写像の反復

写像あるいは函数反復(はんぷく、: iteration)とは、同じ写像あるいは函数を繰り返し適用する操作である[1]。写像の繰り返し反復合成とも呼ぶ[2][3]。ある初期値に写像の反復を適用することで得られる点列軌道という。

年利で増える残高計算、世代ごとに増減する生物の個体数の計算、ニュートン法のような数値計算で方程式の解を求める問題など、反復によって表すことができるさまざまな科学・数学の問題がある[4]

定義

集合 X とその上で定義される写像 f: XX について、非負整数 n に対する fn 回反復 fn

によって定義される[2]。ここに 写像の合成、すなわち (fg)(x) = g(f(x)) を意味する。例えば、

という写像であれば、その2回反復および3回反復は

で与えられる[5]。他の表記法としては f[n] といった書き方もあるが、fn 表記の使用が多い[6]

f0 については、一般に恒等写像として定義する。すなわち、f0(x) = x である[7]f逆写像 f1: XX を持つ場合は、

が定義される[2]

軌道

整数全体の集合とする。f同相写像として、ある点 x X に対して

で与えられる集合 O(x) を、x を通る軌道という[7]。このとき、点 x は軌道の初期値と呼ばれる[8]

不動点、周期点

x が写像 f に対して

を満たすとき、x不動点という[9]f の全ての不動点の集合を Fix(f) などと記す[10]

また、fx に対して、

を満たす最小の m > 0 を周期といい、点 x を周期 m周期点という[10]fm 周期の周期点の集合を Perm(f) などと記す[10]m 周期点 x を通る軌道

を周期軌道という[11]

微分係数

微分可能な写像 f(x)n 回反復 fn(x)微分係数は、(fn)(x) などのように記される[12]x とする。2回あるいは3回反復の微分は、連鎖律より

となる[13]。これを n 回まで拡張すると (fn)(x)

で表される[14]。最初の点を x0 として各反復の写る先を (f1)(x0) = x1, (f2)(x0) = x2, , (fn)(x0) = xn と表すとすれば、(fn)(x0) は次のようにも表される[13]

x0 が周期 m の周期点だとすれば、Perm(f) の各点の m 回反復の微分係数は次のように互いに等しい[13]

周期点の微分係数によって、周期点の安定性が判別できる[12]

出典

  1. Devaney 2003, p. 2.
  2. 久保・矢野 2018, pp. 155–156.
  3. 上田・谷口・諸沢 1995, p. 1.
  4. デバニー 2007, pp. 10–19.
  5. デバニー 2007, pp. 20–21.
  6. グーリック 1995, p. 2.
  7. 青木・白岩 2007, pp. 16–17.
  8. デバニー 2007, p. 20.
  9. Devaney 2003, p. 11.
  10. 青木 1996, p. 6.
  11. グーリック 1995, p. 16.
  12. 青木 1996, p. 8.
  13. デバニー 2007, p. 50.
  14. Devaney 2003, p. 9.

参照文献

  • Robert L. Devaney、國府 寛司・石井 豊 ・新居 俊作・木坂 正史(新訂版訳)、後藤 憲一(訳)、2003、『カオス力学系入門』新訂版、共立出版 ISBN 4-320-01705-6
  • 上田 哲生・谷口 雅彦・諸沢 俊介、1995、『複素力学系序説 ―フラクタルと複素解析』初版、培風館 ISBN 4-563-00585-1
  • 久保 泉・矢野 公一、2018、『力学系』オンデマンド版、岩波書店 ISBN 978-4-00-730742-3
  • ロバート・L・デバニー、上江洌 達也・重本 和泰・久保 博嗣・田崎 秀一(訳)、2007、『カオス力学系の基礎』新装版、ピアソン・エデュケーション ISBN 978-4-89471-028-3
  • 青木 統夫・白岩 謙一、2013、『力学系とエントロピー』復刊、共立出版 ISBN 978-4-320-11043-4
  • 青木 統夫、1996、『力学系・カオス―非線形現象の幾何学的構成』初版、共立出版 ISBN 4-320-03340-X
  • デニー・グーリック、前田 恵一・原山 卓久(訳)、1995、『カオスとの遭遇 ―力学系への数学的アプローチ』初版、産業図書 ISBN 4-7828-1009-1
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