レギン (北欧神話)

レギン (Reginn, Regin) は、北欧神話に登場する人物[注 6]

レギン
ノルウェーのスターヴ教会の一つであるハイレスタッドスターブ教会(12世紀後期もしくは13世紀初期の創建)のポータルに伝わる、『ヴォルスンガ・サガ』を表現した扉の木彫の一部分で、悪巧みを気付いたシグルズがレギンを剣で殺害する場面を表現している。
レギン殺し:Sigurd dödar Regin (The slaying of Regin) [注 1]
悪巧みを気付かれたレギンはシグルズに討たれる。
これは、ノルウェースターヴ教会の一つであるヒュッレスタードスターヴ教会ポータルに伝わる、『ヴォルスンガ・サガ』を表現した木彫の一部分[注 2]
絵画石碑の一種「シグルド石碑」の一つである「Sö 101」。その線刻画「ラスムンド線刻画」のうち、首を刎ねられたレギンを描いた箇所。『ヴォルスンガ・サガ』にまつわるもので、1030年頃の作と推定されている。
絵画石碑の一種「シグルド石碑」[注 3]の一つであるところの、スウェーデンセーデルマンランド地方のラムスンド[注 4]に遺る「Sö 101」の、線刻画「シグルズリストニンゲン(Sö 101 ラスムンドカーヴィング)」[注 5]のうち、首を刎ねられたレギンを描いた箇所。『ヴォルスンガ・サガ』にまつわるもので、1030年頃の作と推定されている。

父はフレイズマル、兄はファフニールオッテル、姉妹にリュングヘイズ、ロヴンヘイズがいる[4]

なお、『シズレクのサガ』では、人物の続柄が逆転している部分があり、レギンに相当するのがミーメ、ファフニールに相当するのがレギンとなっている[5]

概要

父フレイズマルはロキが殺害したオッテルの賠償金として、オーディンたちから黄金を得た[注 7]。レギンは兄ファフニールと共に黄金の分配を求めたが、断られたため、兄と共謀して父を殺害する。ところが、黄金はファフニールに独り占めされてしまった[7]

レギンはその後、正体を隠してデンマークの王ヒャルプレクの下で鍛冶師として働き、フラグランド王シグムントの遺子シグルズの養育を任される。養父となったレギンは、シグルズに様々な知識を教える一方で[2]勇士として育て上げ、ファフニールを殺害させて黄金を奪おうと考えた。レギンは剣グラムをシグルズに与え[8][注 8]、ファフニールを倒させた[10]。その後、シグルズが先に父の仇討ちを果たしたいと言うとその旅にも同行したが、ファフニールとの戦いが始まる時には事が終えるまでその姿を隠していた。そしてレギンは自身にも責任があるとしたうえで兄を殺したことを非難し、ファフニールの心臓を炙って食べさせてくれとシグルズに頼んだ。

しかし、シグルズは心臓の焼き加減を確かめるために親指を押しつけた際、火傷してしまい、親指についたファフニールの心臓の血(脂)を舐めたことで言葉が分かるようになった。そのことから、シグルズは自分を殺して黄金を独占しようというレギンの悪巧みに気付き、眠っているレギンの首を刎ねて殺した[11][12]

レギンのギャラリー

ミーメ

リヒャルト・ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』(1874年完成)の第2日「ジークフリート」には、レギンに相当する侏儒のミーメが登場する。

ミーメ
ラッカムの挿絵。砕けた剣ノートゥングを鍛え直すミーメを描いている。
砕けた剣ノートゥングを鍛え直すミーメ。

ミーメのギャラリー

このセクションに掲載した画像はいずれもイギリス挿絵画家アーサー・ラッカムによる水彩の挿絵である。1911年刊行[13]

