アーヴ語

アーヴ語(アーヴご、アーヴ語:Baronh)は、森岡浩之SF小説星界の紋章』シリーズに登場する架空の言語。架空の文字アースによって表記される。

アーヴ語
創案者 森岡浩之
設定と使用 SF小説星界の紋章』に登場する未来世界の言語(作中世界での存在としては自然言語であり、人工言語ではない)
話者数
目的による分類
人工言語
  • アーヴ語
表記体系 アーヴ文字(アース)
参考言語による分類 上古日本語(いわゆる「やまとことば」)
言語コード
ISO 639-3

アーヴ語は設定上、宇宙空間を生活圏とするアーヴ種族が母語とする言語であると共に、アーヴによる人類帝国(フリューバル・グレール・ゴル・バーリFrybarec Gloer Gor Bari)、通称アーヴ帝国(バール・フリューバルBar Frybarec)の公用語ということになっている。

アーヴ語の表記に用いられるアース(アーヴ文字)。

系統

ヤマト語族トヨアシハラ語派に属する。純化を経ていない日本語の未来の姿はヤマト語族ニッポン語派(クロムシュタット・ヤマト語及びマツオ語)と設定され、近縁語であるとされている。

発音と表記

母音

前舌 中舌 後舌
非円唇 円唇 非円唇 円唇
/i//y/ /u/
半狭 /e//ø/ /o/
/ə/
半広 /ɛ//œ/ /ɔ/
/a/

アーヴ語には11の短母音があり、それぞれの母音を表すための11のアーヴ文字が存在する。アーヴ語の長母音はアクセントによって現れるものであり、弁別機能はない。

半母音と重母音

半母音は以下の3つである。

このうち、母音が連続する時の音である。また、/ajθ/(邦国)、/rojʀ/(似我蜂)といった一部の語中にある[j]の発音となる。

アーヴ語において重母音を認めるべきかの指針は示されていないが、もし認めるとすると、上昇二重母音には/ja, jɛ, je, jo, ju, wa, we, wi, ɥa, ɥe/、下降二重母音には/aj, ej, aj, uj, aw, ew/が確認される。ÿ系の下降二重母音(母音+の組み合わせ)は確認されない。三重母音は/swaj/(館)に/waj/が見られる。重母音が音声としてどのように発音されるかを知るすべは無いが、例えば/abljar/が仮名表記で「アブリャル」ではなく「アブリアル」と書かれることを見ると、[abljar]よりは[abli̯ar]に近い発音ではないかと考えることもできる。

子音

子音も表の通りである。馴染みの薄いであろう子音を説明する。

  • /ɸ/は現代日本語「ファ、フィ、フ、フェ、フォ」の子音である。
  • /ɲ/は現代日本語「ニャ、ニ、ニュ、ニョ」の子音である。
  • /ʒ/はフランス語のj[ʒ]
  • /ʀ/はフランス語のr[ʀ]

/h/は発音と表記が少々複雑である。

  • 語頭、/h/もしくは母音の後では[h]となる。
  • /s, z, l/の後ろでは音価を持たない。表記上もhを書かず代わりに先行する/s, z, l/の子音を重ね書きする。例外的に、外国由来の姓を元の発音のままアーヴ語化する際(例:リン()、サムソン())、または元となった日本語の末尾が「ん」で終るもの(例: (父)←とうさん、 (母)←かあさん)の場合は、本来は下記のように発音が変化するを重ね書きする例が見られる。
  • /p, b, m, t, d, n, r, c, g/の後ではそれらの子音と同化して[ɸ, v, ɸ, θ, ð, ɲ, ʀ, ʃ, ʒ]となる(表記はそのまま)。

流音/l, r, ʀ/と三つあることに注意。

なお、基本として子音は全て発音するが、/alɸa/(頭環)の[abljar](アブリアル)ののように黙字となる場合もある(ただし、「アブリアル」ののように、主格語尾を除いて最後に来た子音は活用の際には発音するので注意― [nuj abljarsər](アブリアルの耳))。

