イオン化エネルギー

イオン化エネルギー(イオンかエネルギー、英語: ionization energy、電離エネルギー、イオン化ポテンシャルとも言う)とは、原子イオンなどから電子を取り去ってイオン化するために必要な最小のエネルギー[1]。ある原子がその電子をどれだけ強く結び付けているのかの目安である。

元素順の第一イオン化エネルギー。アルカリ金属で最も小さく、貴ガスで最も大きくなる周期的な変化が見られる。

気体状態の単原子(または分子の基底状態)の中性原子から取り去る電子が1個目の場合を第1イオン化エネルギー(IE1)、2個目の電子を取り去る場合を第2イオン化エネルギー(IE2)、3個目の電子を取り去る場合を第3イオン化エネルギー(IE3)・・・(以下続く)と言う[2]。単にイオン化エネルギーといった場合、第1イオン化エネルギーのことを指すことがある。

 IE1
 IE2
 IE3

イオン化エネルギーの一般的な傾向は、s軌道p軌道の相対的エネルギーとともに、電子の結合に対する有効核電荷の効果を考えることによって説明できる。

原子核の正電荷が増すにつれ、与えられた軌道にある負に荷電した電子はより強いクーロン引力を受け、より強く保持される。ヘリウムの1s電子を除去するには水素の1s電子を除去するよりも多くのエネルギーを必要とする。

 
  

周期表の同じ周期の中で最高のイオン化エネルギーは貴ガスのものである。これは貴ガス元素が周期表の右端にあり、同周期中で最も最外殻電子に対する有効核電荷が大きいことに由来する。

主量子数の値が小さい内殻電子のイオン化エネルギーは価電子に比べ格段に大きい[3]。たとえば電子3個のリチウムではIE1は5.32eV であるが、1sからのIE2は75.6eVである[3]。2s軌道の電子は1s軌道の電子ほど強く保持されていない。

