受動光ネットワーク
受動光ネットワーク(じゅどうひかりネットワーク, PON, Passive Optical Network)とは、1本の光ファイバを複数の加入者で共用するために用いられる、光信号の多重化システム[1]。ネットワークの構成方式に注目して、PDS(Passive Double Star)とも呼ばれる。
概要
通信事業者側に設置する終端装置(OLT, Optical Line Terminal)と、電線上の光クロージャ内に設置される光スプリッタ、加入者側に設置する光ネットワークユニット(ONU, Optical Network Unit)で構成される。
光ファイバの分岐に用いられる光スプリッタに受動素子(光学部品)を使用するため、スプリッタは小型で電源が不要なのが特徴。
SS(Single star)方式と比較すると、複数の加入者で光ファイバやOLTを共用するため、物理コストの低廉化と回線の使用効率の向上を実現することができる。
AON(Active Optical Network)方式と比較すると、OLT・ONUはやや高価・複雑になるものの、スプリッタを無電源化・小型化・メンテナンスフリーにすることができる。そのため、システム全体でコストを低廉化することができる。
技術
時分割多重(TDM)・時分割多元多重(TDMA)・波長分割多重(WDM)・光符号分割多重(OCDM)や、動的帯域制御(DBA, Dynamic Bandwidth Allocation)を用いて、信号を多重化して伝送している[2]。
石英系光ファイバの伝送特性の都合から、波長帯域はおおむね1,200nm帯(O-band)から1,500nm帯(L-band)が利用されている。
OLTからの下り方向の通信は光ファイバを共有するすべてのONUに届くため、ONUはパケットのヘッダーを見て自分宛のパケットのみを受け取る仕組みになっている。ただし宛先情報を詐称することにより他のONU宛のデータが傍受されてしまう可能性があるため、上位レイヤーでMAC Security(IEEE 802.1AE)などを用いてデータを暗号化している。
主な規格
Full Service Access Network(FSAN、欧米の通信事業者・ベンダーにより結成)と国際電気通信連合(ITU)が共同で制定した規格と、米国電気電子学会(IEEE)が制定した規格の2種に大別される。
名称 | 規格 | 伝送速度(最大値) | 波長 | 伝送フレーム | 最長伝送距離 | 最大分岐数 | 採用事例 | 備考 |
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STM-PDS (Synchronous Transfer Mode Passive Double Star) | NTT独自 | 下り・上り49Mbps | 下り・上り1300nm帯、映像1500nm帯 | STM | 20km | 32 | タウンテレビ横浜 | POTS(電話)・ISDN(基本インターフェース)・専用線(128kbps・1.5Mbps)対応 別名STM-PON |
B-PON (Broadband PON) | ITU G.983シリーズ | 下り1.24Gbps、上り622Mbps | 下り1480-1580nm、上り1260-1360nm、映像1550-1560nm | ATM | 20km | 32 | Bフレッツ ベーシックタイプ・ビジネスタイプ | 旧称ATM-PON |
E-PON(Ethernet PON) | 各社独自 | 下り・上り1.25Gbps | 下り1480-1500nm、上り1260-1360nm | Ethernet | - | 32 | Bフレッツ ニューファミリータイプ | 規格を統一することができなかった |
GE-PON (Gigabit Ethernet PON) | IEEE 802.3ah | 下り・上り1.25Gbps | 下り1480-1500nm、上り1260-1360nm、映像1550-1560nm | Ethernet | 20km | 32 | Bフレッツ ハイパーファミリータイプ・光プレミアム、フレッツ光ネクスト、Yahoo! BB光、KDDI光プラス ホーム、eo光ネット、4G携帯電話基地局のバックボーン回線 | 別名1G-EPON |
G-PON (Gigabit capable PON) | ITU G.984シリーズ | 下り2.5Gbps、上り1.25Gbps | 下り1480-1500nm、上り1290-1330nm、映像1550-1560nm | GEM・ATM/GTC | 60km | 254 | NURO光 G2 | B-PONの後継 |
XG-PON (10Gigabit PON) | ITU G.987シリーズ | 下り10Gbps、上り2.5Gbps | 下り1575-1581nm、上り1260-1280nm、映像1550-1560nm | XGEM/XGTC | 60km | 64 | NURO光 10G、中国移動通信・中国聯合通信・中国電信のFTTHインターネットサービス | G-PONと混在可能 |
10G-EPON (10Gigabit Ethernet PON) | IEEE 802.3av | 下り・上り10Gbps | 下り1575-1580nm、上り1260-1280nm、映像1550-1560nm | Ethernet | 20km | 64 | auひかり ホーム 10ギガ・フレッツ 光クロス | GE-PONの後継 |
XGS-PON (10Gigabit capable symmetric PON) | ITU G.9807.1 | 下り・上り10Gbps | 下り1575-1581nm、上り1260-1280nm、映像1550-1560nm | XGEM/XGTC | 20km | 64 | NURO 光 6Gs・10Gs | 旧称NG-PON1 |
NG-PON2 (Next Generation PON2) | ITU G.989シリーズ | 下り・上り40Gbps | 下り1596-1603nm、上り1524-1544nm、映像1550-1560nm | XGEM/XGTC | 40km | 256 | 複数の波長に分割して使用 G-PON・GE-PON・10G-EPON・XG-PONと共存可能 | |
NG-PON2+ (Next Generation PON2+) | ITU G.989シリーズ(策定中) | 下り100Gbps、上り25Gbps | 40km | 256 | 5G携帯電話基地局のバックボーン回線向け | |||
100G-EPON (100Gigabit Ethernet PON) | IEEE 802.3ca(策定中) | 下り・上り100Gbps | 2020年4月までに策定完了予定[10] |
※ 略称は一般的に用いられている表記を記載したが、実際にはハイフンが省略されたり、ハイフンの位置が異なる表記も多く用いられている。
脚注
- 「GE-PON技術 第1回 PONとは」『NTT技術ジャーナル 2005 vol.17 No.8』 日本電信電話、2005年
- 「GE-PON技術 第3回 DBA機能」『NTT技術ジャーナル 2005 vol.17 No.10』 日本電信電話、2005年
- 牛窪孝「資料1-7 光ファイバ技術の最近の技術動向」『第1回 次世代ブロードバンド技術の利用環境整備に関する研究会』 総務省、2006年11月27日
- 「ITU-T The leader on G-PON Standards」 ITU-T
- 「ITU-T The leader on XG-PON Standards」 ITU-T
- 一般社団法人情報通信委員会「第6章 標準化事例」『情報通信分野における標準化活動のための-標準化教育テキスト- 第4版』 総務省、2018年5月
- 「次世代光アクセスシステム(NG-PON2)の標準化動向」『NTT技術ジャーナル 2015 vol.27 No.1』 日本電信電話、2015年
- 「3. 10G GPON(XG-PON/XGS-PON)」『SmartAX MA5800 Multi-service Access Module V100R018C00 Feature Guide 第2版』 Huawei Technologies 、 2017年8月10日
- 大原雄介「アクセス回線10Gbpsへの道 (第1∼9回・番外編)」『INTERNET Watch』 インプレス、2017年12月∼2018年2月
- 「IEEE p802.3ca Timeline」『IEEE P802.3ca 100G-EPON Task Force』 IEEE、2019年1月16日