ミヤマイラクサ

ミヤマイラクサ(深山刺草[4][5]・深山苛草[6]学名: Laportea cuspidata )は、イラクサ科ムカゴイラクサ属多年草[3][7][8]。春の山菜としても知られ、俗にアイコ、イラ、エラ、アエコ、イラナ、アエダケともよばれる。中国名は、艾麻[1]

ミヤマイラクサ
福島県会津地方 2013年7月
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : バラ類 Rrosids
階級なし : マメ類 Fabiids
: バラ目 Rosales
: イラクサ科 Urticaceae
: ムカゴイラクサ属 Laportea
: ミヤマイラクサ L. cuspidata
学名
Laportea cuspidata (Wedd.) Friis (1981)[1]
シノニム
和名
ミヤマイラクサ(深山刺草)[3]

名称

和名にある「イラクサ」は「苛草」の意味といわれる[9]。戸門 (2007) は、イラクサのイラは、地方でトゲを意味する古い呼び名「イララ」の意味だろうとしている[10]

別名では、アイ[10][11]、アイコ[4][5][10]、アイタケ[5][11]、アエコ[12]、アエダケ[12]、イタイタクサ[11]、イラ[6]、エラ[5][10]、イラクサ[5]、イラナ[12]、エゴキ[5]、カイグサ[11]などとよばれている。長野県群馬県福島県などで、山菜名で「イラ」または「エラ」とよばれている[9]。ミヤマイラクサのトゲに刺されると、チクチクして痛くてかゆいため、福島県昭和村の山村ではイライラするからイラと言うのだという[10]。東北地方で親しまれている地方名の「アイコ」はミヤマイラクサのことで[13]、ふつう「愛子」と書くが、葉が萎れると暗い藍色になるので「藍子」が正しいようだといわれている[10]

分布と生育環境

日本では、北海道南部、本州九州の福岡県(四国を除く)に分布し、山地、亜高山の沢沿いや湿った林内、岩礫地に生育する[3][7][8]。国外では、朝鮮半島、中国大陸に分布する[7][8]。特に深山の暗い林内の、湿り気のある斜面に多く群生する[4]

形態・生態

は緑色で直立し、高さ50 - 120センチメートル (cm) になる[4][6]。茎、の両面、花序にも毛のようなトゲ(刺毛)が密生しており[4][13]、触れると先端が折れ込んで炎症を起こすので持続性の痛みがある[6]。葉は互生し、長い葉柄がつき、葉身は円形から丸みを帯びた広卵形で、先が尾のように伸びて、長さ15 - 20 cm、幅5 - 15 cmになる[4][13]葉縁は粗大な鋭鋸歯になり、下部のものは小さく、上部のものは大きくなり、葉の先端はやや尾状に伸びる[3][7][8]。多雪地帯では雪が消えてまもなく、茎が一斉に立ち上がり、まだ葉は小さく折りたたまれて茎に寄り添っている[6]。芽生えのときはまだ刺毛もやわらかく、刺されることはない[6]

花期は7 - 9月[5]雌雄同株。雄花序は、下方の葉腋から出て、多数分枝して長さ5 - 10 cmの円錐状になり、多数の雄花をつける。雄花は白色で小型、萼片が5個、雄蕊が5個ある。雌花序は、上方の葉腋から数本または多数立ち、分枝しないで長さ20 - 30 cmに伸びて穂状になり、多数の雌花をつける。雌花は緑色で小型、花弁状の萼片が4個、花柱が1個あり白い糸状の柱頭が伸びる。果実は、長さ約1.8ミリメートル (mm) のゆがんだ楕円形状の痩果になる[3][7][8]

利用

春の、葉が完全に展開する前のトゲがやわらかいうちに 20 - 30 cmに伸びた若芽は、山菜として利用される[4]。「イラ」、東北地方の秋田県などでは「アイコ」と呼ばれ、評価の高い山菜である。採取する時期は4 - 5月ごろで[12]、寒冷地の北海道では5 - 6月ごろとされる[4]。刺毛にはギ酸に似た成分が含まれていて、触れるとかゆみを伴った激しい痛みを感じるため、素手で触らないように刺毛を通さない手袋やナイフ等を用意するとよい[4][14][12]。ただし、刺されても1時間ほど経てば痛みやかゆみは収まる[10]

採取した若芽は葉を落として茎だけにする[11]。下の方の太いところだけ皮を剥き、上の方を向く必要はない[6]。茎の基部に固さを感じるときや、少し生長したものは、いったん湯に通すと皮が剥きやすくなり[15][11]、また皮を剥くことによってさらに歯触りがよくなる[5]。茎は茹でて水にさらすことにより毒成分はなくなり、密生しているトゲは消えて気にならなくなる[11]。茹ですぎるとシャキシャキ感がなくなるため、茹ですぎないようにする[11]。採取後は鮮度が落ちてすぐに葉が黒ずむため、黒く傷んだ部分は取り除いて軽く下茹などする[12]

