オートクレール

オートクレールフランス語: Hauteclaire, haute + claire 「高く清らか」または「いとも清き」を意味する)[注 a][注 b]は、シャルルマーニュ伝説に登場する騎士パラディンオリヴィエ。11世紀古フランス語武勲詩ロランの歌』やその他の武勲詩、それらの翻訳翻案作品に登場する。

ロランの歌

ロランの歌』では、オリヴィエの剣として言及されている。鍔金水晶で飾られていたと描かれている[1]

他の武勲詩

12世紀末(1170年頃)成立の武勲詩『フィエラブラ』では、主君シャルルマーニュの剣ジョワイユーズや親友ロランの剣デュランダルなどと同じ鍛冶師一族によって鍛えられたとされている[2][3][注 1]

12世紀末(1180年頃)成立の武勲詩『ジラール・ド・ヴィエンヌ』(ベルトラン・ド・バール゠シュル゠オーブ作)では、かつては(架空の)ローマ皇帝クロザモン (Closamont) の剣であったが、幾人かの手を経てオリヴィエの下に渡ってきたと語られている[4][5]

14世紀末(1398年頃)成立の武勲詩『サラゴサのローラン』では Talhaprimatalha + prima, タラプリマ?)と呼ばれている[6][7]

翻訳・翻案作品

イタリア語圏の翻訳・翻案作品では、アルタキアライタリア語: Altachiara, alta 「高く」 + chiara 「清らか」、フランス語名オートクレールの意味訳か)、アルタキエラAltachiera)などの表記で登場する[8]。また作品によっては、別名(かつての名前)としてキアレンツァChiarenza, chiar + -enza 「清澄さ、輝き」からか)またはクラレンツァClarença[9][注 c]ガスティガ=フォッリGastiga-folli, gastiga < castiga 「懲らしむ、罰す」 + folli 「愚かな、愚者」からか)があったとされる。

14世紀末(1400年頃)にイタリア語散文で書かれたアンドレア・ダ・バルベリーノの『アスプラモンテ』(L'Aspramonte, 12世紀古フランス語武勲詩アスプルモンの歌』を翻案したもの)では、アルタキアラ(Altachiara)の表記で登場する。本作ではアルタキアラがウリヴィエーリ(Ulivieri, ⇒オリヴィエ)の下に来るまでの来歴が語られているが、かつてはランツィロット・ダル・ラーゴ(Lanzilotto dal Lago, ⇒フランス語圏のアーサー王伝説におけるランスロット・デュ・ラック[注 2]の剣であり、またブオーヴォ・ダントーナ(Buovo d'Antona, ⇒英語圏の物語詩『ハンプトンのビーヴィス』に登場するハンプトンのビーヴィス)の剣でもあったとされている。ランツィロットの下にあったときはガスティガ=フォッリと呼ばれ、ブオーヴォの時代にはキアレンツァと呼ばれていた。ゲラルド(Gherardo, ⇒ジラール・ド・ヴィエンヌ)がこの剣を入手し、アルタキアラと名付けウリヴィエーリに与えた[10][11][12][13]

アンドレア・ダ・バルベリーノの他の著作『フランス王家』(I Reali di Francia, wikidata)でも、ブオーヴォ・ダントーナに関する箇所で、キアレンツァに関する言及がある[14]

15世紀末(1495年)にイタリア語韻文で書かれたボイアルドの『恋するオルランド』でも、アルタキアラ(Altachiara[15]またはアルタキエラ(Altachiera[16]の表記で、オリヴィエロ(Oliviero, オリヴィエ)の剣として登場する[17]

15世紀にイタリア語(中世トスカーナ方言)で書かれたアーサー王物語系の作品『円卓物語[18]では、円卓の騎士5人の像を後世にシャルルマーニュが発見し、像に携えられていた剣を受け継ぐというエピソードが語られている[19]。ここでもランチアロット(Lancialotto, ⇒ランスロット)の剣をウリヴィエーリ(Ulivieri, ⇒オリヴィエ)が受け継ぎ、アルタクレラ(Altaclera, ⇒オートクレール)と呼ばれた、と語られている[20][21]

ドイツ語圏の作品ではアルテクレーレドイツ語: Alteclere)という表記で登場する[8][22]

ヴィクトル・ユーゴーの作品『ローランの結婚』(le Mariage de Roland, 『諸世紀の伝説』所収、1859年)ではクロザモンClosamont)という別名があるとされている[23][5][24]。これは Achille Jubinal[24] が『ジラール・ド・ヴィエンヌ』を散文訳した際の誤りを踏襲してしまったものと考えられている[25]

