自衛隊情報保全隊

自衛隊情報保全隊(じえいたいじょうほうほぜんたい、英語:JSDF Intelligence Security Command)は、市ヶ谷駐屯地に所在する陸、海、空自衛隊共同の防諜部隊である。

自衛隊情報保全隊
JSDF Intelligence Security Command
創設 2009年平成21年)8月1日
所属政体 日本の旗 日本
所属組織 防衛省自衛隊
部隊編制単位
兵種/任務/特性 陸海空自衛官混成・防諜
人員 約1,000名
所在地 東京都新宿区
編成地 市ヶ谷
上級単位 防衛大臣直轄
担当地域 全国
特記事項 常設統合部隊

概要

自衛隊法第21条の2「共同の部隊」および自衛隊法施行令第30条の16に設置根拠を有する。防衛省における情報保全能力強化を目的とし、2003年3月陸上海上航空自衛隊に編成された「情報保全隊」を、防衛大臣直轄の部隊に統合再編した。自衛隊指揮通信システム隊 (現:自衛隊サイバー防衛隊) に続く第2の常設統合部隊である。

設立経緯

防衛庁における情報保全能力の強化を目的に設立された情報保全隊であったが、わずか1年後の2004年以降各自衛隊においてファイル共有ソフトを介した情報漏洩事案が多発。国内外から防諜体制の不備を指摘されてきた。その後、2006年3月の統合幕僚監部発足(統合運用体制移行)に伴い、庁としての防諜体制を強化するため陸海空の情報保全隊を統合し長官直轄の機関として運用する構想が浮上した。

当時の名称は「情報保全本部」といい、防諜担当の『調査第1部』(統合幕僚長監督下)、基地警備及び隊員の適格性(秘密を取扱う隊員としてふさわしい者かどうか)を調査すること(かつては身上調査と呼ばれていた)についての情報収集担当の『調査第2部』(各自衛隊の幕僚長監督下)を設置し、本部隷下に全国5つの「地方方面隊」を設置し、また防衛相の下に防衛事務次官を委員長として各幕僚長等で構成される「防諜委員会」を設置する構想であった。これにより防衛省の情報体系の一元化を行い、この情報保全本部と情報本部の協働により、防衛庁全体の情報収集(諜報)及び保全(防諜)能力を強化するという目的があった。

他方、隊員の適格性についての調査を任務とする『調査第2部』の調査対象は、隊員のみならずその家族の思想信条等も含まれている。これは防諜活動の一環であるが、一部制服組からの反発の声が根強く、特に外国籍の配偶者に関する隊員の個人情報については各自衛隊とも“把握済み”と主張しており、情報保全本部への情報提供については、どちらかといえば否定的である。

なお、外国籍の配偶者に関する個人情報を情報保全本部が収集することについては、その配偶者が外国の諜報員だという可能性もある事例も想定されるためであり、いわゆるハニートラップ対策としての性格も含まれているとされる(近年、日本の情報コミュニティにおいては、この種の事案に対する対策が強化される方向にある)。直接の要因は海上自衛隊における特別防衛秘密流出事件アメリカから防諜体制の不備が懸念され、航空自衛隊のF-X選定や、ミサイル防衛の中核を担う海上自衛隊のイージス艦のアップデートに支障が出た事が大きいとされる。

紆余曲折を経て、防衛省は陸海空自衛隊の情報保全隊を防衛大臣直轄の常設統合部隊として新設することを2008年度予算編成で認められたが、当該年度中には実施されなかった。また、名称は情報保全本部から自衛隊情報保全隊(自衛隊指揮通信システム隊と同列の部隊)に改められた。第171回国会閉会の2009年7月21日付で同隊の設置を含む自衛隊法施行令が改正され、8月1日付で統合幕僚長から隊旗授与、編成を完結した。隊司令には将補が、中央及び地方部隊の長には1佐が充てられている。なお、派遣隊等内部組織の詳細については公表されていない。また、情報保全本部構想時の「防諜委員会」は同日、統合幕僚監部運用部運用第1課内に「カウンターインテリジェンス室」として設置[1]された。

部隊編成

自衛隊情報保全隊本部

  • 情報保全隊司令(原則として防衛駐在官の経験を有する陸将補)[2]
    • 情報保全官(陸海空の1佐各1名、3名のうちの最先任者が副司令[3]を兼務)
  • 総務課
  • 運用課(運用、教育訓練、研究)
  • 情報保全課(情報収集、外部機関等との連絡調整)
  • 保管課(資料・情報の保管、システムの維持管理と研究)
  • 第1情報保全室(統合幕僚監部及び陸上自衛隊担当)
  • 第2情報保全室(海上自衛隊担当)
  • 第3情報保全室(航空自衛隊担当)

