アオウキクサ

アオウキクサ (学名: Lemna aoukikusa)[注 1]ウキクサ亜科アオウキクサ属に属する水草の1種であり、など淡水域の水面に生育する。特に水田では極めてふつうに見られる。葉状体は長さ3–6ミリメートル (mm)、1本のをもち、根の先端は鋭頭、根の基部の鞘には翼がある。

アオウキクサ
アオウキクサ
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 単子葉類 Monocots
: オモダカ目 Alismatales
: サトイモ科 Araceae
亜科 : ウキクサ亜科 Lemnoideae
: アオウキクサ属 Lemna
: アオウキクサ L. aoukikusa
学名
Lemna aoukikusa T.Beppu & Murata, 1985[1][2][注 1]
シノニム
  • Lemna paucicostata auct. non Hegelm. ex Engelm., 1868
  • Lemna perpusilla auct. non Torr., 1843

日本に分布するアオウキクサを、狭義のアオウキクサとナンゴクアオウキクサ (Lemna aequinoctialis) の2種に分け、さらに前者の中に亜種としてホクリクアオウキクサ (Lemna aoukikusa ssp. hokurikuensis) を認めることが提唱されている (→#分類)。

特徴

水面に生育する浮遊植物であり、葉状体 (フロンド[5]; の区別がない) とからなる。葉状体は倒卵形から楕円形、基部は左右不相称、大きさは 3–6 x 2–4 mm、比較的薄く、3脈があるがときに不明瞭[6][7][8]。葉状体は表裏とも黄緑色から緑色であり、紫色を帯びることはない[6][7][8]。葉状体の裏面からは1本のが生じており、根の長さは〜 7 cm、先端は鋭頭根鞘基部に翼がある[1][6][7][8]。葉状体の基部側面から新たな葉状体を形成し、出芽状に増殖する[1]。単独または3–5個の葉状体がつながった群体を形成している[1][7]

花期は7–9月、葉状体側面に盛んにをつける[6][8]。花は2個の雄しべと1個の雌しべからなる[1][6][8] (2個の雄花と1個の雌花ともされる[7])。雄しべと雌しべは同時に成熟し、自家受粉によって高確率で結実する[1][6][8]種子は長楕円形、0.6–0.7 x 0.4–0.6 mm、18–26本の縦肋、44–82本の横肋がある[6][7]。秋になると葉状体は枯死し、種子で越冬、5–6月頃に種子から発芽した幼体が見られる[1][6][8]。アオウキクサは、水田耕作に適応してこのような一年草の生活史をとるようになったと考えられている[8]。ただし亜種のホクリクアオウキクサでは、葉状体がデンプンを蓄積して水底に沈んで越冬する (ウキクサ類の一部に見られる休眠芽に似るが根をもつ)[1][6]。またホクリクアオウキクサは根の先端がらせん状にねじれることが多いが、夏の状態ではアオウキクサと区別するのは困難[8]染色体数は 2n = 約70 (亜種ホクリクアオウキクサは 2n = 40)[1]

分布

北海道から九州に分布しており、このうち北陸産の一部は亜種のホクリクアオウキクサとされる[1][6][7]。海外ではふつう独立種として扱われないため[3][4]、日本以外での分布は不明。

水田池沼、溝などの淡水域の水面に生育し、特に水田では極めてふつうにみられる[7][9][10]

分類

かつて日本産のアオウキクサは単一種と考えられ、Lemna paucicostata (2020年現在ではふつう Lemna aequinoctialisシノニムとされる[3]) の学名が充てられていた[1]。しかし形態や生態、生理的特徴、葉緑体DNARFLP (制限酵素断片長多型) などに基づき、日本産のアオウキクサとされていたものを以下の2種1亜種 (狭義のアオウキクサ、ホクリクアオウキクサ、ナンゴクアオウキクサ) に細分することが提唱されている[1]。ただし形態形質については環境条件での変異も大きく、正確には一定条件下で培養した個体の観察が必要となる[1]