なお、名詞にある7つの格アンシェヌマンすることが分かっている(『星界の紋章読本』(ISBN 4-15-208359-X)巻末のアーヴ語会話入門の文例より)。

両唇 歯唇 歯茎 後部歯茎 硬口蓋 軟口蓋 口蓋垂 声門
破裂音無声 /p/ /t/ /k/ 
有声 /b/ /d/ /g/
摩擦音無声 ,,/ɸ//θ//s//ʃ/ /h/
有声 /v//ð//z//ʒ/
鼻音 /m//n//ɲ/
震え音 /r//ʀ/
側面接近音 /l/

アーヴ文字

表記には、アーヴ文字と呼ばれる文字を用いる。→アースを参照

文法

言語類型論的には屈折語膠着語のハイブリッドということができる。現代日本語から変化する過程で名詞と格助詞の一部が融合して格変化が、法(ムード)と相(アスペクト)を表す助動詞・助詞が融合して動詞語尾が生じたことによって屈折性が高まったとはいえ、一方で生産性の高い接辞も豊富であり、日本語が持っている膠着語的な性質を十分に維持しているためである。語順は日本語本来のSOVに加えてSVOの語順も可能であり、語順の自由度は高いといえる。修飾語はいくつかの例外(例えば名詞第1型の生格)を除いて基本的に被修飾語の後ろに置かれる。名詞は7つのを持ち、格変化によって示すことのできない格情報やその他の文法範疇後置詞によって示す。動詞の(アスペクト)と(ムード)は動詞語尾によって示され、(ヴォイス)、否定などは動詞接尾辞によって示される。日本語において活用語であった形容詞は活用を失い、コピュラ動詞(ane)によって時制などを表すようになった。日本語では未発達だった有情物の代名詞(英語のI, You, Heなどに相当するもの)が発達しているが、印欧語やセム語のように三人称の男女の区別は無い。文法範疇としての敬語も消滅し、ポライトネスは統語的な表現(言い回し)によって表現される。名詞の文法情報を格変化と後置詞の2つによって表す点、形容詞が変化しない点などはアルタイ諸語の文法に類似している。

名詞の格変化

名詞(主格語尾により4つの変化形を持つ)および代名詞(人および無生物に分かれる)は七つの主格対格生格与格向格奪格具格)を持つ。

第1型 第2型 第3型 第4型
アーヴ 真珠 紅玉 操舵士
主格 abhlamhducsaidiac
対格 abelamedulsaidél
生格 barlamrdursaidér
与格 barilamidurisaidéri
向格 balamédughsaidégh
奪格 abharlamhardusarsaidiasar
具格 balelamhledulesaidéle

語末のc, e, 子音の後ろのrは発音されない。よって、第3,4型の主格語尾-c、第2型の生格語尾-rは発音されず、具格語尾のleの発音は[l]である[1]

また、『星界の紋章読本』(ISBN 415208359X)巻末のアーヴ語会話入門の文例では、発音の片仮名表記から、これらの語尾がアンシェヌマンすることが分かる。

それぞれの格は次のような意味を持つ。

意味 形態 語源
主格 主文の主語-h, -c
対格 直接目的格-e, -l
生格 (1)所有格、(2)関係節の主語-r
与格 間接目的格-i, -ri
向格 位置-ré, -é, -gh
奪格 (1)時間的出発点、(2)空間的出発点、(3)順序の起点-har, -sarから
具格 (1)手段、(2)道具、(3)コピュラ文の補語、(4)位置-le

