S&W M10

S&W M10は、スミス&ウェッソン(S&W)社が開発した回転式拳銃1899年の発売当初はミリタリー&ポリス英語: Military & Police)と称されており[2]1957年にモデル・ナンバー制度が導入されたあとでも、通称として用いられている[1][3]

S&W M10[1]
S&W M10 2インチモデル
概要
種類 回転式拳銃
製造国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
設計・製造 スミス&ウェッソン
性能
口径 9 mm
銃身長 102 mm (4インチモデル)
ライフリング 6条右回り
使用弾薬 .38スペシャル弾
装弾数 6発
作動方式 シングル/ダブルアクション
全長 252 mm (4インチモデル)
重量 950 g (4インチモデル)

設計

本銃は、S&W社の.38口径リボルバーのメインストリームとして、順次に改良を重ねつつ、19世紀から21世紀という長期にわたって多数が生産されている。いずれもKフレームに基づいて設計され、シリンダーは1.56インチ (40 mm)長の6連発、トリガーメカニズムはシングルアクションダブルアクションの両用である[2][3]

1899年式

S&W M36に形がよく似ているが、“兄貴分”だけにM10の方が一回り大きく、装弾数も1発多い。

1899年式

1899年から1902年まで生産されていた最初期モデル。使用弾薬は.38スペシャル弾のほか、アメリカ軍制式の.38ロングコルト弾もラインナップされていた。バレル長は4インチ、5インチ、6インチおよび6.5インチがラインナップされていた。バレル左側面には"38 S&W Special CTG & U.S. Service CTG"(38S&Wスペシャル弾及び合衆国官給弾)と刻印されていた。構造は4スクリューモデルであるが、これはKフレームリボルバーに5本目のスクリューが追加される以前のモデルであるためである。表面処理はブルーフィニッシュまたはニッケルフィニッシュであった[2]。3年間に約21,000丁が生産された。

1902年式

1902年から1904年まで生産されていた第2期モデル。使用弾薬は.38スペシャル弾とされた。バレル底部にロッキングラグが追加されたほか、エキストラクターロッドが大径化されている。バレル長およびバレルの刻印、スクリュータイプは1899年式と同様である。0.265インチ (6.7 mm)のスムース・トリガー、0.260インチ (6.6 mm)のチェック入りハンマーが採用されていた[2]

1903年に小改正が行われており、改正以前に12,827丁、以降に28,645丁が生産された[2]

1905年式 (射撃競技用)

1905年式

1905年から1942年まで生産されていた第3期モデル。用心鉄のスクリューが追加されたことで5スクリュータイプとなった。バレル長は1899年式・1902年式と同様である。細部に応じて4種類のサブタイプがあり、1915年以降の生産型では、スムース・トリガーのほかにセレーション入りトリガーも生産された。またハンマーは0.265インチ (6.7 mm)のチェック入りのものが用いられている。各型合計で926,747丁が生産された[2]

ビクトリーモデル

ビクトリーモデル

1942年から1945年まで生産されていた戦時量産モデル。銃身長は4インチ、グリップはスクエアバット型で、底面にランヤードリングが付されている。表面処理はつや消しされたブルーフィニッシュまたはブラックマジック(パーカライジングに似た処理)であった[2]

戦中に、甲板上への落下に起因する暴発事故が発生し、水兵1名が死亡したことから、アメリカ海軍の要請により、ハンマーブロック機構の強化改良が行われた。1944年9月にスライドアクション・ハンマーブロックが開発され、これは本銃を含めて、現在に至るまでに生産された同社のリボルバーの全てに採用されている。また開発以前の生産型も、約40,000丁が工場に後送されて同機構を組み込む改修を受けた。改修済のモデルは、シリアルナンバー側のグリップに"S"、反対側に"s"の文字が刻印されている[2]

第2次世界大戦に伴い、計242,291丁が生産された[2]

戦後版

戦後モデル

1946年から生産された戦後モデル[2]。1957年にはM10というモデルナンバーが付与されており、それ以前の生産型はpre-M10と通称される[3]

