ラオパサ

ラオパサ: Lau Pa Sat)、または、テロック・アヤ・マーケット: Telok Ayer Market)とは、シンガポールセントラル・エリア内、ダウンタウン・コアに所在する歴史的建造物である。1824年に植民地時代初期のシンガポールにおけるウォーターフロントの魚市場として建設された後、1838年に再建された。その後、1894年に現在の場所へ移転し、現在は郷土料理を提供するフードコートの屋台が立ち並んでいる。

ラオパサ
Lau Pa Sat
概要
所在地 18 ラッフルズ・キー
シンガポールの旗 シンガポール共和国
座標 北緯1度16分50秒 東経103度51分01秒
完成 1894年3月1日 (1894-03-01)
管理機関 国家遺産局
登録日1973年6月28日 (1973-06-28)
上空から見たラオパサ

語源

テロック・アヤ・マーケット(マレー語: Pasar Telok Ayer中国語: 直落亚逸巴刹)は、テロック・アヤ・ベイにちなみ名付けられた。マレー語の「テロック・アヤ(Telok Ayer)」は「湾の水」を意味し、1879年に埋め立て工事が開始されるまで、テロック・アヤ・ストリートは、湾に沿って敷設された海岸道路であった[1]

ラオパサ(中国語: 老巴刹拼音: Lǎo Bāshā)は、中国語のシンガポール方言で「古い市場」を指す言葉である。Lau)は古いことを示し、巴刹Pa Sat)は、ペルシア語からの借用語でマレー語ではPasarと綴る、バザールを指す言葉の閩南語表記である。テロック・アヤ・マーケットは、シンガポールで最も古い市場の1つであり、エレンボロー・ストリート沿いにエレンボローマーケットと呼ばれる新たな市場が建設され、地元の人々から「新しい市場」(: Sin Pa Satマレー語: Pasar Baru)として有名となったことから、対照的に「古い市場」を指すラオパサという名称が定着した[2][3]

歴史

1847年、ジョン・ターンブル・トムソンによる古いテロック・アヤ・マーケットの絵画

シンガポールで最初の市場となる魚市場は、マーケットストリートの北端に近い、シンガポール川の南岸に位置していた。1822年11月4日にトーマス・ラッフルズ都市開発計画により、魚市場のテロック・アヤへの移転が指示された[4]

1823年、警察署長フランシス・ジェームズ・バーナードの監督の下、テロック・アヤ・ベイのマーケットストリートの南端において、テロック・アヤ・マーケットの建設が始まった。市場は木材とニッパヤシで建設され、1824年にオープンした[4]

市場は、一部が海へ突き出した桟橋を持つ構造で、廃棄物を海へ投機したり、水産物をボートから直接積み降ろしすることが可能な構造となっていた[5]。しかし、完成した建物は、基礎に使用された杭の強度不足が判明し、交換を行う必要が生じるなどの構造的な欠陥を抱えていた。ニッパヤシで作られた屋根も、火災の法規制により、後に瓦に置き換えられた。ところが、今度は瓦の重量を支え切れないため、建物が崩壊の危機に瀕し、1827年には法規制を無視して、ニッパヤシに戻さなければならなかった。こうして改修を重ねてはいたものの、1830年には「非常に危険な状態」にあると判断され、使用が禁止された[6]

1836年、建築家ジョージ・ドラムグール・コールマンにより、同じ場所に新たな市場の建設が開始され、1838年に完成した[4]。エントランスに装飾されたを備えた、八角形の建物で、旧市場の2倍の面積を持ち、建物の内部と外部にドラムと呼ばれる円筒状の部分が構成され、外側のドラムのコロネードは市場を日差しや雨から守りつつ、光を取り込む構造であった[7]。しかし、新たな建物もモンスーンや海に晒される環境により、建設直後より安全性が危惧され、以前の建物と同様に修復が必要となった[4]。1841年、建築請負業者デニス・マクスウィニーの監督の下、建物の片側を拡張、細長いオープンシェッドが増築され、新たな魚市場が建設された。その後も増築を重ね、八角形の建物を構成する2つの壁から、ほぼ平行に伸びる形となった。この構造は、建物の東に面する海からのうねりや波しぶきから、市場の主要な建物を守る防波堤として機能し[4]、長年にわたる安全性への懸念にも関わらず[7]、都市開発により取り壊されるまでの40年余り、市場として機能し続けた[8]

移転

テロック・アヤ・マーケットの時計塔

1879年、現在のロビンソン・ロード周辺の土地開発のため、テロック・アヤ・ベイの埋め立てが始まり、工事への支障があったため市場は移転を余儀なくされた[9][10]。1890年に現在の場所が割り当てられ、新たな市場の建設が進められた。1894年3月1日、市場の完成が認められ、マーケットストリートが新しい市場まで延伸された[4]。新しい建物は、都市技術者であるジェームズ・マクリッチによって設計され、建築面積は55,000平方フィートに及んだ。建物のデザインは、以前のイメージを残すため、コールマンが設計した八角形のデザインを取り入れ、建物を支える柱には、1868年に建設されたカベナ橋でも使用した、グラスゴーのP&Wマクレラン社製の鋳鉄が採用された[4][10]。また、屋根の中心には時計塔が建設され、その直下に当たる市場の中心部分には鋳鉄製の噴水が設置された。

