ナブテックス

ナブテックス英語:NAVTEX; NAVigational TEleX)は、船舶で使用される電信装置であり、主に気象情報を受信する。海上における遭難及び安全に関する世界的な制度(GMDSS)の中で定められた通信機器となり[1]、GMDSSの中で船舶が航行する海域をA1からA4までの4つの海域に分けており、その航行する海域に応じて必要な無線設備の設置を義務付けている[2]。概ね沿岸から200海里(約370km)から400海里(約740km)での使用を前提としており[3]、航行に関する安全、気象、救助など各種リアルタイム情報が自動的に提供されている[3]

ナブテックス受信機
ナブテックス受信メッセージ(英文)

概要

アドリア海に浮かぶクロアチアフヴァル島に設置されたナブテックス送信所

中波帯(MF)で送信される航行に関する気象状態の予測や警告及び航行警報や海上安全情報(MSI)を受信し、内蔵されたプリンタにより自動で印字が行われることによって文字情報として受け取ることができる。「518kHz」で送信される「国際ナブテックス[4]」と「490kHz」で送信される「ローカルナブテックス」に大別され[3][4][5]、国際ナブテックスは使用言語に「英語[4]」であることが指定されており、ローカルナブテックスには送信される地域毎の言語が採用されている。また、490kHzでの受信が難しい場合「4209.5kHz」での受信を行うことが決められている[3]。世界各国では490kHzで母国語によるメッセージが送信されており、中国の放送局では、中国語のナブテックスメッセージを周波数「486kHz」で送信を行っており[6]日本では「424kHz」による日本語(和文)ナブテックスの送信が行われている[7]

ナブテックスは300海里[4](約550km)以内の海上で各種情報を受信するため低コストでシンプルかつ自動化された手段を提供するため開発が行われた[8]。この各種情報を受信するための受信料などは一切不要である。日本では海上保安庁が送信を行っており、アメリカではアメリカ海軍並びにアメリカ沿岸警備隊が、イタリアではイタリア気象局などが送信を行っている。

ナブテックスは国際海事機関(IMO)国際水路機関(IHO)で取り決められたGMDSSと同様、世界航行警報業務(WWNWS)の中で定められた主要機器となり、海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS条約)によって1993年8月1日以降、総トン数300トンを超える船舶への搭載が義務付けられている[9]

ナブテックス圏外を航行する船舶はインマルサット衛星を介し情報が提供され、EGC(Enhanced Group Calling)と呼ばれる一斉配信サービスが行われている。また、該当海域を航行する船舶には専用となるEGC受信機の搭載が義務付けられている[10]

開発の経緯

ハンディ式受信機(ディスプレイ)

ナブテックスが導入される以前は、沿岸局から設定された時刻で定期的に音声での送信が行われており、情報を書き写すのに手間取り聞き逃すことが頻発していたため、気象や警告に関する情報を自動で受信し書面として確認できる技術が開発された。1977年スウェーデンで機器を搭載した試験が開始されており、1979年バルト海において初となる送信局「NAVAREA1」の運用が開始されている[9]

ナブテックスは情報過多とそれに伴うロール紙の消費を抑えるため特定のメッセージに関し受信拒否設定も可能となっているが、A、B、D、Lに関する情報は航行上重要となるため拒否設定ができない仕組みとなっており[3]、「00」から始まる遭難に関する情報は強制的に印字が行われ、これらの情報が入電した場合、アラーム音での通知も行えるよう設計されている[3]。また、近年ではプリンタを必要としないディスプレイ式も登場している[11]

送信局

世界21に区分けされたNAVAREA

国際的に定義された海上警戒区域となる世界21のエリアに分類され、各送信局毎に決められたAからZまでの符号が付与されており、エリア内の各送信局は電波干渉を避けるため10分の時間枠で4時間周期と決められた間隔での送信を行っている[3][12]。電波の最大到達距離は600海里(約1,100 km)となっており[5][13]ポルトガルアゾレス諸島ファイアル島オルタに設置されたナブテックス局は640海里まで届く出力設定となっており、気象状態によっては更に遠距離からの受信も可能となる。

