カブトムシ亜科

カブトムシ亜科(カブトムシあか、Dynastinae)は、昆虫綱コウチュウ目コガネムシ科に属する分類群。総称としての「カブトムシ」はこの分類群の範囲を表していることが多い。約1,000種ほどが知られている。

カブトムシ亜科
様々なカブトムシ
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
: コウチュウ目 (鞘翅目) Coleoptera
亜目 : 多食亜目 Polyphaga
上科 : コガネムシ上科 Scarabaeoidea
: コガネムシ科 Scarabaeidae
亜科 : カブトムシ亜科 Dynastinae
英名
Rhinoceros beetle

生息地

熱帯地域を中心として世界中に分布を広げているが、特に多く見られるのはヘラクレスオオカブトゾウカブト属タテヅノカブト属などが生息する南アメリカ北部、次にアトラスオオカブト属ヒメカブト属などの生息する東南アジアである。これに対し、アフリカに分布する本亜科の内でオオカブトと呼ぶことのできるものはケンタウルスオオカブト属くらいである。代わりにゴライアスオオツノハナムグリを筆頭とするハナムグリ類が繁栄している。

温帯には大型種はあまり見られず、北アメリカに生息するグラントシロカブト、日本のカブトムシなどである。

日本にはカブトムシサイカブト(人為的移入種)、コカブトクロマルコガネヒサマツサイカブト(人為的移入種の可能性有り)の5種が生息している。

特徴

本亜科の持つ第一の特徴として挙げられるのは、オスのであるが、これは全てのカブトムシにあるわけではない。メスには角はないが、突起のようなものを見ることができるものがあり、これは産卵時に土壌や腐植質を掘り進むのに都合がよいと考えられている。オスには種類によっては頭部だけでなく前胸部にも角がある。角は餌場やメスの奪い合いの際の喧嘩に使われるが、必ずしも全ての種が角を活用しているわけではない。例えばゴホンツノカブトは5本の角を持ついかにも厳めしい姿をしたカブトムシだが、性格は温和で、角を使って争う姿は滅多に見られない。またタテヅノカブト類は細い竹の環境に適応して脚が長く発達した影響からか、喧嘩の際には角を使うよりも前脚で相手をなぎ払おうとする傾向が強い。その一方で角を武器として有効に使う種もあり、ヘラクレスオオカブトは頭角と胸角で相手を挟んで放り投げることができるし、コーカサスオオカブトは3本の角で相手を封じ込める。

成虫の体長は様々で、20mmほどのものから、150mmを超える大型種まである。最大はヘラクレスオオカブトの180mm、次いで同属のネプチューンオオカブト、3位にコーカサスオオカブトとなる。最重はゾウカブト類の大型種であり、これらはゴライアスハナムグリに次ぐ重量級の甲虫である。

本亜科を含む甲虫類は独特の翅の構造を持つが、本亜科に属する種はその大きな体のため、飛翔は至極不器用である。ゾウカブト程の大型種ともなると羽音はすさまじい。足場を決めると、上翅を広げ、その下に畳まれていた下翅を伸ばして離陸する。幹にぶつかるように着地するが、脚を広げて飛ぶため、着地の際には木の葉や枝に引っかかってぶら下がる格好となることも珍しくない。尚、ヘクソドン類は上翅が融合し、飛翔能力がない。

飼育

日本で外国産のカブトムシが飼育され始めるようになったのは、1999年の初解禁時である。オオクワガタを初めとするクワガタムシが、体長1mmをも争うコアなマニアのものというイメージが強いのに対し、カブトムシはどちらかというと単純に成虫の観賞飼育を楽しみたいと思う人によく飼育されている(ただし、前述のようなマニアも少なからず存在し、単純な体長よりも角の太さや形を追求するなど、クワガタムシと同等かそれ以上にマニアックな飼育者も多い)。クワガタムシは平べったい体で木の裏に隠れてばかりであるが、カブトムシは全長・体高共に大きいため飼育ケース内で目立つ上、日中でも餌を食べていることが多く、観賞に適していると言える。ただし、クワガタムシに比べると寿命が短い種が多く、長期の飼育には適さない。

詳しい飼育方法についてはクワガタムシ#飼育を参照。基本的には幼虫が腐葉土を餌とする種類のクワガタムシの飼育方法と同様と考えればよい。カブトムシは成虫・幼虫共に概して食欲旺盛である。

