スティル・ゴット・ザ・ブルーズ

スティル・ゴット・ザ・ブルーズ[注釈 1]』(Still Got the Blues)は、北アイルランドギタリストゲイリー・ムーア1990年に発表したスタジオ・アルバム。ムーアのルーツであるブルースを探求した作品で、本作が自身最大のヒット・アルバムとなったのを機に、以後もブルース色の強い作品をリリースするようになった[11]。全世界的な売り上げは300万枚以上と言われる[12]

スティル・ゴット・ザ・ブルーズ
ゲイリー・ムーアスタジオ・アルバム<meta itemprop='albumReleaseType' content='アルバム' />
リリース
ジャンル ブルースロック
時間
レーベル ヴァージン・レコード
プロデュース ゲイリー・ムーア、イアン・テイラー
専門評論家によるレビュー
  • AllMusic 星4.5 / 5<meta itemprop='reviewBody' content='4.5' /><meta itemprop='bestRating' content='5' /><meta itemprop='worstRating' content='0' /> link
チャート最高順位
  • 1位(オランダ[1]、スウェーデン[2]
  • 2位(ノルウェー[3]
  • 3位(スイス[4]
  • 4位(ドイツ[5]
  • 5位(オーストラリア[6]
  • 13位(イギリス[7]、オーストリア[8]
  • 14位(ニュージーランド[9]
  • 83位(アメリカ[10]
ゲイリー・ムーア アルバム 年表
アフター・ザ・ウォー
(1989年)
スティル・ゴット・ザ・ブルーズ
(1990年)
アフター・アワーズ
(1992年)

背景

1980年代末期、ムーアは自分の音楽的方向性に関して迷いを抱いており、長年ムーアと共に活動してきたベーシストのボブ・デイズリーによれば、ドイツ公演前の楽屋でムーアと共にブルースブレイカーズの曲のジャム・セッションを行い、その時にデイズリーが「ブルース・アルバムを作ってみたらどうか?」と進言して、本作の制作につながったという[13]。そして、ムーアは1980年代初頭に共演したベーシスト、アンディ・パイル(元ブロードウィン・ピッグサヴォイ・ブラウン)と共にデモ・レコーディングを開始し、当初はパイルと共演経験のあるクライヴ・バンカーがドラマーに起用されたが、バンカーとのセッションはうまくいかず、最終的にはシンプルな演奏を評価されたグラハム・ウォーカーがドラムスを担当した[13]。また、ムーアは別のリズム・セクションも必要と考え、一部の曲では前述のボブ・デイズリーに加えて、ムーアがシン・リジィ時代に共演したブライアン・ダウニーを迎えた[13]。共同プロデューサーのイアン・テイラーは、ムーアの前作『アフター・ザ・ウォー』(1989年)でエンジニアリングミキシングを務めており、本作以降もムーアの作品のプロデュースに貢献した[14]

本作のレコーディングでは、主にムーアが1988年に購入した1959年製のレスポール・スタンダードが使用されたが、「ミッドナイト・ブルーズ」や「ストップ・メッシン・アラウンド」では、かつてピーター・グリーンから譲られたレスポールが使用された[13]。また、「テキサス・ストラット」で使用された1961年製のサーモンピンクのストラトキャスターは、ムーアが1981年、グレッグ・レイクのレコーディング・セッションに参加していた際に購入した物で、元々はトミー・スティールが所有していたと言われる[13]

「オー・プリティ・ウーマン」は、アルバート・キングがアルバム『ボーン・アンダー・ア・バッド・サイン』(1966年)で発表した曲のカヴァーである。キングは本作のヴァージョンにも本人参加し、更に同曲のミュージック・ビデオにも出演した[13]

「トゥー・タイアード」は、元々はジョニー・"ギター"・ワトソンが1955年に発表した曲で、アルバート・コリンズのアルバム『アイス・ピッキン』(1978年)でもカヴァーされており[15]、コリンズは本作のヴァージョンにゲスト参加したのに加えて、本作のリリースに伴うツアーでも30ほどの公演に参加し[13]、更にムーアの次作『アフター・アワーズ』(1992年)にも引き続き参加した[16]。一方、ムーアは後にコリンズのアルバム『コリンズ・ミックス〜ザ・ベスト・オブ・アルバート・コリンズ』(1993年)にゲスト参加している[17]