それぞれの格が持つ意味は起源となった現代日本語の格が持つ意味と大体において一致するが、いくつか注意すべき点がある。

  • 現代日本語では関係節の主語を専らガ格で表すが、アーヴ語では(主格ではなく)生格を用いる。
    • De samade sote loma far sori sa? (直訳:私ここに同席することをあなたが構わないか?)
  • 現代日本語のニ格は間接目的語位置の二つの意味を持つが、アーヴ語ではそれぞれ与格と向格によって表される。
  • また、向格はヘ格に起源を持つがアーヴ語ではその意味を失っており、<方向>は名詞sath(語源は「方(かた)」)を用いた"saté + (生格)"という統語的構造によって示される。ここでsatéはsathの向格である。
  • 位置を表す格には向格と具格があるが、この使い分けはニ格とデ格の使い分けと一致すると考えてよい。
  • 具格にはコピュラ文の補語を示す役割があるが、これは「AはBだ」という文がアーヴ語においては"A(主格) ane B(具格)"のように表現されるということである。日本語「AがBである」のような構造に現れるデ格の用法に起源を持つと考えられる。
条件
第1型 語源がV1CV2(V1=V2)の構造をもつ名詞abh(アーヴ)、 ath(アーヴ文字)、 azz(敵)
第2型 語幹が子音でおわる名詞の大部分(第1型以外)éboth(微笑)、 ïomh(恋人)、 laimh(国民)
第3型 語幹が母音もしくは半母音でおわる名詞の大部分(第4型以外)greuc(星)、 goc(時空)、 nuïc(耳)
第4型 動詞語幹が語尾-iacによって派生した名詞izomiac(挑戦者)、 rinusiac(記事)、 useriac(移民)

第1型に属する単語のうち、現代日本語において語源が「ん」で終わる名詞(lorann<とうさん, sarann<かあさん, aronn<あそん 等)は例外的に主格語尾-nを持つが、このような名詞も主格以外においては第1型と同じ格語尾をとるようである。

代名詞の格変化

日本語と異なり、アーヴ語は有情物を示す代名詞が発達している。代名詞のうち有情物を示すものは数と人称によって分かれ、無情物は数と近称 / 中称 / 遠称によって分かれる。代名詞は名詞と同じように七つの格に変化する。

有情物 / 単数 有情物 / 複数 無情物 / 単数
一人称 二人称 三人称 一人称 二人称 三人称 近称 中称 遠称
(語源) わ・らな・らか・ら
主格 fedesefarhdarhcnacsoreai
対格 faldalsalfaredarecnalsolrolal
生格 fardarsarfarerdarercnarsorrorar
与格 ferideriserifaridaricnarisoriroriari
向格 feréderéseréfarédarécnarésoréroréaré
奪格 fasardasarsasarfarhardarharcnasarsosarrosarasar
具格 faledalesalefarledarlecnalsoleroleale

後置詞

日本語の助詞のうち、格変化語尾にならなかったものは後置詞として残った。

  • a:主題化の後置詞。日本語の「は」に当たる。主語となる代名詞と結合する(例:Fe+a→F'a)。
    • F'a usere.(私は移民します。)
    • Dar saurh a ? (あなたの家族は?)
    • F'a bale. (我はアーヴ。)
  • éü:呼びかけの後置詞。主格の後に来る。日本語の「よ」に当たる。
    • Gereulach éü!(星たちよ!)
  • sa:疑問の後置詞。日本語の「か」に当たる。
    • Facle sa?(分かりますか?)
    • De samade sote loma far sori sa?(同席してもいいですか?)
  • le, lo:並列の後置詞。日本語の「と」に当たる。
  • te:引用の後置詞。日本語の「と」に当たる。
    • Gobé fal Lamhiri te!(ラフィールと呼ぶがいい!)