中央情報保全隊

陸上自衛隊情報保全隊本部付情報保全隊、海上自衛隊情報保全隊本部、航空自衛隊東京地方情報保全隊を統合再編。隊長は1等空佐(固定)。

地方情報保全隊及び情報保全派遣隊

本部は陸自各方面総監部所在駐屯地に所在。隊長は1等陸佐(二)。防衛大臣の承認を得て、情報保全派遣隊を部隊等又は施設等機関等の所在地に配置。

自衛隊情報保全隊の担当区域
部隊名本部所在地担当区域
中央情報保全隊市ヶ谷駐屯地市ヶ谷地区
北部情報保全隊札幌駐屯地北海道
東北情報保全隊仙台駐屯地東北
東部情報保全隊朝霞駐屯地関東甲信越
中部情報保全隊伊丹駐屯地東海北陸近畿中国四国
西部情報保全隊健軍駐屯地九州沖縄

主要幹部

官職名階級氏名補職発令日前職
自衛隊情報保全隊司令陸将補神園雄一2023年03月30日北部方面総監部幕僚副長
情報保全官
兼 副司令
1等陸佐大岡耕太郎2022年03月14日自衛隊情報保全隊東部情報保全隊長
情報保全官1等海佐大江保友2022年08月01日海上幕僚監部指揮通信情報部情報課長
情報保全官1等空佐依田和彦2022年01月15日情報本部勤務
中央情報保全隊長1等空佐寺内真寿2022年10月18日航空支援集団司令部監理監察官
北部情報保全隊長1等陸佐大窪智洋2022年08月01日陸上幕僚監部防衛部防衛協力課計画班長
東北情報保全隊長1等陸佐菅原隆二2021年12月01日情報本部勤務
東部情報保全隊長1等陸佐小板橋順次2022年03月14日第5施設団副団長
中部情報保全隊長1等陸佐高井良誠一2022年08月01日陸上総隊司令部情報部副部長
西部情報保全隊長1等陸佐鈴木大2022年08月01日陸上幕僚監部指揮通信システム・情報部
情報課総合情報班長
歴代の自衛隊情報保全隊司令
(陸将補(二))
氏名在職期間出身校・期前職後職
01高山治彦2009年08月01日 - 2010年03月28日防大20期陸上自衛隊情報保全隊退職
02友部薫2010年03月29日 - 2011年04月26日防大23期東部方面総監部幕僚副長第15旅団
03富樫勝行2011年04月27日 - 2012年07月25日生徒20期・
防大25期
東部方面総監部幕僚副長第12旅団
04立花尊顯2012年07月26日 - 2014年03月27日防大26期東北方面総監部幕僚副長退職
05渡邊金三2014年03月28日 - 2016年03月22日防大26期西部方面特科隊
湯布院駐屯地司令
(1等陸佐)
退職
06青木義昌2016年03月23日 - 2018年03月26日防大30期陸上自衛隊小平学校副校長陸上自衛隊情報学校
07佐々木俊哉2018年03月27日 - 2020年08月24日防大32期情報本部計画部長
(1等陸佐)
退職
08實藤聖2020年08月25日 - 2021年12月21日防大35期情報本部計画部長
(1等陸佐)
陸上自衛隊情報学校長
09深草貴信2021年12月22日 - 2023年03月29日防大37期自衛隊福岡地方協力本部
(1等陸佐)
自衛隊大阪地方協力本部
10神園雄一2023年03月30日 -北部方面総監部幕僚副長

活動監視問題

田母神俊雄佐藤正久の講演会に現職自衛隊員が参加していたかどうかを調査するため、当該講演会に保全隊員が潜入し監視を行ったことや、「隊友会」など自衛隊OBらが多数出席する新年会(賀詞交換会)において、自由民主党総裁谷垣禎一が出席時間を遅らせるよう要請された上祝辞を後回しにされるように保全隊が関与したことが判明。これら一連の行為は民主党政権下の2010年11月に発出された事務次官通達以降に行われたため、自由民主党公明党は、民主党政権による言論統制及び思想の自由侵害にあたるとして、防衛大臣北澤俊美の問責を含め、第177回国会において徹底追及する構えを見せた[4]

当時の「陸上自衛隊情報保全隊」が様々な市民活動を監視していた問題についても差し止め訴訟に発展している。

脚注

  1. 防衛省人事発令(2009年8月1日、1佐人事より)
  2. 自衛隊法施行令の規定では陸・海・空将補のいずれかとなっているが、これまで海将補・空将補が補せられた実績はない。
  3. 防衛省人事発令において「情報保全官兼ねて副司令を命ずる」とあるため、副司令は専任の役職ではない。
  4. 自衛隊監視問題 北沢防衛相の責任を問う産経新聞『主張』2011年1月27日(2011年2月20日時点のアーカイブ

関連項目

外部リンク

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