ジョージ・ハリスンが提供した「ザット・カインド・オブ・ウーマン」は、当初はエリック・クラプトンのアルバム『ジャーニーマン』(1989年)の収録曲の候補だったが、同アルバムには収録されず、クラプトンのヴァージョンはチャリティ・アルバム『Nobody’s Child: Romanian Angel Appeal』(1990年)で発表された[18]。なお、ムーアはハリスンの所属バンド「トラヴェリング・ウィルベリーズ」のアルバム『トラヴェリング・ウィルベリーズ Vol.3』(1990年10月発売)収録曲「シーズ・マイ・ベイビー」のレコーディングに参加している[19]

「オール・ユア・ラヴ」はオーティス・ラッシュが1959年に発表した曲だが、ブルースブレイカーズも1966年のアルバム『ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン』で取り上げており[20]、ムーアは友人の家でブルースブレイカーズのヴァージョンを初めて聴いた際「一瞬にして人生が変わり、信じがたい啓示を得た」ほどの衝撃を受けたという[13]

反響

全英アルバムチャートでは26週にわたりトップ100入りして、最高13位を記録し[7]、リリースから4年半後の1994年9月には、イギリス国内でプラチナ・ディスクの認定を受けた[12]。アメリカでは1991年2月16日付のBillboard 200で83位に達して自身唯一の全米トップ100アルバムとなり[10]、1995年11月には、ムーアのアルバムとしては唯一RIAAによりゴールド・ディスクの認定を受けた[21]

オランダのアルバム・チャートでは32週トップ100入りし、うち3週にわたって1位を獲得した[1]。スウェーデンのアルバム・チャートでは6回(合計14週)連続で1位を獲得し、合計14週トップ40入りした[2]。ドイツのアルバム・チャートでは、2週にわたって4位を記録し、合計57週トップ100入りするロング・ヒットとなった[5]

評価

Daevid Jehnzenはオールミュージックにおいて5点満点中4.5点を付け「ムーアの演奏は過去最良で、印象的な技巧と魂の両立した情熱的なフレーズが、とめどなく流れている」と評している[22]。エリック・クラプトンはアルバム『オールド・ソック』(2013年)で「スティル・ゴット・ザ・ブルーズ」をカヴァーしてムーアを追悼しており、この曲に関して「曲そのものが強力で、改作し甲斐があると思ったから、ジャズ・クラブ風にやってみた」とコメントしている[13]

その後

収録曲のうち「ミッドナイト・ブルーズ」と「オール・ユア・ラヴ」は、ムーアが2006年に発表したアルバム『オールド・ニュー・バラッズ・ブルース』で再録音された[23]。「スティル・ゴット・ザ・ブルーズ」のギター・フレーズは、ドイツのバンドJud's Galleryが1974年に作った曲「Nordrach」(当時はレコード化されておらず、ライブやラジオでしか聴くことができなかった)との類似が指摘されており、後に同バンドのリーダーであるJüergen Winterがムーアを訴え、2008年にはムーアが敗訴した[24]

収録曲

特記なき楽曲はゲイリー・ムーア作。

  1. ムーヴィング・オン - "Moving On" – 2:39
  2. オー・プリティ・ウーマン - "Oh Pretty Woman" (A.C. Williams) – 4:25
  3. ウォーキング・バイ・マイセルフ - "Walking by Myself" (Jimmy Rogers) – 2:56
  4. スティル・ゴット・ザ・ブルーズ - "Still Got the Blues (For You)" – 6:11
  5. テキサス・ストラット - "Texas Strut" – 4:51
  6. トゥー・タイアード - "Too Tired" (Johnny “Guitar” Watson, Maxwell Davies, Saul Bihari) – 2:50
  7. キング・オブ・ザ・ブルーズ - "King of the Blues" – 4:36
  8. アズ・イヤーズ・ゴー・パッシング・バイ - "As the Years Go Passing by" (Don Robey) – 7:45
  9. ミッドナイト・ブルーズ - "Midnight Blues" – 4:58
  10. ザット・カインド・オブ・ウーマン - "That Kind of Woman" (George Harrison) – 4:31
  11. オール・ユア・ラヴ - "All Your Love" (Otis Rush) – 3:42
  12. ストップ・メッシン・アラウンド - "Stop Messin' Around" (Clifford Davis, Peter Green) – 4:00