下位分類

8族に分けられるが、大型で発達した角を持つ有名なカブトムシの大半(日本のカブトムシヘラクレスオオカブトなど)はカブトムシ族(オオカブト族) Dynastini に分類される[8]。カブトムシ族以外に属する種の大半はオスで持つのがなかったり、突起程度の小さい角しか持たない種も少なくない[8]。ここでは主な属と種類を挙げる。

スジコガネモドキ族 Cyclocephalini

スジコガネモドキ族 Cyclocephalini はクロマルコガネ族に次いで大きい族で[8]コガネカブト族とも呼ばれる[2]。同族の種はオスでも角がほとんど発達せず、コガネムシのように見える種がほとんどである[2]。一方、黄色や黒の斑紋を持つ種などもいる[8]。全世界に15属59種が記録されているが、2属23種を除いた13属495種は南北アメリカに分布する[2]。多くは体長10 - 20 mmの小型種で、成虫は花などにも来る[8]

ヒナカブト族 Agaocephalini

ヒナカブト族 Agaocephalini はスジコガネモドキ族に近縁だが、ツヤケカブトムシ属 Spodistes などのようにオスが立派な角を持つ種も多い[1]中央アメリカから南アメリカ北部・南東部にかけて13属47種が生息する[3]

  • カラカネヒナカブト属 Agaocephala[3]
  • エボシヒナカブト族 Lycomedes - 体と脚が灰黄色の被覆物で覆われ、ビロード状になっている[9]
  • ビロードヒナカブト属 Spodistes[3] - 同上[9]

パプアカブト族 Oryctoderini

Oryctoderini 族はミナミカブト族[1]パプアカブト族と呼称される。オセアニアに約20種が分布する族で、体長30 mm程度の小型種が多く、オスでも目立った角を持たない[8]

クロマルコガネ族 Pentodontini

クロマルコガネ族 Pentodontini はカブトムシ亜科では最大の族で、体長10 - 20 mm程度の小型種が多く、角を持つ種はごく少数である[8]。寒冷な地域を除く全世界に分布するが、特にアフリカオーストラリアに分布する種が多い[8]。91属が存在。

  • クロマルコガネ属 Alissonotum - クロマルコガネ
  • ムナクボマルカブト属 Phyllognathus - ムナクボマルカブト
  • ゴカクサイカブト属 Dipelicus - カンターゴカクサイカブト
  • パプアマルカブト属 Papuana
  • クリイロミツノマルカブト属 Cryptoryctes
  • ハビロマルカブト属 Bothynus
  • アブデルスマルカブト属 Diloboderus - 1属1種。

サイカブト族 Oryctini

ヨーロッパサイカブト Oryctes nasicornis

サイカブト族 Oryctini はクロマルコガネ族、スジコガネモドキ族に注いで3番目に大きな族で[8]、全世界に26属242種67亜種が知られる[5]。世界中の温暖な地域に分布する族で[8]、うち南北アメリカには14属163種18亜種が分布している[5]。オスの短躯で、頭角と胸角が発達した形態は動物のサイを思わせる姿である[5]。熱帯アメリカに生息するパンカブトムシ属 Enama やフタツノヒサシカブトムシ属 Megaceras、熱帯アジアに生息するメンガタカブトムシ属 Trichogomphus など、オスが立派な角を持つ大型種もいる[8]

カブトムシ族 Dynastini

Dynastini 族はカブトムシ族[1]オオカブト族と呼称される[6]。同族は世界最長の種であるヘラクレスオオカブトや、世界最重量の超大型種を含む族である[10]。全種類のオスに立派な角がある一方、メスには角がない[8]。立派な角を持つよく知られたカブトムシはほとんど同族に属する[8]。2015年時点で13属100種70亜種が知られているが、南北アメリカ地域に3属54種20亜種が生息する[6]

