レーダーサイト
レーダーサイト(英語: radar site)とは、軍事用レーダーの地上固定局で監視情報を他の関連部署と共有し、軍事目的に利用するための施設である。レーダーを、風雪などの自然環境や敵の攻撃から保護するための装備や施設も備える。
軍事用レーダーサイトは下記の設備を併設し、電子戦情報の収集をも任務とする場合がある。
- 対空無線
- 見通し外通信アンテナ (オーバーホライゾン、略してOH)
軍事用レーダー運用拠点としては、固定的に運用する本レーダーサイトのほか、航空機に搭載して運用する早期警戒管制機と早期警戒機、および艦船に搭載して運用するレーダーピケット艦やイージス艦、車両に搭載されて設置場所を変更可能な移動式レーダーがある。
レーダーサイトの運用と戦闘
軍事目的のレーダーサイトは、どの国においても防衛の要となる重要施設で、3次元レーダーを使用しての対空監視を任務としている。組織的な戦闘が可能なサイトは、地上の防空部隊(地対空ミサイル)や航空部隊(戦闘機)と連携して、防空戦力の支援とその運用を効率良く行えるように組織されている。また多くのレーダーサイトでは、無線傍受(エリントやコミント)などの情報収集任務も行なわれている。
航空作戦では相手の防空能力を低下させることが作戦の成果に大きく影響する。そのため、防空の一翼を担うレーダーサイトはジャミングのような妨害や直接的な攻撃の対象になる。現代の空軍では、レーダー波を逆探知して自らレーダーサイトに着弾する対レーダーミサイルや誘導爆弾を運用していることが多い。
湾岸戦争開戦後、即座に多国籍軍によりイラクのレーダーサイトの指揮所が撃破され、次いでサイトが攻撃されたことからも、レーダーサイトの現代戦における前線基地の役割、その重要性がうかがえる。
固定型で大型のレーダーサイトは、出力が大きく探知能力も高いが、移動できず攻撃に対して脆弱である。また設置場所については、地平線の見通し線の関係から、高所や沿岸への設置が望まれる。この他、レーダー覆域の空白を埋めるために海上に人工プラットホームを設置し、そこに据えられるケースもある。
日本では、航空自衛隊が領空侵犯を防止するために全国各地にレーダーサイトを配置し、24時間態勢で防空の任務を行っている。これらのレーダーサイトは自動警戒管制組織に組み込まれている。レーダーサイトで抽出したレーダーデータは、全国4つの担任防衛区域ごとにある各防空指令所 (Direction Center) に集められ、探知発見された航跡について彼我等識別が行われると共に、必要に応じて要撃機の管制を実施する。ひとたび領空侵犯の疑いのある飛行物体が防空識別圏に接近すると、千歳(ちとせ)・三沢・百里・小松・築城(ついき)・新田原(にゅうたばる)・那覇の航空自衛隊基地に配備される航空団から、アラート任務に就いている要撃機が発進できる態勢がとられている。出撃することを俗に「スクランブル」という。また、侵攻する航空機や弾道ミサイルなどの撃墜任務を持つ傘下の高射隊(防空ミサイル部隊)のレーダー情報などともレーダー網が共有されている。
現在は、地上レーダーと、偵察衛星、早期警戒管制機、イージス艦、哨戒機のレーダー情報を、一括して統合運用する軍事における革命が進行中である。
敵性国家は、相手国のレーダーサイトの警戒監視能力を探るために、偵察衛星、電子偵察機、情報収集艦、ヒューミントなどあらゆる手段を駆使して、平時から情報戦を行なっている。近代的な国家間が軍事衝突に陥る場合、第一撃は必ずレーダーサイトに対する攻撃から始まる。レーダーサイトは、現代戦の要であり、同時に脆弱性も包含する軍事施設である。
早期警戒管制機に対する固定レーダーサイトの長所と短所
- 長所
- 探知能力に対して運用コストが比較的安い。
