三大秘法

三大秘法さんだいひほう)とは、日蓮が説いた、末法の人々を救うための根本となる教えで、

の3つからなる[1]日蓮正宗日蓮宗では解釈が異なる。

記述

日蓮が残した文書のうち「三大秘法」という単語が出てくる記述は、以下の通り。

  • 「其故は寿量品の事の一念三千の三大秘法を成就せる事此経文なり」(『義浄房御書』[2][3]
  • 「雖然三大秘法其体如何。」(『三大秘法禀承事』[4][5][注釈 1]
  • 「此三大秘法は二千余年の当初、地涌千界の上首として、日蓮慥に自教主大覚世尊口決相承せし也。」[注釈 2] (『三大秘法禀承事』[7][8]
  • 「法華経を諸仏出世の一大事と説せ給て候は、此三大秘法を含たる経にて渡らせ給へばなり。」(上に同じ)

日蓮が残した文書のうち「三大秘法」に関する記述は、以下の通り(上述の文書を除く)。

  • 本門寿量品の三大事とは是也。」(『四条金吾殿御返事』[9][10]
  • 「天台・伝教宣之 本門本尊与四菩薩戒壇南無妙法蓮華経五字残之。」(『法華行者値難事』[11][12]
  • 「答曰 本門本尊戒壇題目五字也。」(『法華取要抄』[13][14]
  • 「如是乱国土後 出現上行等聖人 本門三法門建立之 一四天四海一同妙法蓮華経広宣流布無疑者歟。」(『法華取要抄』[15][16]
  • 「答云、一は日本乃至一閻浮提一同に本門の教主釈尊を本尊とすべし。〔略〕二には本門の戒壇。三には〔略〕南無妙法蓮華経と唱べし。」(『報恩抄』[17][18]

解釈

日蓮宗

日蓮宗における三大秘法の解釈は、以下の通り。

  • 本門の本尊 - 上述の「日本乃至一閻浮提一同に本門の教主釈尊を本尊とすべし」を根拠として、寿量品で顕された「久遠実成の本師釈迦牟尼仏」のこと[19][20]
  • 本門の戒壇 - 「理の戒壇」と「事の戒壇」がある。「理の戒壇」は、本門の本尊に帰依し本門の題目を受持する場のことで、具体的には、題目を受持する場であれば寺院・家庭を問わない。「事の戒壇」は宗祖が示した、全世界の人々が妙法に帰依した暁に最勝の地に建てられる道場のこと[21][22]。とは言え、法華経神力品[注釈 3]を踏まえると、「理の戒壇」即「事の戒壇」と言える[23]
  • 本門の題目 - 単なる経題に留まらない、仏の悟り全てを表す・衆生救済の働きを含む南無妙法蓮華経のこと[24][25]。同時に、一大秘法でもあるとする[26]

日蓮正宗

日蓮正宗では、三大秘法を同宗教義の根本とし、「宗旨の三箇」と呼んでいる[27]。同宗における三大秘法の解釈は、以下の通り。

  • 本門の本尊 - 「人」と「法」があり、「人」は久遠元初自受用身の再誕日蓮・「法」は十界互具事の一念三千の大曼荼羅のこととし、これらが一体である(人法一箇の本尊)とする[28]
  • 本門の戒壇 - 「事」と「義」があり、「事」は本門戒壇の大御本尊を安置するところ・「義」は日蓮正宗の末寺ならびに信者家庭へ下付された御本尊を安置するところのこと[29][注釈 4]
  • 本門の題目 - 「信」と「行」があり、「信」は本門戒壇の大御本尊を信じること・「行」は「信」をもって南無妙法蓮華経と自ら唱えること[30][31]

三大秘法は「本門戒壇の大御本尊」(一大秘法)に納まり、かつ上述の「人」「法」の本尊・「事」「義」の戒壇・「信」「行」の題目の六義(六大秘法)に開け、さらに開くと仏教八万法蔵の法門になる[32]