修飾語

修飾語はいくつかの例外(例えば名詞第1型の生格[2])を除いて基本的に被修飾語の後ろに置かれる。つまり、被修飾語・修飾語1の正格・修飾語2の正格・・・となるが、修飾語の順は日本語とは逆である(つまり、日本語では「…修飾語2>修飾語1>被修飾語」の順となる)。

  • Bœrh Parhynr (パリューニュ子爵)
  • Lonh dreur Haïder(ハイド伯爵閣下)

動詞語尾

アーヴ語の動詞語尾には三つのムード(直接法、仮定法、命令法)、分詞、四つのアスペクト(不定相、完了相、進行相、未然相)に応じて以下のように分類される。

直説法 仮定法 命令法 分詞
不定相 -e-éme-é(no)-a
完了相 -le-lar-la
進行相 -lér-lérm-léra
未然相 -to-dar-naur

 )内は母音のあとの場合。

完了相は過去時制をかねる。

  • De dorle soci Céïchartonr zaine. (あなたはケイシャルトンから乗った、だよね?)

アーヴ語の仮定法はヨーロッパ語文法における仮定法と異なり、実現可能性に関して中立的であり、単純に条件を示す。

  • F'ane réfaiseni, saurh loméme. (家族が一緒なら、私は幸せだ。)

動詞接尾辞

動詞接尾辞としては、使役の-as-、受動の-ar-、否定の-ad-が挙げられる。動詞接尾辞は動詞語幹と活用語尾の間に挿入され、その順序も-as-/-ar-/-ad-と決まっている。すなわち、sac-e(「書く」を表す動詞語幹+直説法現在の活用語尾)に対して、sac-as-ar-e(書かさせる), sac-ar-ad-e(書かれない), sac-as-ad-e(書かせない), sac-as-ar-ad-e(書かせられない)となる。訳語を見れば分かるように、この順序は現代日本語から引き継がれている。

造語法

接尾辞の中には動詞語幹について名詞化するもの、名詞語幹について意味を拡張するものなどが存在する。語幹末が子音であるか母音であるかによって異形態を持つものがあるが、以下においてはスラッシュの前が子音の後に現れる異形態であり、スラッシュの後は母音の後に現れる異形態である。

  • -iac/-gac:動詞語幹について「〜する物、者」という名詞を作る。
    • usere(移る) + iac > useriac(移民)
    • cilug-(皇位を継承する) + iac > cilugiac(皇太子、皇太女)
    • belysé(官制する) + gac > belységac(管制官)
  • -hoth/-coth:動詞語幹について「〜すること」という抽象名詞を作る。hが前に来る子音によっては同化現象を起こすのは音韻規則に従う。動詞が主語や目的語などの要素を持つこともあり、その場合には単なる語の派生ではなく、関係節を形成する文法的役割を果たす。
    • cair-(入る) + hoth > cairhoth(入学)
    • doz-(望む) + hoth > dozzoth(望み、願望)
    • cime-(秘密にする) + coth > cimecoth(秘密)
    • sa-(買う) + coth > sacoth(買い物、ショッピング)
  • -ragh:動詞語幹について「〜する様子、〜する機能」という抽象名詞を作る。守備範囲が広い。
    • mén-(船) + ragh > ménragh(平面宇宙航行機能)
  • -lach:名詞語幹について「〜の集団」という名詞を作る。
    • gosuce-(家臣) + lach > gosucelach(家臣団)

語彙

アーヴ語の語彙は現代標準日本語起源の単語が大部分であるが、日本語の古語に起源を持つ語も相当数見られる。

  • (多い)<jp.あまた
  • (新しい)<jp.あらたし

俗語に起源を持つものも稀にある。

  • (ですよね)<jp.じゃん
  • (連絡艇)<jp.ぱしり

非日本語の起源をもつ語も数例見られる。

  • (交通艇)<jp.うま<zh.馬(ma)
  • <jp.コミケ<en.comic market[3]

以下は翻訳借用語の例である。

  • (経済)=-(<jp.経る) + -(<jp.済む) + (<jp.こと)
  • (星系)=-(<jp.陽) + (<jp.糸)

「経済」は日本人による造語であるため、「その発想自体は日本人によるものだ」ということで翻訳借用がゆるされたのであろうか。「星系」に関しては翻訳借用語であるとは断定しがたいがその可能性は高いと見られる。