銃身長は、従来と同様の4インチ、5インチ、6インチがラインナップされたほか、6.5インチが外されたかわりに、2インチのスナブノーズ版が追加された[2]。3インチ長も受注生産とされており、1980年代ないし1990年代には公式カタログにもラインナップされるようになった。また2.5インチ長も、やはり受注生産とされていた[3]

当初は、ハンマーは0.265インチ (6.7 mm)のチェック入り、トリガーも0.265インチ (6.7 mm)のセレーション入りのものであった。後期生産型では、0.312インチ (7.9 mm)のサービス・ハンマー、0.312インチ (7.9 mm)のスムースなコンバット・トリガーが採用された[3]。また1948年には撃発機構が改良され、これは現在に至るまで踏襲されている[2]

派生型

素材による差異

通常のM10は炭素鋼製であるが素材のバリエーションが存在する。

アルミニウム

1976年製 M12 2インチモデル

1953年~1986年まで製造されたアルミ製のM10はM12とモデルナンバーが付けられた。

当初製造されたモデルはM36のアルミ版であるM37と同様にシリンダーをも含め全面的にアルミ製とすることで重量を軽量化しており、写真の説明文にもある通りM37と同様、エアウェイト(Airweight)と称された。

しかし、アルミ製のシリンダーは強度不足のため、M37と共に1954年にシリンダーのみ炭素鋼製に変更され、それに伴い重量も増加した。

ステンレス

M64 4インチモデル

1970年より製造されたステンレス製のM10はM64とモデルナンバーが付けられた。M36のステンレス版、M60に続いて作られたS&Wのステンレスモデルリボルバーである。

射撃競技用モデル

M10をベースに射撃競技用に製造されたバージョン。

.38スペシャル

ベースになったM10(下)と射撃競技用のM14(上)
射撃競技用のM15

M14 マスターピースは、M10をベースに開発された射撃競技拳銃で、1947年から製造された。 ベースのM10との違いは交換可能な角形照星(パートリッジ・サイト)を取り付けた6インチのブルバレルと可動照門(S&W・アジャスタブル・マイクロ・クリック・サイト)を装備している。

このM14を短銃身化し、フロントサイトを抜き撃ちに適したランプタイプへと変更したものが1949年から製造されたM15 コンバット・マスターピースであり、いずれも.38スペシャル弾を使用する。 M15にはステンレスモデル仕様の「M67」もある。

その他にフルレングスのエジェクターロッドカバーが付いたステンレス製の6インチ銃身を持つ「M68」があるが、これはC.H.P.(カリフォルニア・ハイウェイ・パトロール)用として生産された拳銃である。

.22LR

M14の.22LR弾版、M17

M17は、上記のM14を.22口径にした拳銃である。このM17を短銃身化したものがM18であり、どちらも使用弾薬.22LR弾である。

なお、近年ではM17をベースにした10連発の.22口径カスタムリボルバーアメリカでの射撃競技に使われている。

.32 S&W Long

M16は、上記のM14を.32口径にしたバージョンで使用弾薬.32S&Wロング弾

使用弾薬の違いによるバリエーション

ミリタリー&ポリス(M10)は.38スペシャル弾を使用するが、上記射撃競技用モデルで紹介した.22ロングライフル弾を使用するM17等の他にも異なる弾薬を使用するタイプが存在する。

.38-200

.38 S&W弾仕様。刻印が「38 S&W」となっている。この銃はオランダでレジスタンス運動を行っていたnl:Tonny van Renterghemが使用。

イギリス軍で制式採用されていた.38-200弾(.38レギュラー弾)を使用するモデルも製作された。この弾薬は.38 S&W弾をもとに200グレインの弾頭を組み合わせたものであった[4]

第2次世界大戦中には、ビクトリーモデルをもとにしたモデルが開発された。これは、多くがレンドリース法に基づいてイギリスに供給されたことから、初期の生産品には"UNITED STATES PROPERTY"ないし"U.S. Property"と刻印されていたが、後には通常のビクトリーモデルと同様に変更された。 1940年から1945年にかけて568,204丁が生産された[2]

また戦後も生産が続けられ、1957年にはM11というモデルナンバーも付与されたが、.38-200弾そのものがあまり使われなくなっていったことから、1965年に生産終了となった[3]

