バフォメット
歴史
バフォメットの起源は判明していないが、11世紀末から12世紀のラテン語書簡などに現れており、これが最古のものとなっている。当初は(キリスト教徒が想像する)異教の神のことを指し、十字軍の記録にもモスクをバフォメットの神殿とする記述がある。後の1300年代初頭にテンプル騎士団に対する異端審問の際にバフォメットが大きく取り上げられることになった。テンプル騎士団は、1307年にフィリップ4世により偶像崇拝の糾弾を受けた際、このバフォメットの偶像を奉っていたとされている[3]。
19世紀にイギリスでテンプル騎士団が本当に異端であったかどうかに関する論争が起きた際、バフォメットが改めて注目を浴びた[4]。19世紀以後はオカルティズムやサタニズムの世界でバフォメットは有名となるが、これにはエリファス・レヴィが描いた黒山羊の頭をもつバフォメットの絵の影響も大きい[5]。
語源
イスラム教を創始した預言者ムハンマドの古フランス語での綴り (Mohammed) のもじり、あるいは誤記と考えられているが、様々な異説もある[6]。
ヒュー・ショーンフェルドは、BAPHOMET は SOPHIA(英知もしくは英知の女神ソピアー)のアトバシュ(Atbash、ヘブライ文字の換字式暗号)だという説を唱えた[2]。
同一視
ルシファー、ベルゼブブ、アスタロトに仕える上級六大悪魔の一人である大将のサタナキアと同一視する意見もある[7]。
「サバトの牡山羊」レオナールと同一視・混同される事も多く[5]、レオナールはただサバトを淫行の舞台として利用する矮小化された悪魔として描かれることが多い[8]。
姿
両性具有で黒山羊の頭と黒い翼をもつ姿で知られるようになり、魔女たちの崇拝対象となった。ただし必ずしもこの姿に限定されている訳ではない[4]。
19世紀にフランスの魔術師エリファス・レヴィが描いた絵「メンデスのバフォメット」が最も有名[9]。
「メンデスのバフォメット」の腕には、上がっている方(右腕)に「Solve」(溶解させる)、下がっている方(左腕)に「Coagula」(凝固させる)、と記されている[10]。これは中世錬金術のラテン語「Solve et Coagula」が元であり、「溶かして(分解して)固めよ」「分析して統合せよ」「解体して統合せよ」といった意味となり[11]、卑金属から貴金属を作り出す狭義の錬金術だけでなく、人間の知のあり方や、世界の変革という広義の錬金術にまで、幅広く応用される言葉である[12]。
脚注
- 秦野啓 & 添田一平 2005, p. 275.
- 佐藤義隆 2007, p. 15.
- 新関芳生 2012, p. 71.
- 山北篤 & シブヤユウジ 2010, p. 285.
- かみゆ歴史編集部 2021, p. 71.
- 大川周明 1942, p. 3.
- 荒木正純 2007, p. 190.
- ヘイズ中村 2014, p. 174.
- 草野巧 2010, p. 196.
- 草野巧 2010, p. 198.
- 杉嶋洋子 2016, p. 25.
- 吉田ルナ 2019, p. 36.
- 荒木正純 2007, p. 161.
- 川口妙子 & シブヤユウジ 2016, p. 129.
参考文献
- 大川周明『回教概論』慶応書房、1942年、3頁。doi:10.11501/1040058。ISBN 9784480091673。 NCID BN0742116X。OCLC 676322907。国立国会図書館書誌ID:000000917164 。2023年5月7日閲覧。
- 秦野啓、添田一平『秘密結社 (Truth in fantasy ; 68)』新紀元社、2005年、275-276頁。ISBN 9784775302699。 NCID BA72112138。OCLC 60789703。国立国会図書館書誌ID:000007719121 。2023年5月7日閲覧。
- 佐藤義隆「暗号の世界」『岐阜女子大学紀要』第36号、岐阜女子大学、2007年、13-24頁、ISSN 02868644、NAID 110006195408、OCLC 5172392815、国立国会図書館書誌ID:8821301、2023年5月7日閲覧。
- 荒木正純『知っておきたい天使・聖獣と悪魔・魔獣』西東社、2007年、160-161頁。ISBN 9784791614899。 NCID BA83079001。OCLC 675268921。全国書誌番号:21254518 。2023年5月7日閲覧。
- 草野巧『図解悪魔学 (F-files ; no.027)』新紀元社、2010年、197-198頁。ISBN 9784775308196。 NCID BB03373377。OCLC 703496570。国立国会図書館書誌ID:000010910553 。2023年5月7日閲覧。
- 山北篤、シブヤユウジ『幻想生物 : 西洋編 (Truth in fantasy ; 82)』新紀元社、2010年、285頁。ISBN 9784775308233。 NCID BB03767554。OCLC 743336834。国立国会図書館書誌ID:000011007170 。2023年5月7日閲覧。
- 新関芳生「予言する真鍮の頭部 : ウィリアム・ダグラス・オコナー : 「真鍮のアンドロイド」を読む」『人文論究』第62巻第2号、関西学院大学人文学会、2012年、67-86頁、hdl:10236/11002、ISSN 02866773、NAID 120005302253、OCLC 5178111674、国立国会図書館書誌ID:023997539、2023年5月7日閲覧。
- ヘイズ中村『天使と悪魔の事典 = The Encyclopedia of Angels & Demons : ヴィジュアル版 : 神の御使いと闇の反逆者のすべてがわかる!!』学研プラス、2014年、172-173頁。ASIN 4054060188。ISBN 9784059144991。OCLC 880834585。国立国会図書館書誌ID:025452652 。2023年5月7日閲覧。
- 杉嶋洋子『心理面接におけることばと非言語表現の役割と調和について』 32517甲第40号、聖徳大学大学院、2016年、1-65頁。 NAID 500001363474。NDLJP:10348717 。2023年5月7日閲覧。
- 川口妙子、シブヤユウジ『幻想由来辞典』新紀元社、2016年、129,251頁。ISBN 9784775314531。 NCID BB22734891。OCLC 981710381。国立国会図書館書誌ID:027728339 。2023年5月7日閲覧。
- 吉田ルナ『神秘のタロット : もっと本格的にカードを読み解く! 新版 (コツがわかる本)』メイツ出版、2019年、36頁。ISBN 9784780421354。 NCID BB28663016。OCLC 1089677086。国立国会図書館書誌ID:029449722 。2023年5月7日閲覧。
- かみゆ歴史編集部『ゼロからわかる悪魔事典 (文庫ぎんが堂 ; か1-12)』イースト・プレス、2021年、69-71頁。ISBN 9784781672014。 NCID BC06593617。OCLC 1249996003。国立国会図書館書誌ID:031355045 。2023年5月7日閲覧。