方言

話者はアーヴのほか、帝国に支配されるアーヴ以外の民族であるアーヴ帝国国民(レーフ,)を含む。国民は大抵の場合アーヴ語を母語としないため、それぞれの母語に由来する訛りをもつことが多い。このうち特に知られるのが、ノバ・ラテン語を母語とする旧セクティア連邦所属星系出身者の使うセクティア方言である。この方言は標準アーヴ語より母音が少ないため習得が比較的簡単であり、他の星系出身者もセクティア方言を話すことが多い。そのためセクティア方言を「国民語」とも呼ぶ。

複数の邦国からの移民によって成立した地上世界ではアーヴ語が共通語に指定されていることがある(スファグノーフ侯国もその一つ)が、文法が簡略化され多くの外来語を取り入れているため、そのようなアーヴ語変異体どうしでは意思の疎通が困難であることが多い。

例えば、星界の紋章の登場人物である「葬儀屋」はアーヴ語でとされている。正規アーヴ語では名詞は必ず-c,-h,-nの語尾をもつので、これは正規アーヴ語ではなくクラスビュール・アーヴ語であり、正規アーヴ語で(-弔う + -<名詞化>)というべき単語が訛化したものと推測される。アーヴ語の第4型変化名詞は語幹内で--/--の交替を行うが、クラスビュール・アーヴ語では形態素が--に統一されたために主格に--が現れるのだろう。正規アーヴ語では表記上のみ現れる主格語尾もクラスビュール・アーヴ語では表記されていない(格変化そのものがない可能性もある)。

アーヴ語史

アーヴ語は(作品の出版された20世紀末から21世紀初頭の世界から見た)少々あるいは大幅な未来、地球の衛星軌道から、太陽系の惑星軌道への人類進出が相当進んだ頃、日本を出身とした者たちが住人のほぼ全てであった軌道都市トヨアシハラにおいて、(ちょっと常識的には考えにくいことであるが、何らかの原因により)過激な言語復古主義者による「純化」の行われた、かなりの人工言語的な性格のある自然言語で、一種独特な日本語系の「トヨアシハラ語」が、その直接の祖語である。彼らは、(当時の彼らの)日本語から漢語を主として外来語とそれにもとづく音韻を一切排し、基本的には上代日本語(いわゆる「やまとことば」)に基づいて、日本語を再構築した。しかし、彼らの現実に不可欠であった、各種の(おそらくは近代の前後に作られたものを主とする、いわゆる「和製漢語」を含む)漢語や外来語概念を表現する語が大量に足りないのも事実でもあり、その結果として、やまとことばへの直訳や、各種の語から「やまとことば的な語」を造語して補うことが行われた。

その後、軌道都市トヨアシハラから、系外探査のために送り出された原アーヴたちが用いていたトヨアシハラ語は、文字を与えられず、小人数で閉塞的な生活を営んでいたこともあり、アーヴがトヨアシハラを破壊した後、急激な短縮化現象によって大きく変容した。

その段階は、

  1. 母音の脱落、統合
  2. 同音異義語の発生を避けるため、残った母音が脱落したものに引きずられたことによる母音の増加
  3. 子音の発音部位の遷移、鼻音の非鼻音化などの変化
  4. 語幹の末尾音と格助詞の融合及びそれに伴う一部子音の発音変化

であった。

従って語彙はやまとことばにもとづくものなどもあるものの、音韻的にはやまとことばとも現代日本語とも大きく変化し、日本語の大きな特徴である開音節構造(/N/を除くほとんどの音節が母音で終わる)も変容している。以上のような音韻の変化は文法までも変化させ、形態的類型論で言うならば、屈折語の性格が強くなり、ほぼ純粋な膠着語とされる日本語とは、かなり異なった言語とさえ言える。

