オランザピン

オランザピン英語: Olanzapine)は、非定型抗精神病薬の一つである。1996年に発売された。日本国内では統合失調症治療薬として承認され、後に双極性障害における躁症状およびうつ症状を改善する薬剤として追加承認された。商品名ジプレキサ(Zyprexa)。規制区分は劇薬処方箋医薬品である。糖尿病には禁忌である。

オランザピン
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
胎児危険度分類
  • C
法的規制
  • (Prescription only)
投与方法 oral, intramuscular
薬物動態データ
生物学的利用能87% [1]
代謝Hepatic (direct glucuronidation and CYP mediated oxidation)
半減期21–54 hours
排泄urine 57%, feces 30%
識別
CAS番号
132539-06-1
ATCコード N05AH03 (WHO)
PubChem CID: 4585
DrugBank APRD00138
ChemSpider 10442212
KEGG D00454
化学的データ
化学式C17H20N4S
分子量312.439
物理的データ
融点195 °C (383 °F)
水への溶解量Practically insoluble in water mg/mL (20 °C)

イーライリリー社によって製造販売されている。錠剤、口腔内崩壊錠、細粒の他、筋注製剤(速効性)が承認されている。

薬理

ドーパミンD2、D3、D4セロトニン5-HT2A、5-HT2B、5-HT2C、5-HT6アドレナリンα1ヒスタミンH1の各受容体をはじめ、多数の神経物質受容体に対する拮抗作用を示す[2]。オランザピンの構造はクロザピンに似ているが、チエノベンゾジアゼピン系に分類される。オランザピンはドーパミン受容体セロトニン受容体に対し高い親和性を有している。

オランザピンの作用機序は明らかにはなっていないが、オランザピンの抗精神作用はドーパミン受容体、特にドーパミンD2受容体への拮抗作用によるものと考えられている。セロトニン拮抗作用もまたオランザピンの有効性に影響している可能性があるが、研究者の間でも5-HT2A拮抗作用については議論が続いている。

添付文書では、オランザピンの多数の受容体に対する作用が、統合失調症の陽性・陰性症状、認知障害、不安症状、うつ症状などに対する効果と、錐体外路症状を軽減する効果を生むと考えられると書かれている[3]

受容体ReceptorKi (nM)作用備考
D1en:Dopamine receptor D100070.3拮抗
D2en:Dopamine receptor D200003拮抗統合失調症(陽性症状)の治療作用に関与
D2 Longen:Dopamine receptor D200031拮抗
D2 Shorten:Dopamine receptor D200028.77拮抗
D3en:Dopamine receptor D300047拮抗
D4en:Dopamine receptor D400014.33拮抗
D5en:Dopamine receptor D500082拮抗
5-HT1Aen:5-HT1A receptor02282拮抗
5-HT1Ben:5-HT1B receptor00585不明
5-HT1Den:5-HT1D receptor01061不明
5-HT1Een:5-HT1E receptor02209不明
5-HT2Aen:5-HT2A receptor00002.4逆作動
5-HT2Ben:5-HT2B receptor00011.9逆作動鎮静作用に関与
5-HT2Cen:5-HT2C receptor00010.2逆作動食欲刺激作用に関与
5-HT3en:5-HT3 receptor00202拮抗制吐作用に関与
5-HT5Aen:5-HT5A receptor01212不明
5-HT6en:5-HT6 receptor00008.07拮抗
5-HT7en:5-HT7 receptor00105.2拮抗
H1en:Histamine H1 receptor00002.19逆作動強力な鎮静作用に関与
H2en:Histamine H2 receptor00044拮抗
H4en:Histamine H4 receptor10000以上拮抗
M1en:Muscarinic acetylcholine receptor M100026拮抗抗コリン作用に関与
M2en:Muscarinic acetylcholine receptor M200063.5拮抗
M3en:Muscarinic acetylcholine receptor M300052.64拮抗2型糖尿病に関与
M4en:Muscarinic acetylcholine receptor M400017.33拮抗
M5en:Muscarinic acetylcholine receptor M500007.5拮抗
α1Aen:Alpha-1A adrenergic receptor00112拮抗起立性低血圧に関与
α1Ben:Alpha-1B adrenergic receptor00263拮抗
α2Aen:Alpha-2A adrenergic receptor00315拮抗
α2Ben:Alpha-2B adrenergic receptor00081.8拮抗
α2Cen:Alpha-2C adrenergic receptor00028.9拮抗

日本での経緯

2000年12月にジプレキサ錠が統合失調症治療薬として承認され、2001年6月4日に発売された。

2001年11月29日に細粒が承認され、2004年5月に発売された。2005年3月にCatalent Pharma Solutions社のフリーズドライ技術「ザイディス」を採用したジプレキサザイディス錠が承認され、同年7月1日に発売された。

2010年10月、双極性障害の躁症状の改善の適応を取得。2012年2月、双極性障害におけるうつ症状の改善で承認を取得。国内初の双極性障害の躁症状と鬱症状の両方を改善する適応を持つ薬剤となった[4]

制吐作用があり、難治性、あるいはオピオイド化学療法剤による悪心嘔吐に有効だが、適応外使用となる[5]。統合失調症や気分障害などの者の家族らが組織していた全国精神障害者家族会連合会(全家連)が、1999年4月に早期に承認するよう厚生大臣や国会議員へ陳情した[6]

