氾濫農耕

氾濫農耕(はんらんのうこう)とは、河川氾濫が引いた後の肥沃な沖積土を利用して耕作し収穫する農耕のこと。古代文明の発生した場所で行われた基本的な農耕である。

インダス文明の場合は、毎年6-8月に繰り返されるモンスーンのもたらす雨によって、インダス川が増水し、氾濫が引いた後に肥沃な沖積土が堆積して土壌が更新される。そのようにして更新された沖積地を耕地として、冬の初めに小麦を蒔き、翌年のモンスーンのもたらす雨期の前に収穫する。

エジプト文明は、ギリシャの歴史家ヘロドトスが「エジプトはナイルの賜物」と呼ばれたと解釈されるほど、洪水で得られた肥沃な土を使って農業を行った[1]。(本来のヘロドトスの言及はナイル川デルタの形成について解説している[2]。)

氾濫農耕の利点は、洪水そのものを制御しないため、氾濫を予防するための大規模な治水工事や灌漑水路維持のための浚渫が不要であったことである。農業用水を氾濫の引いた後に形成される自然の貯水池や耕地近傍の河川から得られたことから、ある程度の水が得られればよいという条件も自ずから満たされた。結果として耕地確保のための土木工事は季節的な小規模なもので済ませることができた。ただしこの利点は安定した洪水がおこったナイル川流域に典型的なものであり、氾濫規模が一定でないインダス川には妥当しない。インダス川流域では収穫は不安定で、耕地流出もおこり、氾濫後に河川の流路の変更があった場合には新しい耕地をさがして耕作しなければならなかった。この洪水と収穫の不安定さが農産物の余剰の蓄積、およびそのための技術の発展を促し、派生的にインダス文明の発生に関係したのではないかと一部の研究者は考えている。

出典

  1. UTokyo BiblioPlaza”. www.u-tokyo.ac.jp. 2023年3月26日閲覧。
  2. 長谷川, 憲治「瞥見ナイルのリバー・フロント」、一般社団法人 日本治山治水協会、1992年12月1日、doi:10.20820/suirikagaku.36.5_61
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