ナンゴクアオウキクサ (Lemna aequinoctialis)
  • アオウキクサ (Lemna aoukikusa T.Beppu & Murata, 1985 subsp. aoukikusa)
    詳細については上記参照。葉状体は薄く、開花個体では厚さ 0.12–0.56 mm[1][7]。短日処理によって娘葉状体が小型化する[1]。花期では、群体を構成する葉状体数はふつう3–5個 (条件によっては–20個)。同花受粉をし、結実率が高い[6]果実は、葉状体の軸に対して直角につく。果実の長径は0.58–0.74 mm。種子表面の横肋数は44–82本[1]。冬には消失し、種子で越冬する。染色体数は 2n = 約70[1]北海道から九州に分布する。
  • ホクリクアオウキクサ (Lemna aoukikusa ssp. hokurikuensis T.Beppu & Murata, 1985)
    アオウキクサに似るが、がらせん状にねじれていることが多い[1][7][8]。花期では、群体を構成する葉状体数はふつう5–20個[1][7]。冬期にはデンプンを蓄積して水底に沈み越冬する (休眠芽に似るが根をもつ)[1][6][7]染色体数は 2n = 40[1]北陸地方に分布する (北陸地方には基亜種であるアオウキクサも分布する)[1]
  • ナンゴクアオウキクサ (Lemna aequinoctialis Welw., 1859)
    アオウキクサに似るが、葉状体の不相称の度合いが弱く、やや厚い (開花個体で 0.30–0.67 mm)[1][6][7][8]。短日処理によっても娘葉状体の大きさは変わらない[1]コウキクサに似るが、根鞘基部に翼があり根端が鋭頭である点で異なる[8]。花期では、群体を構成する葉状体数はふつう3–5個[1]。雌性先熟であり、自家不和合性を示す[1][8]果実は、葉状体の軸とほぼ平行につく。休眠芽 (越冬芽、殖芽) を形成せず、葉状体の状態で越冬する[1][6]。果実の長径は0.44–0.60 mm。種子表面の横肋数は33–50本[1]染色体数は 2n = 20, 40, 50, 60, 80 (日本産のものは40が報告されている)[1]。世界中の熱帯から亜熱帯域に広く分布し (タイプ産地はアフリカ[1])、日本では静岡県以西から沖縄まで報告されている[6][7][8]

一方で、これらを全て同一種とし、Lemna aequinoctialis の名を充てている例も多い[3][4]。しかし北米カリフォルニア産の Lemna aequinoctialis と日本のアオウキクサ (富山県産) を交配した結果、不成功または雑種不稔であったとされる[1]

脚注

注釈

  1. アオウキクサには Lemna aequinoctialis の名が充てられることもある[3][4] (この場合アオウキクサとナンゴクアオウキクサを分けない; 本文参照)。

出典

  1. 別府敏夫, 柳瀬大輔, 野渕正 & 村田源 (1985). “日本産アオウキクサ類の再検討”. 植物分類・地理 36 (1-3): 45-58.
  2. 米倉浩司・梶田忠 (2007–). アオウキクサ”. 「植物和名ー学名インデックスYList」(YList). 2021年6月20日閲覧。
  3. Lemna aequinoctialis”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2021年7月4日閲覧。
  4. GBIF Secretariat (2021年). Lemna aequinoctialis”. GBIF Backbone Taxonomy. 2021年10月26日閲覧。
  5. Lemnoideae ウキクサ亜科”. 植物発生進化学:読む植物図鑑. 基礎生物学研究所生物進化研究部門 (2015年10月9日). 2021年6月20日閲覧。
  6. 角野康郎 (1994). “アオウキクサ属”. 日本水草図鑑. 文一総合出版. pp. 72–73. ISBN 978-4829930342
  7. 邑田仁 (2015). “アオウキクサ属”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. pp. 107–108. ISBN 978-4582535310
  8. 角野康郎 (2014). “アオウキクサ、ナンゴクアオウキクサ”. 日本の水草. 文一総合出版. pp. 58–59. ISBN 978-4829984017
  9. 大滝末男 & 石戸忠 (1980). 日本水生植物図鑑. 北隆館. pp. 133. ISBN 978-4832608283
  10. 浜島繁隆・須賀瑛文 (2005). “アオウキクサ”. ため池と水田の生き物図鑑 植物編. トンボ出版. p. 105. ISBN 978-4887161504

外部リンク

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