アメリカでの状況

  • アメリカFDAで承認された2番目の非定型抗精神病薬で、アメリカ国内で最も多く使用されている。
  • アメリカでは統合失調症に加え、双極性障害の躁病相の治療と予防、プロザックとの合剤であるOlanzapine-fluoxetine combination(OFC、シンビアックス)は双極性障害のうつ病相の治療、難治性うつ病の治療においてもFDAから承認を受けている。

禁忌

副作用

Zyprexa
ジプレキサ ザイディス錠 10mg

主な副作用は、不眠、眠気、体重増加、アカシジアジスキネジア振戦、倦怠感不安・焦燥、興奮・易刺激性。また、主な臨床検査値異常はALT(GPT)上昇、プロラクチン上昇、AST(GOT)上昇、トリグリセリド上昇である。プロラクチン上昇に伴い、乳汁分泌も報告されている[7]

他の非定型精神病薬と比べ、特に注意が必要とされている副作用が、体重増加肥満)と耐糖異常2型糖尿病)である。

オランザピンは膵臓β細胞のアポトーシスを引き起こしていることが、京都大学から報告されている[8]。もともと社会的に肥満が問題になっているアメリカ合衆国では、オランザピンによる体重増加は、すぐに心筋梗塞など致死的な疾患に結びつきかねないので、特に注意が必要とされている。

また日本においては、オランザピンと因果関係が否定できない重篤な高血糖、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡が9例(死亡例2例)報告されており、厚生省より注意喚起がなされた(2002/4)。これに対し、発売元の日本イーライリリーでは、糖尿病患者やその既往歴のある患者に対する患者への投与を禁忌に入れ、ドラッグ・インフォメーション上で目立つように警告を記述する対応をとった。

哺乳類での研究

臨床使用を模倣したマカクサルへの投与は、脳容積の大幅な減少をもたらした[9]

過剰摂取は450mg摂取で死亡報告あり。2,000mg摂取で生存報告もある。オランザピンの過剰摂取は有害であると考えられる。特定の解毒剤はないとされる。

雌マウスと雌ラットに慢性曝露した複数の研究で発癌性が実証されているが、雄マウスと雄ラットでは実証されていない。発見された腫瘍は肝臓や乳腺であった。

訴訟

ジプレキサ(オランザピン)は1996年に市場に出たが、服用後に糖尿病やほかの病気になったとの訴えがあり、2005年には8,000件の訴訟に対して7億ドル、2007年には18,000件の訴訟に対して5億ドルをイーライリリーが支払っている[10]

2009年、イーライリリーは、非定型抗精神病薬ジプレキサ(オランザピン)を、体重増加などの副作用の情報を告知せず、また常用量で死亡リスクを高める老人への睡眠薬としての利用を勧める「午後5時に5mg」などの違法なマーケティングにより、14億ドルの罰金が科された[11]

脚注

  1. Burton, Michael E.; Shaw, Leslie M.; Schentag, Jerome J.; Evans, William E. (May 1, 2005). Applied Pharmacokinetics & Pharmacodynamics: Principles of Therapeutic Drug Monitoring. Lippincott Williams & Wilkins; Fourth Edition edition. pp. 815. ISBN 978-0781744317
  2. 統合失調症研究関連試薬-多元受容体遮断薬 - 和光純薬 (2014/12/25閲覧)
  3. ジプレキサ錠2.5mg/ジプレキサ錠5mg/ジプレキサ錠10mg 添付文書 (2016年8月). 2016年11月4日閲覧。
  4. 日本リリー ジプレキサで双極性障害の「躁」「うつ」両症状の適応取得 国内初 - ミクス online (2012/02/23)
  5. オランザピン(Olanzapine) (PDF) 大阪大学医学部・緩和医療学
  6. 霞ヶ関の犯罪「お上社会」腐蝕の構造 本澤二郎 リベルタ出版 2002年 ISBN 9784947637772 p196
  7. ジプレキサ錠 添付文書(2020年2月改訂、第1版)
  8. オランザピンの代謝異常、原因が明らかに:京都大学”. CareNet (2013年8月30日). 2015年4月1日閲覧。
  9. The Influence of Chronic Exposure to Antipsychotic Medications on Brain Size before and after Tissue Fixation: A Comparison of Haloperidol and Olanzapine in Macaque Monkeys (2005)
  10. Alex Berenson (2007年1月4日). “Lilly to Pay Up to $500 Million to Settle Claims”. The New York Times. http://www.nytimes.com/2007/01/04/business/04cnd-drug.html 2013年3月15日閲覧。
  11. Maia Szalavitz Sept (2012年9月17日). “Top 10 Drug Company Settlements”. TIME.com. http://healthland.time.com/2012/09/17/pharma-behaving-badly-top-10-drug-company-settlements/ 2013年2月23日閲覧。

参考文献

  • 上島国利 編『オランザピン100の報告 ひとりひとりの治療ゴールへ』 星和書店 2003年。
  • 上島国利 編『オランザピン急性期の報告 ――ひとりひとりの治療ゴールへ』 星和書店 2004年。
  • 藤井康男 編『オランザピンを使いこなす』星和書店 2007年5月1日。

外部リンク

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