女性化 (生物学)

生物学および医学における女性化(じょせいか、英語: Feminization)またはメス化[1]とは、オスまたはメスにおいてメスの特徴が生物学的に発現する事である。これは女性においては正常な発達過程であり、性分化に寄与している。

動物のメス化は、環境要因によって引き起こされる事もあり、この現象は幾つかの動物種で観察されている[2][3]

病的な女性化

男性であるにも拘わらず、あるいは女児が不適切な発育年齢で女性化(第二次性徴)が起こる場合、多くは内分泌系の遺伝的あるいは後天的な疾患が原因となる。男性の場合、一般的な女性化の症状の1つはエストロゲン等の女性化ホルモンの血中濃度の上昇によって、乳房が不適切に発達する女性化乳房である[4]。 また、男性化ホルモン(アンドロゲン)の不足または遮断も女性化の一因となる。アンドロゲンは末梢組織のアロマターゼによってエストロゲンに変換される為、場合によっては高濃度のアンドロゲンが男性化作用(体毛の増加、声変わり筋肉量の増加など)と女性化作用(女性化乳房)の両方をもたらす事がある[4]

共生細菌によるメス化

アルファプロテオバクテリア綱に属する内生細菌ボルバキアは陸上節足動物の約40%の種に感染しており、メス化を含む4種類の方法で宿主の生殖を操作していることが知られている[1]。ボルバキアによるメス化はオカダンゴムシの例が有名であり、ボルバキアに感染した遺伝的にオスである個体の体内で雄性化ホルモンの分泌が抑えられることでメス化する[1]。同様に、キタキチョウもボルバキアの感染によってオスがメス化することが知られているが、昆虫には性ホルモンが存在しないと考えられていることから、オカダンゴムシとは別のメカニズムによると考えられている[1]。そのほか、ヨコバイの1種(Zyginidia pullula)やアズキノメイガでもボルバキアによるメス化が報告されている[1]。ボルバキア以外にもバクテロイデス綱に属する Cardinum hertigii がツヤコバチ科の寄生バチ Encarsia hispida に感染することで2倍体のオスを半数体のメスにすることが知られている[1]

脱女性化

生物の発達過程において、ある種のメスへの発達過程がオスの特性の発達によって妨げられる、性分化の過程の一側面を脱女性化と呼ぶ[5]。この言葉は、女性の特徴を取り除く事を意味している様に見えるが、殆ど全ての生物学的文脈において実際には、女性の発達の一側面が現れるのを防ぐ事を意味している。

人間では、胎児の3~4ヶ月目に抗ミュラー管ホルモン(AMH)によってミュラー管の派生物の発達が阻止される事がよく知られているが、脱女性化という用語は人間の発達に関する議論では一般的には使われない。

マウスを用いた実験で、雄性ホルモンであるテストステロンによる脱メス化作用が証明されている[6]。胎仔期や新生仔期のメスにテストステロンを投与すると、成体期においてマウントなどのオスに特徴的な生殖行動が増加し、逆にメスの生殖行動が減少する[6]

関連項目

出典

  1. 陰山大輔「昆虫の生殖を操作する細胞内共生細菌Wolbachiaの機能と特徴」『蚕糸・昆虫バイオテック』第83巻第3号、2014年、243–249頁、doi:10.11416/konchubiotec.83.3_243
  2. Fry, D.; Toone, C. (21 August 1981). “DDT-induced feminization of gull embryos”. Science 213 (4510): 922–924. Bibcode: 1981Sci...213..922F. doi:10.1126/science.7256288. PMID 7256288.
  3. Gimeno, Sylvia; Gerritsen, Anton; Bowmer, Tim; Komen, Hans (November 1996). “Feminization of male carp”. Nature 384 (6606): 221–222. Bibcode: 1996Natur.384..221G. doi:10.1038/384221a0. PMID 8918871.
  4. Larsen, P. Reed; Williams, Robert L. (2003). Williams textbook of endocrinology. Philadelphia: W.B. Saunders. ISBN 0-7216-9184-6
  5. Defeminization definition and meaning (英語). Collins English Dictionary. ハーパーコリンズ. 2017年11月26日閲覧。
  6. 小川園子「社会行動の調節を司るホルモンの働き」『動物心理学研究』第63巻第1号、2013年、31–46頁、doi:10.2502/janip.63.1.7
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