食味はアクやクセがない淡泊な味わいで[5][6]、ほのかに甘味があって食べやすいと評されている[12]。若い茎を生のまま天ぷら煮物に、塩をひとつまみ入れて熱湯でゆでてから水にさらし、おひたしごまクルミからし酢味噌白和えなどの和え物、卵とじ、汁の実、バター炒めなどに利用する[4][6][5][11][12]塩漬けにすると、1年間くらいは保存できる[11]。葉はふつう捨てられるが、葉を細かく刻み、油で炒め、みりん醤油などで味付けをして煎りつけて、佃煮にする[16]。山村ではもっぱら、おひたし、汁の実、身欠きニシンとの炊き合わせなどに利用する[15]

また、茎の繊維が強靭で、昔はこれを利用し布を織った[7][8]

下位分類

  • コモチミヤマイラクサ Laportea cuspidata (Wedd.) Friis f. bulbifera (Kitam.) Fukuoka et Kurosaki - (シノニムLaportea macrostachya (Maxim.) Ohwi f. bulbifera Kitam.)

外見が似ている植物

ミヤマイラクサによく似ていて、一回り小さいイラクサ(イラクサ科、学名: Urtica thunbergiana)は、葉が向き合ってつく対生なので見分けがつく[13]。イラクサはミヤマイラクサ同様に若芽が食用にすることができる[13]

カラムシ(イラクサ科、学名: Boehmeria nivea var. concolor f. nipononivea)やアカソ(イラクサ科、学名: Boehmeria silvestrii)の葉がミヤマイラクサに似ているが、これらに刺毛はなく、食用に利用できない[13]

脚注

  1. 米倉浩司・梶田忠 (2003-). Laportea cuspidata (Wedd.) Friis ミヤマイラクサ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年4月30日閲覧。
  2. 米倉浩司・梶田忠 (2003-). Laportea macrostachya (Maxim.) Ohwi ミヤマイラクサ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年4月30日閲覧。
  3. 『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』p. 346
  4. 高橋秀男監修 2003, p. 136.
  5. 篠原準八 2007, p. 104.
  6. 吉村衞 2007, p. 54.
  7. 『日本の野生植物草本II離弁花類』p.4
  8. 『新牧野日本植物圖鑑』p.50
  9. 吉村衞 2007, p. 55.
  10. 戸門秀雄 2007, p. 64.
  11. 金田初代 2010, p. 86.
  12. 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 152.
  13. 金田初代 2010, p. 87.
  14. 戸門秀雄 2007, pp. 64–65.
  15. 戸門秀雄 2007, p. 65.
  16. 『食べられる野生植物大事典(草本・木本・シダ)』p.141

参考文献

  • 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編『かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典』成美堂出版、2012年7月10日、152頁。ISBN 978-4-415-30997-2。
  • 金田初代、金田洋一郎(写真)『ひと目でわかる! おいしい「山菜・野草」の見分け方・食べ方』PHP研究所、2010年9月24日、86 - 87頁。ISBN 978-4-569-79145-6。
  • 佐竹義輔大井次三郎北村四郎ほか編『日本の野生植物 草本II離弁花類』平凡社、1982年。
  • 篠原準八『食べごろ 摘み草図鑑:採取時期・採取部位・調理方法がわかる』講談社、2008年10月8日、104頁。ISBN 978-4-06-214355-4。
  • 高橋秀男監修 田中つとむ・松原渓著『日本の山菜』学習研究社〈フィールドベスト図鑑13〉、2003年4月1日、136頁。ISBN 4-05-401881-5。
  • 戸門秀雄『山菜・木の実 おいしい50選』恒文社、2007年4月16日、64 - 65頁。ISBN 978-4-7704-1125-9。
  • 橋本郁三著『食べられる野生植物大事典(草本・木本・シダ)』、2007年、柏書房
  • 牧野富太郎原著、大橋広好邑田仁岩槻邦男編『新牧野日本植物圖鑑』、2008年、北隆館
  • 門田裕一監修、永田芳男写真、畔上能力編『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』、2013年、山と溪谷社
  • 吉村衞『おいしく食べる山野草』主婦と生活社、2007年4月23日、54 - 55頁。ISBN 978-4-391-13415-5。

関連項目

This article is issued from Wikipedia. The text is licensed under Creative Commons - Attribution - Sharealike. Additional terms may apply for the media files.