醉象
醉象(すいぞう)は、将棋の駒の一つ。本将棋にはなく、小将棋・中将棋・大将棋・天竺大将棋・摩訶大大将棋・泰将棋・大局将棋に存在する。酔は新字体。醉象とは「発情して凶暴になった雄の象」もしくは「酒に酔って暴れる象」という意味で、仏教では凶悪な心のたとえに用いられる語であるが、なぜ将棋の駒の名前になったかは不明である。
歴史的には、大将棋に現れたものが最初と考えられるが、1058年(天喜6年)と推定される興福寺境内跡からの出土品の中に「醉像」と書かれた習書木簡が含まれており[1]、平安将棋・平安大将棋に醉象の駒が存在した可能性を指摘する研究者もいる[2][3]。
16世紀の一乗谷朝倉氏遺跡から発見された174枚の駒のうち1枚だけ酔象があり、裏はおそらく太子であった。増川宏一は、当時は酔象のある小将棋とない小将棋の2種類が共存していたが、酔象のある小将棋はすでに衰退しつつあったと解釈している[4]。
江戸時代に書かれた『諸象戯図式』や11代大橋宗桂が建てた石碑の拓本によると、後奈良天皇が小将棋から醉象の駒を除かせ、現在の将棋の形ができたとされる[5]。
小将棋・中将棋・大将棋・天竺大将棋・泰将棋・大局将棋
動きの面で見れば、小将棋・中将棋では、成駒が元の駒の完全上位互換であるが、新たな動きが1マス追加されるだけの唯一の駒であり、大将棋ではそのような性質を持つ2種類の駒のうちの1つである(もう一つは悪狼→金将)。
元の駒 | 動き | 成駒 | 動き | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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醉象(すいぞう) |
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真後ろ以外の方向に1マス動ける[6]。 | 太子(たいし) |
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全方向に1マス動ける。 |
摩訶大大将棋
元の駒 | 動き | 成駒 | 動き | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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醉象(すいぞう) |
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真後ろ以外の方向に1マス動ける。 | 王子(おうじ) |
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全方向に1マス動ける。 |
関連作品
脚注
- 『木簡研究』16号(1994年)、26ページ「奈良・興福寺旧境内」(清水康二・小栗明彦・和田萃)
- 『遊戯史研究』6号(1994年)、12ページ「将棋伝来についての一試論」(清水康二)。
- 木村義徳『持駒使用の謎』(日本将棋連盟、2001年、ISBN 4-8197-0067-7)216ページ。
- 増川宏一『将棋の駒はなぜ40枚か』集英社新書、2000年、69-74頁。ISBN 4087200191。
- 大内延介 著、団鬼六 編『将棋の来た道 日本篇(妙)』作品社〈日本の名随筆 8 将棋〉、1991年、151-153頁。ISBN 4-87893-828-5。
- 『象棋六種之図式』の泰将棋の解説では、縦、横、斜め前に1マス動ける(金将と同じ動き)となっている。
- 『象戯図式』『諸象戯図式』には「王子」という駒の記述はない。摩訶大大将棋の醉象の記述は、中将棋などと同じという理由で省略されている。『象棋六種之図式』では、摩訶大大将棋の項に醉象の成駒として「王子」が明記され、「即是太子」と注釈されている。
参考文献
- 梅林勲・岡野伸共著『改訂版 世界の将棋・古代から現代まで』(将棋天国社、2000年)
関連項目
小将棋の駒(自陣初期配置・括弧内は成駒) | |||||||||||||||||||||||||||
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中将棋の駒(自陣初期配置・括弧内は成駒) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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大将棋の駒(自陣初期配置・括弧内は成駒) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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