2002年リマスターCDボーナス・トラック

  1. ザ・スタンブル - "The Stumble" (Freddy King, Sonny Thompson) – 3:00
  2. レフト・ミー・ウィズ・ザ・ブルーズ - "Left Me with the Blues" – 3:05
  3. ファーザー・オン・アップ・ザ・ロード - "Further On Up the Road" (D. Robey, Joe Medwick) – 4:08
  4. ミーン・クルーエル・ウーマン - "Mean Cruel Woman" – 2:47
  5. ザ・スカイ・イズ・クライング - "The Sky Is Crying" (Elmore James) – 4:53

シングル

本作からのシングルのチャート最高順位を示す。

タイトル アメリカ[25] イギリス[26] オランダ[1] スウェーデン[2]
オー・プリティ・ウーマン - 48位 8位 -
スティル・ゴット・ザ・ブルーズ 97位 31位 2位 4位
ウォーキング・バイ・マイセルフ - 48位 28位 -
トゥー・タイアード - 71位 - -

参加ミュージシャン

脚注

注釈

  1. 2002年再発CD (TOCP-53269)、2007年再発CD (TOCP-53943)、2015年再発CD (UICY-25505)、2016年再発CD (UICY-77626)の帯に準拠。日本初回盤CD (VJCP-7)、1993年再発CD (VJCP-23162)、1995年再発CD (VJCP-3048)の邦題は『スティル・ゴット・ザ・ブルース』だった。

出典

  1. Gary Moore - Still Got The Blues - dutchcharts.nl
  2. swedishcharts.com - Gary Moore - Still Got The Blues
  3. norwegiancharts.com - Gary Moore - Still Got The Blues
  4. Gary Moore - Still Got The Blues - hitparade.ch
  5. Offizielle Deutsche Charts
  6. australian-charts.com - Gary Moore - Still Got The Blues
  7. GARY MOORE | full Official Chart History | Official Charts Company - 「ALBUMS」をクリックすれば表示される。
  8. Gary Moore - Still Got The Blues - austriancharts.at
  9. charts.org.nz - Gary Moore - Still Got The Blues
  10. Gary Moore Chart History - Billboard 200”. Billboard. 2022年12月1日閲覧。
  11. Prato, Greg. Gary Moore - Biography & History”. AllMusic. 2020年3月21日閲覧。
  12. Sexton, Paul (2019年3月26日). Gary Moore Gets The Blues, With Some Help From George Harrison”. uDiscoverMusic. 2020年3月21日閲覧。
  13. Shapiro, Harry (2016年8月12日). Gary Moore: the story of Still Got The Blues”. loudersound.com. Future plc. 2020年3月21日閲覧。
  14. Ian Taylor | Credits | AllMusic
  15. Cover versions of Too Tired by Albert Collins | SecondHandSongs
  16. Sweeting, Adam (2011年2月7日). Gary Moore obituary”. The Guardian. Guardian News and Media. 2020年3月21日閲覧。
  17. Wynn, Ron. Collins Mix: The Best - Albert Collins”. AllMusic. 2020年3月21日閲覧。
  18. Fanelli, Damian (2018年8月9日). Eric Clapton and the Beatles: A Guide to Nearly 50 Years' Worth of Studio Collaborations”. Guitar World. Future plc. 2020年3月21日閲覧。
  19. Mastropolo, Frank (2015年10月29日). How The Traveling Wilburys Struggled With Loss on 'Vol. 3'”. Ultimate Classic Rock. 2020年3月21日閲覧。
  20. Cover versions of All Your Love by John Mayall with Eric Clapton | SecondHandSongs
  21. Gold & Platinum - RIAA
  22. Jehnzen, Daevid. Still Got the Blues - Gary Moore”. AllMusic. 2020年3月21日閲覧。
  23. ゲイリー・ムーアの新作、日本発売決定”. CDJournal. 音楽出版社. 2020年3月21日閲覧。
  24. Ex-Thin Lizzy guitarist loses German plagiarism case (2008年12月4日). 2020年3月21日閲覧。
  25. Gary Moore Chart History - Hot 100”. Billboard. 2020年3月21日閲覧。
  26. GARY MOORE | full Official Chart History | Official Charts Company

外部リンク

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