9]

2018年7月12日からアメリカ大統領ドナルド・トランプの訪英が行われたが、ロンドンで「人種差別主義者」の訪英に反対する運動が巻き起こったため、ロンドンを避けブレナム宮殿において英首相テリーザ・メイによるトランプ歓迎式典が開かれる異例の事態となった[10][11]

2019年9月14日未明に、館内に展示中であった「アメリカ」(America)と名付けられた18の便器(イタリアの彫刻家マウリツィオ・カテランの作品、報道担当者によれば時価500万ドル)が窃盗にあった[12][13][14]

ギャラリー

外観

グレイトホール

サルーン

ロングライブラリー

チャペル

ステートルーム

グリーンライティングルーム

レッドドローイングルーム


グランド・キャビネット

庭園

登録基準

この世界遺産は世界遺産登録基準のうち、以下の条件を満たし、登録された(以下の基準は世界遺産センター公表の登録基準からの翻訳、引用である)。

  • (2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
  • (4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。

脚注

  1. 世界遺産詳解、デジタル大辞泉『ブレナム宮殿』 - コトバンク
  2. 世界の観光地名がわかる事典『ブレナムパレス』 - コトバンク
  3. 田中亮三 1999, p. 104.
  4. 杉恵惇宏 1998, p. 191.
  5. ユネスコ世界遺産センター 1996, pp. 68–77.
  6. 杉恵惇宏 1998, p. 194.
  7. 杉恵惇宏 1998, p. 195.
  8. 杉恵惇宏 1998, p. 193.
  9. “チャーチルが育った宮殿、映画撮影でナチス司令部に 批判の声”. BBC News. (2016年9月24日). https://www.cnn.co.jp/showbiz/35089480.html 2023年6月29日閲覧。
  10. “訪英のトランプ大統領、郊外を転々-抗議集会のロンドン敬遠”. Bloomberg. (2018年7月9日). https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-07-08/PBGAY66S972I01 2023年6月29日閲覧。
  11. “トランプ米大統領が訪英 ブレナム宮殿で歓迎式典に出席”. BBC News. (2018年7月13日). https://www.bbc.com/japanese/video-44817251 2023年6月29日閲覧。
  12. Madeleine Carlisle (2019年9月14日). “Golden Toilet Stolen From the U.K.'s Blenheim Palace, Birthplace of Winston Churchill” (英語). Time (London). https://time.com/5677721/stolen-gold-toilet-blenheim-palace-uk/ 2019年9月17日閲覧。
  13. 5.4億円の「黄金のトイレ」盗まれる 英美術展」『CNN』、2019年9月15日。2019年9月17日閲覧。
  14. 下司佳代子「18金「黄金のトイレ」盗まれた 男は逮捕、便器は不明」『朝日新聞』、2019年9月15日。2019年9月17日閲覧。
  15. 田中亮三 1999, p. 9.
  16. 田中亮三 1999, p. 13.

参考文献

  • ユネスコ世界遺産センター監修『ユネスコ世界遺産 8 西ヨーロッパ』講談社、1996年。ISBN 4062547082。
  • 田中亮三『図説 英国貴族の暮らし』河出書房新社、2009年。ISBN 978-4309761268。
  • 杉恵惇宏『英国カントリー・ハウス物語―華麗なイギリス貴族の館』彩流社、1998年。ISBN 978-4882025627。

関連項目

外部リンク

ブレナム宮殿公式サイト (英語)

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