めまい (映画)

めまい』(Vertigo)は、1958年アメリカ合衆国サスペンス映画。監督はアルフレッド・ヒッチコック、出演はジェームズ・ステュアートキム・ノヴァクなど。パラマウント映画製作。テクニカラービスタビジョン作品。後に、他の多数のヒッチコック作品と共にユニヴァーサルに売却された。日本公開は同年。

めまい
Vertigo
監督 アルフレッド・ヒッチコック
脚本 アレック・コペル
サミュエル・テイラー
原作 ボワロー=ナルスジャック
死者の中から
製作 アルフレッド・ヒッチコック
出演者 ジェームズ・ステュアート
キム・ノヴァク
音楽 バーナード・ハーマン
撮影 ロバート・バークス
編集 ジョージ・トマシーニ
製作会社 アルフレッド・J・ヒッチコック・プロダクションズ
配給 パラマウント映画
公開 アメリカ合衆国の旗 1958年5月9日
日本の旗 1958年10月26日
上映時間 128分
製作国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
製作費 $2,479,000
興行収入 世界の旗 $7,797,300[1]
ジェームズ・ステュアート(右)とキム・ノヴァク

原作はフランスのミステリー作家、ボワロー=ナルスジャックピエール・ボワロートマ・ナルスジャック)の『死者の中から』。タイトルデザインはソール・バスによる。舞台はサンフランシスコを中心に繰り広げられる。

ストーリー

「スコティ」ことジョン・ファーガソン刑事は、犯人を追う途中に同僚を死なせてしまったショックで、高所恐怖症によるめまいに襲われるようになり、警察を辞めてしまう。そこへ学生時代の友人エルスターが現れて、何かに憑かれたかのように不審な行動をする妻マデリンを調査してほしいという。スコティはマデリンを尾行するうちに、彼女の先祖であり過去に不遇の死を遂げた人物、カルロッタの存在を知る。カルロッタは髪型から首飾りまでマデリンそっくりであり、スコティはエルスターから「マデリンはカルロッタの亡霊に取り憑かれている」とする見解を聞かされる。

尾行を続けていると彼女は突然海に飛び込み、投身自殺を図る。そこを救い出したスコティは初めて彼女と知り合うことになり、やがて二人は恋へと落ちていく。スコティは彼女を救おうと思い、マデリンが夢で見たスペイン風の村へ向かうが、マデリンはカルロッタの自殺した教会へと走っていく。スコティは追いかけるが、高所恐怖症によるめまいのために追いつくことが出来ず、マデリンは鐘楼の頂上から飛び降りてしまう。マデリンの転落は事故と処理され、エルスターは彼を慰めながら、自分はヨーロッパへ行くと告げる。

自責の念から精神衰弱へと陥り、マデリンの影を追いかけ続けるスコティはある日、街角でマデリンに瓜二つの女性を発見する。追いかけると、彼女はかつてマデリンの通っていたカルロッタの旧居のアパートに住む、ジュディという女だという。スコットはジュディとデートの約束を取り付ける。

スコティは、せっかく出会えたジュディをも失う第二のトラウマを抱えて、精神衰弱から次第に正気を失っていく。一方ジュデイは次第に彼を愛してしまっていた。ジュディはスコティの狂気じみた要望に素直に応え、洋服、髪型、なにもかもをマデリンと同じにし、死んだはずの「マデリン」へと次第に変貌していく(ヒッチコックはこれを「屍姦」と称している)。

ジュディとスコティはいびつな愛を育もうとするが、ある時二人でデートに行く際、その愛は破綻を迎える。ジュディが首にかけたネックレスは、マデリンがカルロッタのものとして身に着けていたネックレスそのものだった。スコティに「マデリン」として会っていたのは、誰でもない彼女自身だった。高所恐怖症のスコティを利用して、エルスターの妻殺しという完全犯罪に加担していたのである。真相がはっきりと見えてしまったスコティはジュディを、マデリンが転落した教会へと連れて行き、彼女を問い詰める。高所恐怖症をも克服し、鐘楼の頂上でジュディに迫るスコティ。しかし、そのとき暗がりから突然現れた影におびえたジュディは、バランスを崩してマデリンと同じように転落する。絹を裂くような悲鳴。突然現れた影は、実はものものしい雰囲気を不審に感じて鐘楼に上がってきた修道女だった。十字を切り、転落した女の冥福を祈って鐘を鳴らす修道女。スコティは、呆然としてその鐘の音を聞いているばかりだった。