ラッフルズ・ホテルのパームガーデン中央にある鋳鉄製の噴水。元々はテロック・アヤ・マーケットの中心に設置されていた。

この噴水は、1902年にオーチャード・ロード・マーケットの近くへ移設され[11]、その後、1930年にカトンのグランドホテルに移され[12]、解体された後、公の場から姿を消したものの、1989年にラッフルズ・ホテルの修繕担当者が発見、復元し、ラッフルズ・ホテルのパームガーデンの象徴となっている[11][13]

ホーカーセンター

1970年代初頭には、テロック・アヤ・マーケットの周辺は、ラッフルズ・プレイスをはじめとする、シンガポールの主要な商業、金融地域が形成され、ウェットマーケットには適さない地域だと見なされるようになり[注 1]、1972年にホーカーセンターへと用途が転換されることとなった[5]。また、翌年の1973年6月28日、テロック・アヤ・マーケットの建造物は、その歴史的、建築的な価値から国定記念物として公示された[15]

1986年、マス・ラピット・ドランジットのトンネル工事のため、一時的に解体され[16]、再建後の1989年にフェスティバル・マーケットとして再開するとともに、正式名称を「ラオパサ」へと変更した[11]

ギャラリー

脚注

注釈

  1. ウェットマーケットは、溶けた氷や洗い流す水で濡れた市場の床に由来し、主に東南アジアの生鮮食料品市場を指す用語である[14]

出典

  1. Victor R Savage, Brenda S A Yeoh (2003) (英語). Toponymics - A Study of Singapore Street Names. Eastern Universities Press. pp. 67, 378. ISBN 981-210-205-1. https://books.google.com/books?id=DTOJAAAAQBAJ&pg=PA378
  2. Victor R Savage, Brenda S A Yeoh (2003) (英語). Toponymics - A Study of Singapore Street Names. Eastern Universities Press. pp. 112–113. ISBN 981-210-205-1. https://books.google.com/books?id=DTOJAAAAQBAJ&pg=PA113&lpg=PA113
  3. Wan Meng Hao (英語). Heritage Places of Singapore. Cavendish Square Publishing. p. 26. ISBN 9789814312950. https://books.google.com/books?id=3taIAAAAQBAJ&pg=PA26&lpg=PA26
  4. Kip Lin Lee (1983) (英語). Telok Ayer market: a historical account of the market from the founding of the settlement of Singapore to the present time. Archives & Oral History Dept., Singapore. ISBN 9971990806
  5. (英語) Singapore's 100 Historic Places. Archipelago Press. (2002). pp. 44–45. ISBN 981-4068-23-3
  6. Gretchen Liu (27 April 2001) (英語). Singapore: A Pictorial History, 1819-2000. Routledge. pp. 48–49. ISBN 978-0700715848. https://books.google.com/books?id=a0iCi4vkzesC&pg=PA48&lpg=PA48
  7. Jane Beamish; Jane Ferguson (1 December 1985) (英語). A History of Singapore Architecture: The Making of a City. Graham Brash (Pte.) Ltd.. pp. 44–45. ISBN 978-9971947972. https://books.google.com/books/about/A_History_of_Singapore_Architecture.html?id=9QpQAAAAMAAJ&redir_esc=y
  8. Preservation of Monuments Board: "Former Telok Ayer Market (now Lau Pa Sat)" (英語). Preservation of Monuments Board. 2012年5月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年11月15日閲覧。
  9. Robinson Road (英語). Singapore Infopedia. National Library Board. 2021年11月16日閲覧。
  10. Wan Meng Hao (英語). Heritage Places of Singapore. Cavendish Square Publishing. p. 24. ISBN 9789814312950. https://books.google.com/books?id=3taIAAAAQBAJ&pg=PA24&lpg=PA24
  11. Former Telok Ayer Market (now known as Lau Pa Sat) (英語). Roots. National Heritage Board. 2019年7月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年11月16日閲覧。
  12. Facilities (英語). Raffles Hotel. 2017年4月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年11月16日閲覧。
  13. Singapore’s Iconic Fountains of Dreams (英語). Remember Singapore (2014年10月26日). 2021年11月16日閲覧。
  14. Tan, Alvin (2013) (英語). Wet Markets. Community Heritage Series. II. Singapore: National Heritage Board. p. 3. オリジナルの22 February 2020時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20200222134035/https://www.nhb.gov.sg/%7E/media/nhb/files/resources/publications/ebooks/nhb_ebook_wet_markets.pdf 2020年4月10日閲覧。
  15. Victor R Savage; Brenda Yeoh (2013) (英語). Singapore Street Names: A Study of Toponymics. Marshall Cavendish International Asia Pte Ltd. p. 379. ISBN 9789814484749. https://books.google.co.jp/books?id=DTOJAAAAQBAJ&pg=PA379&lpg=PA379&dq=Telok+Ayer+market+gazetted&source=bl&ots=yX9uzrPfsx&sig=ACfU3U0cdRfjUCK3hq_w5T0h75VQyLgXZQ&hl=ja&sa=X&ved=2ahUKEwj31reCrJ70AhVisVYBHZ6PBwEQ6AF6BAgTEAM#v=onepage&q=Telok%20Ayer%20market%20gazetted&f=false
  16. Khew, Carolyn (2016年12月22日). “Lau Pa Sat: Old market that was rebuilt into a food paradise” (英語). The Strait Times. http://www.straitstimes.com/singapore/old-market-that-was-rebuilt-into-a-food-paradise
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