脚注

注釈

  1. Sigurd dödar Regin はノルウェー語で「シグルズによるレギン殺害」の意。括弧内は英語で「レギン殺し」の意。この木彫のこの箇所に特定の名称があるわけではないが、このように呼ばれることが多い。
  2. 教会は12世紀後期もしくは13世紀初期に創建され[1]、扉もその時のものであり、17世紀になって破壊を伴う形で取り外され、保管されていた[1]
  3. Sigurd stones(シグルドストーンズ、シグルド石碑)は、シグルズにまつわる絵画石碑である。スウェーデン語(現地語名)は Sigurdsristningar
  4. ノルウェーのチェルスンにあるラムスン (en:Ramsund, Norway) ではない。
  5. Sö 101 は係る絵画石碑の考古学的管理名称(分類番号)(cf. ルーン石碑#分類)。Sigurdsristningen(シグルズリストニンゲン)は係る絵画石碑に刻まれた線刻画のスウェーデン語名(現地語名)で、「シグルド彫刻」の意。「ラスムンド彫刻」の意で Ramsundsristningen(ラスムンズリストニンゲン)ともいう。Sö 101, the Ramsund carving(Sö 101 ラスムンドカーヴィング)は同じくこの線刻画の英語における通称で、「Sö 101 ラスムンド彫刻」の意。日本語では「ラスムンド彫刻画」の名が見られる
  6. 『レギンの歌』では小人であるが、『ヴォルスンガ・サガ』では特に明記されていない。また、前者では知恵者で魔法に優れるとされているが、後者では兄弟の中で一番劣ると自ら称している[2][3]
  7. この黄金はアンドヴァリから奪ったものであるが、最後に奪った腕輪(あるいは指輪)にアンドヴァリは2人の兄弟の死と8人の王の不和の原因となるよう呪いをかけた。このうち「2人の兄弟」がファフニール、レギンである[6]
  8. 『レギンの歌』ではグラムが鍛え直される描写は無いが、『ヴォルスンガサガ』ではシグルズは竜退治のために剣を鍛えるようレギンに頼み、先に作られた2本の剣を折ったのち、父の遺品グラムの所在を訊ねられ、レギンに預けて鍛え直す形で与えられた経緯が描かれている[9]

出典

  1. Hylestad stave church - Viking Archaeology
  2. ネッケル & 谷口 (1973), p. 133, 「レギンの歌」序文.
  3. 谷口 (1979), p. 551, 「ヴォルスンガサガ」第13章.
  4. ネッケル & 谷口 (1973), p. 134, 「レギンの歌」第9節-第10節.
  5. 石川 (2004), p. 68.
  6. ネッケル & 谷口 (1973), 134頁台5節、137頁 訳注6.
  7. ネッケル & 谷口 (1973), pp. 133–134, 「レギンの歌」序文-第9節.
  8. ネッケル & 谷口 (1973), p. 135, 「レギンの歌」第13節-第14節.
  9. 谷口 (1979), pp. 554–555, 「ヴォルスンガサガ」第15章.
  10. ネッケル & 谷口 (1973), pp. 138–140, 「ファーヴニルの歌」序文-第22節.
  11. Byock (1990), pp. 65–66.
  12. ネッケル & 谷口 (1973), p. 142, 「ファーヴニルの歌」第31節-第39節.
  13. Wagner & Rackham (1911).

参考文献

  • Byock, Jesse L. (1990) (English). Saga of the Volsungs: The Norse Epic of Sigurd the Dragon Slayer. Berkeley, Los Angeles, London: University of California Press. OCLC 59477133 ISBN 0-520-23285-2, ISBN .978-0-520-23285-3.
  • Wagner, Richard (author); Rackham, Arthur (illustrator) (1911) (English). Siegfried & The twilight of the gods (hardcover, first ed.). London : W. Heinemann ; New York City : Doublday, Page. https://archive.org/details/siegfriedtwiligh00wagn
  • 石川栄作『ジークフリート伝説 ワーグナー『指環』の源流』講談社講談社学術文庫 1687〉、2004年12月11日。OCLC 170019737ISBN 4-06-159687-X、ISBN 978-4-06-159687-0。
  • グスタフ・ネッケルほか 編、谷口幸男 『エッダ―古代北欧歌謡集』新潮社、1973年1月1日。OCLC 834214556https://www.shinchosha.co.jp/book/313701/ISBN 4-10-313701-0、ISBN 978-4-10-313701-6。
  • 谷口幸男  訳『アイスランドサガ』新潮社、1979年9月1日。ISBN 4-10-313702-9、ISBN 978-4-10-313702-3。

関連文献

関連項目

外部リンク

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