ヒッチコック登場シーン

ヒッチコックは、造船所の前を通り過ぎる通行人としてカメオ出演した。

キャスト

役名 俳優 日本語吹替
テレビ朝日 ソフト版
ジョン・“スコティ”・ファーガソンジェームズ・ステュアート小川真司安原義人
マデリン・エルスター/ジュディ・バートンキム・ノヴァク田島令子藤本喜久子
ギャヴィン・エルスタートム・ヘルモア小林清志村松康雄
マージョリー・“ミッジ”・ウッドバーバラ・ベル・ゲデス藤田淑子坪井木の実
検死官ヘンリー・ジョーンズ阪脩
不明
その他
京田尚子
大久保正信
池田勝
斉藤昌
横尾まり
北村弘一
柳沢紀男
佐々木敏
巴菁子
佐々木梅治
土師孝也
稲垣隆史
島美弥子
西前忠久
村竹あおい
演出小林守夫中野洋志
翻訳宇津木道子石原千麻
効果遠藤堯雄/桜井俊哉
調整丹波晴道
制作東北新社ACクリエイト
解説淀川長治
初回放送1986年11月2日
日曜洋画劇場
21:02-23:24

評価

発表当時はヒッチコックの他の作品と同様、その女性蔑視のイデオロギーが批判されていた。徐々に評価を高め、近年ではヒッチコック作品の中でもトップクラスの傑作との評価を得ている。2012年には英国映画協会が発表した『世界の批評家が選ぶ偉大な映画50選』の第1位に選ばれた。しかしヒッチコックはこの作品を「失敗作」と語っている。当初ヒロイン役にと構想していたヴェラ・マイルズが妊娠のため降板し、キム・ノヴァクを起用したが、監督はノヴァクのキャラクターや態度(演出面に関する口出し)に非常に不満を感じていたことが、ネガティブな評価につながっている。

ヒッチコックはヒロインの女性像を、ノヴァクのような魅惑的なものではなく、清楚で健全な女性に求めていたようである。泳げない彼女をサンフランシスコ湾に飛び込ませたり、彼女が大嫌いであったグレー色を主要な衣装に使用したりとその仕打ちは苛烈なものだった。

レストランでマデリンとスコティが初めて出会うシーンや、曲がりくねったサンフランシスコの道のりを写すカメラワークは評価が高い。

床が落ちるような「めまいショット」(一般にはドリーズームと呼ばれる)は有名で、この作品以後、数え切れないほどの映画やCM、テレビドラマで引用されるようになった。ズームレンズを用い、ズームアウトしながらカメラを被写体へ近づけることで、被写体のサイズが変わらずに背景だけが望遠から広角に変化してゆく。鐘楼のシーンでは、ミニチュアを作成して横倒しに置き、レールに置いたズームレンズ付きカメラを移動させて撮影している。スティーヴン・スピルバーグ監督は『E.T.』の街を見下ろす崖のシーンで完璧なシンクロを実現させている。

被写体にレンズを向けたままカメラが被写体の周りを回る、陶酔感あふれる撮影法も印象的である。この撮影法は、後にブライアン・デ・パルマ監督が『キャリー』『フューリー』『愛のメモリー』『ボディ・ダブル』で使用している。

タイトル映像の刻々と変化する光のパターンを製作したのは「CGの父」と呼ばれる実験映像作家のジョン・ホイットニー・シニアである。『2001年宇宙の旅』の10年も前の作品であるが、映画で見られる螺旋状の映像を連続して露光させるため、撮影手順をアナログ・コンピュータでプログラムした初期のモーション・コントロール・カメラが使われている。

この映画のフィルムは保存状態の悪さのため、非常に傷み色あせていた。これを危惧したジェームズ・C・カッツ、ロバート・A・ハリスらの手によってネガは2年かけて修復され、1996年に公開された。

映画批評家によるレビュー

Rotten Tomatoesによれば、批評家の一致した見解は「予測不能な恐ろしいスリラーであるとともに、愛と喪失、そして人の癒しについての悲痛な黙想でもある。」であり、83件の評論のうち高評価は94%にあたる78件で、平均点は10点満点中8.9点となっている[2]Metacriticによれば、32件の評論のうち、高評価は31件、賛否混在は1件、低評価はなく、平均点は100点満点となっている[3]

受賞歴

第31回アカデミー賞ノミネート
  • 美術賞 - ハル・ペライラヘンリー・バムステッドサム・コマーフランク・マッケルヴィ
  • 録音賞 - ジョージ・ダットン

ギャラリー

出典

  1. Vertigo (英語). Box Office Mojo. 2021年5月18日閲覧。
  2. Vertigo (1958) (英語). Rotten Tomatoes. 2021年5月18日閲覧。
  3. Vertigo Reviews (英語). Metacritic. 2021年5月18日閲覧。

外部リンク

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