脚注

注釈

  1. 『三大秘法禀承事』には、真偽両説あり[1][6]。なお、読み仮名は、(日蓮宗宗務院教務部 1999, p. 53)には、さんだいひほうほんしょうじ、(宗旨建立750年慶祝記念出版委員会 2002, pp. 129, 130)には、さんだいひほうぼんじょうのこと、とそれぞれある。
  2. (日蓮 1994b, p. 1594)には、「〔略〕口決せし相承なり」とある。
  3. 法華経を受持・読・誦・解説・書写する場所がそのまま道場であり、そこで成仏の利益を得ることができる、という教え
  4. なお、(日蓮正宗宗務院 1999, p. 115)には、日蓮正宗歴代法主の認める本尊が安置するところは「義において事の戒壇に当たる」、(日蓮正宗宗務院 1999, p. 116)には、先師が「事」は『三大秘法禀承事』に示される戒壇・「義」は本門の本尊を安置するところと示した、とそれぞれある。

出典

  1. 中村元 2002, p. 394.
  2. 日蓮 1976a, p. 730.
  3. 日蓮 1994a, p. 668-但し、送り仮名は異なる。
  4. 日蓮 1976b, p. 1864.
  5. 日蓮 1994b, pp. 1593–1594-但し、書き下されている。
  6. 日蓮宗事典刊行委員会 1981, p. 130.
  7. 日蓮 1976b, p. 1865.
  8. 日蓮 1994b, p. 1594-但し、送り仮名は異なる。
  9. 日蓮 1976c, p. 635.
  10. 日蓮 1994c, p. 597-但し、送り仮名は異なる。
  11. 日蓮 1976d, p. 798.
  12. 日蓮 1994d, p. 719-但し、書き下されている。
  13. 日蓮 1976e, p. 815.
  14. 日蓮 1994e, p. 734-但し、書き下されている。
  15. 日蓮 1976e, p. 818.
  16. 日蓮 1994e, p. 735-但し、書き下されている。
  17. 日蓮 1976f, p. 1248.
  18. 日蓮 1994f, p. 1023-但し、送り仮名は異なる。
  19. 日蓮宗宗務院教務部 1999, p. 55.
  20. 日蓮宗事典刊行委員会 1981, p. 131.
  21. 日蓮宗宗務院教務部 1999, pp. 62, 64.
  22. 日蓮宗事典刊行委員会 1981, p. 415-但し、具体例は除く。
  23. 日蓮宗事典刊行委員会 1981, pp. 415–416.
  24. 日蓮宗宗務院教務部 1999, p. 58.
  25. 日蓮宗事典刊行委員会 1981, p. 132-但し、「仏の悟り全てを表す・衆生救済の働きを含む」ではなく、「一念三千を具足している」とある。
  26. 日蓮宗事典刊行委員会 1981, p. 14.
  27. 宗旨建立750年慶祝記念出版委員会 2002, p. 129.
  28. 日蓮正宗宗務院 1999, p. 82,91.
  29. 宗旨建立750年慶祝記念出版委員会 2002, p. 132.
  30. 宗旨建立750年慶祝記念出版委員会 2002, pp. 133–134.
  31. 日蓮正宗宗務院 1999, p. 124-但し、「行」に「信」が必要なことを除く。
  32. 宗旨建立750年慶祝記念出版委員会 2002, p. 130.

参考文献

  • 宗旨建立750年慶祝記念出版委員会 編『日蓮正宗入門』阿部日顕(監修)(第2版)、大石寺、2002年10月12日。ISBN 978-4904429778。 NCID BA56841964OCLC 675627893https://web.archive.org/web/20041105054029/http://www.geocities.jp/shoshu_newmon/2014年12月5日閲覧(ISBNは、改訂版のもの。)
  • 中村元福永光司田村芳朗・今野 達・末木文美士 編『岩波仏教辞典 第二版』岩波書店、2002年10月30日。ISBN 978-4000802055。 NCID BA59264710OCLC 51790441
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  • 日蓮宗宗務院教務部 編『日蓮宗の教え:檀信徒版宗義大綱読本』日蓮宗勧学院(監修)(第1刷)、日蓮宗新聞社、1999年2月16日。ISBN 4890451277。 NCID BA44996872
  • 日蓮正宗宗務院『日蓮正宗要義』(改訂)日蓮正宗宗務院、1999年12月19日。ISBN 978-4904429501。 NCID BA39623413OCLC 675616041

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