ヒストンH3

ヒストンH3: histone H3)は、真核生物細胞のクロマチン構造に関係する5つの主要なヒストンのうちの1つである[1][2]。H3は中心となる球状ドメインと長いN末端テールという特徴を持ち、ヌクレオソームの数珠玉構造に関与している。ヒストンタンパク質は高度な翻訳後修飾を受けるが、ヒストンH3は5つのヒストンのうちで最も大規模に修飾が行われる。ヒストンH3はエピジェネティクスの新興領域で重要なタンパク質であり、その配列の多様性やさまざまな修飾状態は、遺伝子の動的かつ長期的な調節に役割を果たすと考えられている。

H3 histone, family 3A (H3.3A)
識別子
略号 H3F3A
他の略号 H3F3
Entrez 3020
HUGO 4764
OMIM 601128
RefSeq NM_002107
UniProt Q66I33
他のデータ
遺伝子座 Chr. 1 q41
H3 histone, family 3B (H3.3B)
識別子
略号 H3F3B
Entrez 3021
HUGO 4765
OMIM 601058
RefSeq NM_005324
UniProt P84243
他のデータ
遺伝子座 Chr. 17 q25
クロマチン構造の基本的単位

エピジェネティクスと翻訳後修飾

H3のN末端はヌクレオソームの球状のコアから突出しており、細胞過程に影響を与える翻訳後修飾を受ける。こうした修飾には、リジンアルギニン残基へのメチル基アセチル基の付加、セリンまたはスレオニン残基のリン酸化が含まれる。リジン9番残基のジメチル化とトリメチル化は遺伝子の発現抑制やヘテロクロマチンと関係しており(H3K9me2H3K9me3を参照)、一方リジン4番のモノメチル化は活発に発現している遺伝子と関係している(H3K4me1を参照)[3][4]。H3のいくつかのリジン残基のアセチル化は、ヒストンアセチルトランスフェラーゼによって行われる。リジン14番のアセチル化はRNAへの転写が活発に行われている遺伝子で一般的にみられる(H3K14acを参照)。

配列多様性

哺乳類では、ヒストンH3に配列のバリアントが存在することが知られている。これらはヒストンH3.1、H3.2、H3.3、H3.4(H3T)、H3.X、H3.Yと表記されるが、配列は高度に保存されており、いくつかのアミノ酸が異なるのみである[5][6]。ヒストンH3.3は哺乳類の発生過程において、ゲノムの完全性の維持に重要な役割を果たしていることが知られている[7]。ヒストンバリアントは生物種によってさまざまであり、それらの分類や各バリアント特異的な特徴については"HistoneDB - with Variants" データベースに記載されている。

遺伝子

ヒストンH3はヒトゲノム中ではいくつかの遺伝子によってコードされている。一部を挙げる。

  • H3.1: HIST1H3AHIST1H3BHIST1H3CHIST1H3DHIST1H3EHIST1H3FHIST1H3GHIST1H3HHIST1H3IHIST1H3J
  • H3.2: HIST2H3AHIST2H3CHIST2H3D
  • H3.3: H3F3AH3F3B

出典

  1. “Recognition and classification of histones using support vector machine”. Journal of Computational Biology 13 (1): 102–12. (2006). doi:10.1089/cmb.2006.13.102. PMID 16472024. https://eprints.ucm.es/9328/1/31.Reche_etal_MI_2006.pdf.
  2. Hartl, Daniel L.; Freifelder, David; Snyder, Leon A. (1988). Basic Genetics. Boston: Jones and Bartlett Publishers. ISBN 978-0-86720-090-4. https://archive.org/details/basicgenetics0000hart
  3. “Determination of enriched histone modifications in non-genic portions of the human genome”. BMC Genomics 10: 143. (March 2009). doi:10.1186/1471-2164-10-143. PMC 2667539. PMID 19335899. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2667539/.
  4. “Methylation of histone H3 lysine 9 creates a binding site for HP1 proteins”. Nature 410 (6824): 116–20. (Mar 2001). Bibcode: 2001Natur.410..116L. doi:10.1038/35065132. PMID 11242053.
  5. “The human and mouse replication-dependent histone genes”. Genomics 80 (5): 487–98. (Nov 2002). doi:10.1016/S0888-7543(02)96850-3. PMID 12408966.
  6. “Expression patterns and post-translational modifications associated with mammalian histone H3 variants”. The Journal of Biological Chemistry 281 (1): 559–68. (Jan 2006). doi:10.1074/jbc.M509266200. PMID 16267050.
  7. “Histone H3.3 maintains genome integrity during mammalian development”. Genes & Development 29 (13): 1377–92. (Jul 2015). doi:10.1101/gad.264150.115. PMC 4511213. PMID 26159997. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4511213/.

関連項目

This article is issued from Wikipedia. The text is licensed under Creative Commons - Attribution - Sharealike. Additional terms may apply for the media files.