最低のイオン化エネルギーは周期表の左端にある第1族元素のものである。これらの原子のひとつから電子1個を除くと貴ガス原子と同じ閉殻電子配置を持つイオンになる。

どの原子からも最も容易に失われる電子は最高エネルギー軌道にある電子からである。

一覧

イオン化エネルギーの一覧 kJ/mol
原子番号元素記号元素名第1第2第3第4第5第6第7第8第9第10
1H水素 1312.0
2Heヘリウム 2372.35250.5
3Liリチウム 520.27298.111815.0
4Beベリリウム 899.51757.114848.721006.6
5Bホウ素 800.62427.13659.725025.832826.7
6C炭素 1086.52352.64620.56222.73783147277.0
7N窒素 1402.328564578.17475.09444.953266.664360
8O酸素 1313.93388.35300.57469.210989.513326.57133084078.0
9Fフッ素 1681.03374.26050.48407.711022.715164.11786892038.1106434.3
10Neネオン 2080.73952.361229371121771523819999.023069.5115379.5131432
11Naナトリウム 495.845626910.395431335416613201172549628932141362
12Mgマグネシウム 737.71450.77732.710542.5136301802021711256613165335458
13Alアルミニウム 577.51816.72744.811577148421837923326274653185338473
14Siケイ素 786.51577.13231.64355.5160911980523780292873387838726
15Pリン 1011.819072914.14963.66273.92126725431298723590540950
16S硫黄 999.62252335745567004.38495.827107317193662143177
17Cl塩素 1251.2229838225158.66542936211018336043860043961
18Arアルゴン 1520.62665.8393157717238878111995138424076046186
19Kカリウム 418.830524420587779759590113431494416963.748610
20Caカルシウム 589.81145.44912.4649181531049612270142061819120385
21Scスカンジウム 633.11235.02388.67090.688431067913310152501737021726
22Tiチタン 658.81309.82652.54174.695811153313590164401853020833
23Vバナジウム 650.91414283045076298.71236314530167301986022240
24Crクロム 652.91590.62987474367028744.915455178202019023580
25Mnマンガン 717.31509.0324849406990922011500187702140023960
26Fe 762.51561.9295752907240956012060145802254025290
27Coコバルト 760.41648323249507670984012440152301795926570
28Niニッケル 737.11753.03395530073391040012800156001860021670
29Cu 745.51957.9355555367700990013400160001920022400
30Zn亜鉛 906.41733.33833573179701040012900168001960023000
31Gaガリウム 578.81979.329636180
32Geゲルマニウム 7621537.53302.144119020
33Asヒ素 947.0179827354837604312310
34Seセレン 941.020452973.741446590788014990
35Br臭素 1139.921033470456057608550994018600
36Krクリプトン 1350.82350.4356550706240757010710121382227425880
37Rbルビジウム 403.0263338605080685081409570131201450026740
38Srストロンチウム 549.51064.2413855006910876010230118001560017100
39Yイットリウム 6001180198058477430897011190124501411018400
40Zrジルコニウム 640.112702218331377529500
41Nbニオブ 652.11380241637004877984712100
42Moモリブデン 684.315602618448052576640.812125138601583517980
43Tcテクネチウム 70214702850
44Ruルテニウム 710.216202747
45Rhロジウム 719.717402997
46Pdパラジウム 804.418703177
47Ag 731.020703361
48Cdカドミウム 867.81631.43616
49Inインジウム 558.31820.727045210
50Snスズ 708.61411.82943.03930.37456
51Sbアンチモン 8341594.924404260540010400
52Teテルル 869.31790269836105668682013200
53Iヨウ素 1008.41845.93180
54Xeキセノン 1170.42046.43099.4
55Csセシウム 375.72234.33400
56Baバリウム 502.9965.23600
57Laランタン 538.110671850.348195940
58Ceセリウム 534.410501949354763257490
59Prプラセオジム 5271020208637615551
60Ndネオジム 533.1104021303900
61Pmプロメチウム 540105021503970
62Smサマリウム 544.5107022603990
63Euユウロピウム 547.1108524044120
64Gdガドリニウム 593.4117019904250
65Tbテルビウム 565.8111021143839
66Dyジスプロシウム 573.0113022003990
67Hoホルミウム 581.0114022044100
68Erエルビウム 589.3115021944120
69Tmツリウム 596.7116022854120
70Ybイッテルビウム 603.41174.824174203
71Luルテチウム 523.513402022.343706445
72Hfハフニウム 658.5144022503216
73Taタンタル 7611500
74Wタングステン 7701700
75Reレニウム 760126025103640
76Osオスミウム 8401600
77Irイリジウム 8801600
78Pt白金 8701791
79Au 890.11980
80Hg水銀 1007.118103300
81Tlタリウム 589.419712878
82Pb 715.61450.53081.540836640
83Biビスマス 70316102466437054008520
84Poポロニウム 812.1
85Atアスタチン 890±40
86Rnラドン 1037
87Frフランシウム 380
88Raラジウム 509.3979.0
89Acアクチニウム 4991170
90Thトリウム 587111019302780
91Paプロトアクチニウム 568
92Uウラン 597.61420
93Npネプツニウム 604.5
94Puプルトニウム 584.7
95Amアメリシウム 578
96Cmキュリウム 581
97Bkバークリウム 601
98Cfカリホルニウム 608
99Esアインスタイニウム 619
100Fmフェルミウム 627
101Mdメンデレビウム 635
102Noノーベリウム 642
103Lrローレンシウム 470
104Rfラザホージウム 580

イオン化エネルギーについての補足

アルカリ金属などでIEが低く、貴ガスに近づくにつれ値が高まる傾向があることは前述のとおりだが、ベリリウムホウ素窒素酸素などではその傾向が少しだけ逆転している[4]。この理由については原子軌道フントの規則を考慮する必要がある。

窒素原子と酸素原子を例に考える。二つの電子配置は次の表のようになる。(IEの単位はeV)

N : 1s2 2s2 2p3   IE1:14.53, IE 2:29.60

O : 1s2 2s2 2p4   IE1:13.61, IE 2:35.12

1s2s2px2py2pz
N ↑↓↑↓
O ↑↓↑↓↑↓

窒素原子より酸素原子のほうが第一イオン化エネルギーが小さいのは、2p軌道に入る4個目の電子が三重に縮重したp軌道のいずれかの軌道に異なるスピンをもって入り、電子間の静電的な反発エネルギーが電子を不安定にするためである。

ちなみに、第2イオン化エネルギーの場合は、どちらも区別のつかない2p軌道からひとつずつ取り去るので、有効核電荷が大きい酸素原子のほうがIE2は大きくなる。このことは他の周期でもみられる。

また電気陰性度(マリケンの電気陰性度)は、電子親和力とイオン化エネルギーの相加平均であるが、前者に比べ後者のほうがかなり大きいため、電気陰性度はほぼイオン化エネルギーに比例する。

脚注

  1. IUPAC, Compendium of Chemical Terminology, 2nd ed. (the "Gold Book") (1997). オンライン版:  (2006-) "ionization energy".
  2. Shriver & Atkins (2001), p.39。
  3. Shriver & Atkins (2001), p.43。
  4. Shriver & Atkins (2001), pp.41-42。

参考文献

  • Shriver, D. F. and Atkins, P. W.『シュライバー無機化学(上)』玉虫伶太佐藤弦垣花眞人訳、東京化学同人、2001年。ISBN 4-8079-0534-1。

関連項目

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