.357マグナム

.357マグナム弾仕様のM13

M13は、M10のヘビーバレルバージョンをベースに回転弾倉を延長し、フレームを熱処理強化して.357マグナム弾に対応させた拳銃である。

1955年に登場したM10と同じKフレームを使用しながら.357マグナム弾が発射できる(出来るというだけで、実際には不向き)M19がFBI捜査官の間でも好評だったことから、1974年から製造された。

1990年代までM10の3インチモデルと共にFBIに制式採用されていたことから「FBIスペシャル」の愛称がある。

ステンレスモデルも存在しM65と呼ばれる。なお、ステンレスモデルのM65は1972年から製造のため、ベースになったM10や製造のきっかけになったM19とは逆にステンレスモデルのM65から製造が開始された。

基本的に3インチモデルは公的機関のみの販売であるが、4インチモデルはアメリカでは民間向けのスポーツ射撃用拳銃としても販売されていた。他にも圧縮空気を使うS&W M13コンプレスエアなどもあった。

M13は1998年に、M65は2004年に生産終了となった。

コピーモデル

ミリタリー&ポリスはスミス&ウェッソン以外のメーカーでもコピーモデルが製造されている。

92 espagnol

ミリタリー&ポリスのコピーモデル92 espagnol。刻印からオルベア社製と思われる

スペインで製造された92 espagnolと称されるリボルバーにコルトポリス・ポジティブのコピーモデル等とともにミリタリー&ポリスのコピーモデルも存在している。

内部構造もほとんど同一であるがV字型スプリングを使用等若干異なる場所もある。()

フランス軍等に供給されており、第一次世界大戦等で使用されている。

92 espagnolはオルベア社等複数のメーカーで製造された。

(ちなみにオルベア社のHPにある沿革ページにもオルベア社製ミリタリー&ポリスのコピーモデルの写真が掲載)

運用史

「ミリタリー&ポリス」の名のとおり世界各国の軍隊警察において広く使われ、現代リボルバーの原点となった拳銃である。アメリカの警察では、犯罪の凶悪化に伴って装弾数が多い自動拳銃が主流となり、本銃を含めたリボルバーは使われなくなっているが、現在でも香港の警察などでは現役である。日本の警察でも1949年より戦前の生産品やビクトリーモデルの貸与を受けて装備化しており(のちに譲渡に切替)、ニューナンブM60S&W M37 エアーウェイトサクラM360Jといった新規購入銃が増勢しているとはいえ、2000年代に入っても引き続き用いられているのが確認されている[5]

ナチスの政治家、ヘルマン・ゲーリングもミリタリー&ポリスを愛用していた。ゲーリングが所有していた拳銃は文様入りルガーP08が知られているが、第二次世界大戦前にハンブルクでミリタリー&ポリスを購入し、アメリカ軍捕虜となった際も所有していた。現在、ゲーリングが所有していた元帥杖などとともにミリタリー&ポリスが展示されているが、説明文(ホルスター下の説明文が該当)にS&W ミリタリー&ポリスモデルと明記されており、前述の所有する経緯や捕虜になった際も保有していたことも明記されている。

脚注

  1. 床井 1996, p. 280.
  2. Supica & Nahas 2007, pp. 137–144.
  3. Supica & Nahas 2007, pp. 173–177.
  4. Barnes 2012, p. 349.
  5. 杉浦 2015.

参考文献

  • 床井, 雅美『最新ピストル図鑑〈Vol.2〉』徳間書店徳間文庫〉、1996年。ISBN 978-4198904937。
  • Supica, Jim; Nahas, Richard (2007). Standard Catalog of Smith & Wesson (Third Edition). Gun Digest Books. ISBN 978-0896892934. https://books.google.co.jp/books/about/Standard_Catalog_of_Smith_Wesson.html?id=D8qXdU45SCUC
  • Barnes, Frank C. (2012). Cartridges of the World: A Complete Illustrated Reference for More Than 1,500 Cartridges. Gun Digest Books. ISBN 978-1440230592. https://books.google.com/books?id=bjhy8uv196IC&pg=PA349
  • 杉浦, 久也「戦後警察拳銃」『Gun Professionals』、ホビージャパン、2015年9月、72-79頁。

関連項目

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