- 独立した施設であり自己完結性が高い。
- 継続的、日常的な監視活動に向いている。
日本のレーダーサイト
専守防衛を国是とする日本においては、いかにして奇襲に対処できるかが重要な命題であり、そのためにレーダーサイトの必要性が高まっている。航空自衛隊のレーダーサイト(航空警戒管制部隊)は、以下の通りである。レーダーサイトは、山頂又は海岸沿いといった僻地に設置されることが多く、航空救難団飛行群ヘリコプター空輸隊が三沢・入間・春日・那覇に配備されており、CH-47J大型輸送ヘリコプターが、特に離島等のレーダーサイトへの物資補給などを行っているが、近年の交通網等の発達によりレーダーサイトも都市部へのアクセスは容易となっている。
隊員を輸送するため民生品のマイクロバスなどをサイト用人員輸送車として配備している。
幹部の兵器管制官と空曹・空士の警戒管制員が配置されているが、主に要撃戦闘機との交信は無線機等を遠隔操作し、DCと呼ばれる防空指令所で行われている。日本のレーダーサイトには、警戒監視を行う監視小隊、レーダー・通信機器の整備・管理を行う通信電子小隊や、基地の施設管理や炊事・警備を行う業務小隊等が編成されており、常に配置に就いている。重要影響事態が突発的に発生した場合に備え、宮古島などの一部のレーダーサイトには、平素から外国の軍隊が使用中の電波を傍受・分析するための設備として「地上電波測定装置」が併設され、稼働している。現に、航空自衛隊の地上電波測定装置は、大韓航空機撃墜事件の真相解明に活躍したことがある。
主なレーダーサイト部隊
- 稚内 第18警戒隊 - J/FPS-7B(2022年(令和4年)より運用を開始[1]、地上電波測定装置併設)
- 網走 第28警戒隊 - J/FPS-4
- 根室 第26警戒隊 - J/FPS-2A(地上電波測定装置併設)
- 当別 第45警戒隊 - J/FPS-3改
- 襟裳 第36警戒隊 - J/FPS-20S・J/FPS-6S
- 大湊 第42警戒隊 - J/FPS-5B
- 山田 第37警戒隊 - J/FPS-2
- 加茂 第33警戒隊 - J/FPS-3改
- 奥尻島 第29警戒隊 - J/FPS-4(地上電波測定装置併設)
- 大滝根山 第27警戒隊 - J/FPS-3改
- 佐渡 第46警戒隊 - J/FPS-5B
- 峯岡山 第44警戒隊 - J/FPS-4
- 輪島 第23警戒隊 - J/FPS-3改
- 御前崎 第22警戒隊 - J/FPS-2
- 経ヶ岬 第35警戒隊 - J/FPS-3改
- 笠取山 第1警戒隊 - J/FPS-3A改
- 串本 第5警戒隊 - J/FPS-20S・J/FPS-6S
- 高尾山 第7警戒隊 - J/FPS-4
- 見島 第17警戒隊 - J/FPS-7(BMDに対応)
- 海栗島 第19警戒隊 - J/FPS-7
- 脊振山 第43警戒隊 - J/FPS-3A改(地上電波測定装置「J/FLR-4」併設)
- 福江島 第15警戒隊 - J/FPS-4(地上電波測定装置「J/FLR-4A」併設)
- 下甑島 第9警戒隊 - J/FPS-5A
- 高畑山 第13警戒隊 - J/FPS-7(BMDに対応)
- 沖永良部島 第55警戒隊 - J/FPS-7(BMDに対応予定)
- 久米島 第54警戒隊 - J/FPS-4
- 与座岳 第56警戒隊 - J/FPS-5C
- 宮古島 第53警戒隊 - J/FPS-7(BMDに対応予定、地上電波測定装置「J/FLR-4A」併設)
※上記以外にも、訓練・教育用として以下のサイトがある。
日本以外の国のレーダーサイト
アメリカ
アメリカのレーダーサイトはアメリカ空軍で運用している。
関連項目
脚注
- “第18警戒隊の沿革”. 2022年7月20日閲覧。