脚注

注釈

a. ^  語釈について、有永 (1965), p. 269(後注:1363行目:オートクレール)では「高く清らか」「いとも清き」としている。

b. ^  オートクレール、アルタキアラの綴りとしては、 Aakleif [8], Altachiara [8], Altachiera [8], Altaclara [8], Alteclara [8], Alteclare [8], Alteclere [8], Anteclere [8], Anticlêre [8], Atakle [8], Haltecler [8], Hantegler [8], Hatakler [8], Hattagisser [8], Hatukleif [8], Haulteclere [8], Haunchecler [8], Hautacleir [8], Hautecleer [8], Hautecler [8], Hauteclere [8], Hawdyclyr [8], Hawtcler [8], Hawteclere [8], Hawteclyr [8], Klareit [8], がみられる。

c. ^  キアレンツァ、クラレンツァの綴りとしては、 Chiarenza [9], Clarença [9], Clarençe [9], がみられる。

  1. 『フィエラブラ』には複数のバージョンが存在する点に注意。参考:『フィエラブラ』 - 『ロランの歌』登場アイテム - 神話と詩の収納庫”. 2023年2月28日閲覧。
  2. Boni (1951), pp. 290–291(本文)での表記はランツィロット・ダル・ラーゴ(Lanzilotto dal Lago)、Boni (1951), p. 355(索引)での表記はランツィロット・デル・ラーゴ(Lanzilotto del Lago)となっている。

出典

  1. 有永 1965, p. 88(第107詩節、1364-1365行目)
  2. Kroeber & Gustave (1860), p. 21, 655行目前後: ... Et Galans fist Floberge à l'acier atempré, / Hauteclere et Joiouse, où moult ot digneté : ...(引用は654-655行目、強調は引用者による)
  3. Jehan Bagnyon版『フィエラブラ』第2書第1部第9章。Bagnyon (2013). ... Et gallant l'autre frere fit celle qui nommoit flamberge l'autre haulte clere et l'autre joyeuse que charlemagne avoit pour grant especialité. ...(強調は引用者による)
  4. 『ジラール・ド・ヴィエンヌ』第156詩節(5529-5566行目)。Bertrand de Bar-sur-Aube & Newth (1999), pp. 152–153.
  5. Gautier 1872, vol. 2, pp. 136-137, Vers 1363. - Halteclere. Wikisource reference Notes et variantes”. La Chanson de Roland. - ウィキソース. [スキャンデータ]
  6. Roques 1925, p. 413(119行目)
  7. Roques 1956, p. 5(119行目); p. 52(索引)
  8. Moisan 1986, pp. 366-367 ("HAUTECLERE")
  9. Moisan 1986, p. 202 ("CLARENÇA")
  10. Cavalli 1972, p. 308.
  11. Boni 1951, pp. 290–291.
  12. Boni 1951, p. 336(索引 "Altachiara")
  13. Boni 1951, p. 355(索引 "Lanzilotto del Lago")
  14. Branca 2008, pp. 82, 85, 168, etc..
  15. Boiardo 1906, p. 130(第1巻第7歌第6聯第3行)
  16. Boiardo 1906, p. 131(第1巻第7歌第7聯第2行)
  17. Boiardo 1906, pp. 130–131(第1巻第7歌第6-7聯)
  18. 「円卓物語」の表記は以下の文献にみられる:狩野, 晃一 著「中世イタリアのトリスタン物語『円卓物語(ラ・ターヴォラ・リトンダ)』」、渡邉浩司 編『アーサー王伝説研究 : 中世から現代まで』中央大学出版部〈中央大学人文科学研究所研究叢書71〉、2019年。ISBN 9784805753552。
  19. Polidori 1864, pp. 391–392.
  20. Polidori 1864, p. 392. E quella di Lancialotto ebbe il marchese Ulivieri, e appellòlla Altaclera, cioè spada bella.(強調は引用者による)
  21. Polidori 1865, pp. 13–14("SPOGLIO LESSICOGRAFICO"(用語集兼索引) - "Altaclera" )
  22. 「アルテクレーレ」のカナ表記は寺田 (1992), p. 15(脚注29)にみられる。
  23. Hugo 1859.
  24. Thomov 1978, p. 472.
  25. Thomov 1978, p. 471.

参考文献

ロランの歌
他の武勲詩 - フィエラブラ
他の武勲詩 - ジラール・ド・ヴィエンヌ
他の武勲詩 - サラゴサのローラン
翻訳・翻案作品 - アスプラモンテ
翻訳・翻案作品 - フランス王家
翻訳・翻案作品 - 恋するオルランド
翻訳・翻案作品 - 円卓
翻訳・翻案作品 - 他
リファレンス類

関連項目

  • アロンダイト - 13世紀末(1300年頃)の中英語詩『ハンプトンのビーヴィス』に登場するビーヴィスの息子ガイの剣。『ハンプトンのビーヴィス』でも、かつてはランスロットの剣であったとされている。
  • シャスティフォル - アーサー王伝説に属する14世紀末(1400年頃)の中期フランス語散文パプゴーの物語』(『鸚鵡の騎士』とも)に登場する剣。本記事のガスティガ=フォッリと同じ意味の名前を持つ。
  • クォデネンツ - ロシアの伝承に登場する剣。本記事のキアレンツァ、クラレンツァに由来するとする説がある。

外部リンク

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