南アメリカ大陸に生息するヘラクレスオオカブト属ゾウカブト属タテヅノカブト属東アジア東南アジア(一部オセアニア)に生息するアトラスオオカブト属ゴホンツノカブト属ゴウシュウカブト属ユミツノカブト属サンボンヅノカブト属カブトムシ属サビカブト属シナカブト属アフリカ大陸に生息するケンタウルスオオカブト属がそれぞれ単系統群を形成することが分子系統学的解析から明らかになっており[15], 大陸移動と系統の分化との関係が示唆されてきたが、パンゲア大陸の分裂時期(白亜紀前期)とカブトムシ亜科の化石記録(後期始新世)[16]が一致しなかった。しかしながら、その後の分子系統学に基づく分岐年代推定によりカブトムシ亜科の分岐はパンゲア大陸分裂の直後であったことが示唆された[17]

ヘクソドン族 Hexodontini

ヘクソドン族 Hexodontiniマダガスカル島にのみ分布する族で、約12種が知られている[8]。雌雄同型で、腐った動植物質を食べると言われている[8]

コカブト族 Phileurini

コカブト族 Phileurini は全世界に35属257種19亜種が知られるが、うち中南米に22属160種6亜種が分布している[7]コカブトムシ族とも呼ばれる[1]。オスにも角がなく小型のものが多いが、がっしりした体格が特徴である[1]。東南アジアに生息するコカブト類はオスの前脚跗節の末端が球状に肥大するが、中南米産のコカブト類はその特徴がないため、外見では雌雄を区別できないことが多い[7]肉食の種もある。

  • コカブト属 Eophileurus - コカブト
  • アリスコカブト属 Cryptodus
  • Phileurus - バルグスコカブトオウサマコカブト
  • マメコカブト属 Ambrioproctus
  • ミゾコカブト属 Archophileurus
  • イツカドコカブト属 Homophileurus - イツカドコカブト
  • ミツバコカブト属 Actinobolus
  • アナバネコカブト属 Pseudosyrichthus
  • リベリアコカブト属 Prosphilerus - 1属1種。
  • ナガコカブト属 Rhizoplatys
  • オニコカブト属 Archophanes - 2本の胸角がのように張り出す。オニコカブト
  • フチケコカブト属 Syrictes
  • ナガコカブト属 Rhizoplatys
  • ミゾコカブト属 Archophilerus
  • アバタコカブト属 Hemiphileurus - 体表に痘痕がびっしりと並んでいる。イラトゥスコカブト
  • サスマタコカブト属 Trioplus - 2本の先の丸まった角が刺股のように突き出す。サスマタコカブト
  • ミツバコカブト属 Actinobolus

脚注

  1. 海野和男 2006, p. 204.
  2. 清水輝彦 2015, p. 70.
  3. 清水輝彦 2015, p. 75.
  4. 清水輝彦 2015, p. 78.
  5. 清水輝彦 2015, p. 86.
  6. 清水輝彦 2015, p. 98.
  7. 清水輝彦 2015, p. 113.
  8. 海野和男 2006, p. 205.
  9. 清水輝彦 2015, p. 77.
  10. 清水輝彦 2015, p. 98-99.
  11. 清水輝彦 2015, p. 99.
  12. 清水輝彦 2015, pp. 99–102.
  13. 清水輝彦 2015, p. 102.
  14. 清水輝彦 2015, p. 107.
  15. Rowland, J. M., and Miller, K. B. (2012) Phylogeny and systematics of the giant rhinoceros beetles (Scarabaeidae: Dynastini). Insecta Mundi 0263, 1–15.
  16. Krell, F. T. (2007) Catalogue of fossil Scarabaeoidea (Coleoptera: Polyphaga) of the Mesozoic and Tertiary, Version 2007. Denver Museum of Nature & Science Technical Report 2007-8, 1–79
  17. Jin H, Yonezawa T, Zhong Y, Kishino H, Hasegawa M (2016) Cretaceous origin of giant rhinoceros beetles (Dynastini; Coleoptera) and correlation of their evolution with the Pangean breakup. Genes & Genetic Systems 91, 209-215.

参考文献

  • 海野和男『カブトムシの百科』(第4版)データハウス〈動物百科〉、2006年6月1日(原著1993年7月10日 初版第1刷発行)。ISBN 978-4887188754。 NCID BA78196571国立国会図書館書誌ID:000008211125全国書誌番号:21144972
  • 藤田宏 編『世界のカブトムシ(上)南北アメリカ編』6号、むし社月刊むし・昆虫図説シリーズ〉、2015年9月20日。ISBN 978-4943955467。 NCID BB20668537国立国会図書館書誌ID:026998686全国書誌番号:22687832

関連項目


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