また一例を挙げるなら、主人公ジントの発音する「ラフィール」の「フ」は、(ジントの出身から)ほぼ間違いなく英語の f(下唇を軽く噛む)であるのだが、一般のアーヴの多くも外部(「地上世界」)出身者との接触などによりそのような発音の影響を受けており、(22世紀? 以前の)日本語を母語とする話者のような無声両唇摩擦音で発音するのは、貴族のうちでも皇族に近い者など、減ってきている(という設定がある)。

長期では多くの言語で見られる何らかの音韻の変化という現象ではあるけれども、実際にひとつの言語でこのような大きい変化が全て起きたとされる実例の研究はいまのところ無い。ただ、少なくともエジプト語においては膠着語屈折語孤立語循環説なども提唱されており[4](現代英語屈折語からほとんど孤立語に近づきつつあるのもこの一例と理解される)、日本語からアーヴ語への文法構造の変化は決して荒唐無稽であるとはいえない。

日本語からのアーヴ語の変化例

詳細は星界の裏設定を参照。

  • ガサルス(←八咫烏
    jatagarasu →(母音変化)→ jatgarse →(子音変化)→ gatharse →(主格語尾-cの追加)→ gatharsec(主格語尾ecは発音しない)
  • ラクファカール(←高天原
    tacamagahara →(母音変化)→ tacmgahar →(子音変化)→ lacmhacar →(主格語尾-hの追加)→ Lacmhacarh(mhは[f]と発音する)
  • サリューシュ(アーヴ根源二九氏族の一つ←
    karasuci →(母音変化)→ karsc →(子音変化)→ sarrc →(主格語尾-hの追加)→ sarrych(chは[sh]と発音する)
  • スポール(同上←
    subaru →(母音変化)→ sbaur →(子音変化) spaur →(主格語尾-hの追加)→ spaurh

アーヴ語の挨拶

  • 「こんにちは」。宇宙で暮らすアーヴには、昼夜の概念は無い。その代わりに、出会った場所によって使い分けをしている。これは作業部署以外で交わされる挨拶。原義は、「くつろいでいますか?」。
  • .
    「こんにちは」。この場合は、作業部署での当直同士による挨拶。原義は「全力を尽くそう」といった意味。
  • .
    「はい、こんにちは」。上記の挨拶を受けての返事。
  • .
    「はじめまして」。
  • 「ご機嫌いかがですか?」。
  • , .
    「ありがとう、私は元気です」。

問題

作者による体系的な辞書は作成されていると思われるが一般には公開されておらず、作者による解説は『星界の紋章 読本』の巻末にある会話と文法の解説のみであることから、ファンたちが前記資料やアニメなどから独自に辞書を作成している(外部リンク参照)のが現状である。

また、原作に登場するアーヴ語は片仮名表記のため、前記資料に明記してあるものを除いて正確な綴りが不明なものが多いうえ、資料自体にも人名などに誤記が見られる。

さらに、音声資料はアニメ版の『紋章』及び『戦旗』の冒頭アナウンスのみ(テロップは日本語訳)しかないため、こちらも不確実な点が多い。

脚注

  1. ただし、例外的に第3型においては、主格語尾の前が母音のeである場合はeは生格語尾-rに引きずられる形で共に発音し(Dreuc Haïder(ハイド伯爵)のように、"ar"に近い発音となる)、主格語尾の前が半母音のeuである場合は生格語尾-rを発音する(Lonh dreur(伯爵閣下))。
  2. 例としてはBar ébhoth(アーヴの微笑)などがある
  3. ただしこれは「公式二次創作」的な作品である『饗宴』から
  4. Hodge, Carleton T. 1970. The linguistic cycle. Language Sciences. 13.1-7.

参考資料

  • 『星界の紋章 読本』(早川書房1999年 ISBN 4-15-208359-X)
  • 『星界マスターガイドブック』(早川書房、2005年 ISBN 4-15-030817-9)

外部リンク

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