ナブテックスを操作することによって自動と手動で送信局を選択することができ、自動選択では範囲内の送信局が自動的に選択され、手動によって他局の選択も可能である。位置情報がGPSなどのナビゲーション機器と連動している場合はナブテックスがその位置情報を基に適切な局を自動的に選択する仕組みとなっている[3]

日本のナブテックス送信局

日本では5局が稼働中であり以下の送信所から航行警報を含む各種情報提供が行われている[7]。南から北へ向かい順次放送が行われ、424kHzで送信される和文メッセージは15分間隔の4時間周期となっている[14]

局名(送信所)識別符号使用電波の型式周波数424kHz 和文送信時刻[7]JST518kHz 英文送信時刻[7](JST)有効範囲
那覇喜屋武GF1B 424kHz / 518kHz01:00, 05:00, 09:00, 13:00, 17:00, 21:0002:00, 06:00, 10:00, 14:00, 18:00, 22:00400海里
門司延行第2HF1B 424kHz / 518kHz01:17, 05:17, 09:17, 13:17, 17:17, 21:1702:10, 06:10, 10:10, 14:10, 18:10, 22:10400海里
横浜富津第2IF1B 424kHz / 518kHz01:34, 05:34, 09:34, 13:34, 17:34, 21:3402:20, 06:20, 10:20, 14:20, 18:20, 22:20400海里
小樽積丹第2JF1B 424kHz / 518kHz01:51, 05:51, 09:51, 13:51, 17:51, 21:5102:30, 06:30, 10:30, 14:30, 18:30, 22:30400海里
釧路十町瀬KF1B 424kHz / 518kHz02:08, 06:08, 10:08, 14:08, 18:08, 22:0802:40, 06:40, 10:40, 14:40, 18:40, 22:40400海里

メッセージフォーマット

メッセージの種別[3]

メッセージ意味
Aナビゲーション情報
B気象警報
C海氷に関する情報
D捜索救難に関する情報
E気象予報
F水先案内人に関する情報
G自動船舶識別装置(AIS)メッセージ(以前のデッカに関する警報)
Hロランに関する警報
I使用せず(以前のオメガに関する警報)
J衛星ナビゲーションに関する警報(例:GPSGLONASS
K他の電子ナビゲーションに関する警報
Lナビゲーションに関する警報
M–U使用せず
V–Y特定の目的で使用される
Zメッセージ無し

メッセージの構成[3]

報告解説
1
ZCZC PA09
全てのナブテックスメッセージは「ZCZC」の符号から開始される。

次に識別子が付与される(PA09

  • Pは送信局の識別符号となり、Aはナビゲーションに関する情報を示す。
  • 番号はシリアルナンバーとなり連番で表示され、01から始まり99まで使用され「00」はDistress(遭難)を示す符号となり強制的に印字が行われる。
2
NETHERLANDS COASTGUARD
オランダ沿岸警備隊)発信元が記載されている。
3
NAVIGATIONAL WARNING NR. 9 172128 UTC AUG
NAVIGATIONAL WARNING NR. 9)ナビゲーションに関する警報。ナンバー9
172128 UTC AUGタイムスタンプUTC表示で行われる。17日21時28分 UTC 8月
この日付けはメッセージが製作された日時を表している。
4
PLATFORM L10-G  53-29.4N 004-11.7E
UNLIT

プラットフォーム)場所の座標と障害の種類や状態が示される。(L10-G灯台)(座標:53-29.4N北緯004-11.7E東経))
UNLIT)不点灯

5
NNNN
送信終了の符号「NNNN」が付き終了する。

気象通報式

報告解説
ZCZC JE92 Error Rate= 0,0 %
170500 UTC MAY
SWEDISH WEATHER SHIPPING
WEATHER SUMMARY
FROM HIGH IN GREENLAND RIDGE OF HIGH SOUTHEASTWARDS
TO SWEDEN, WEAK AREA OF LOW OVER WEST_EUROPE: LOW
NORTHWEST OF LOFOTEN ISLANDS LATER TODAY DEEPENING.
GALEWARNINGS NIL
FORECAST VALID 24 HOURS
SKAGERRAK; KATTEGAT; THE SOUND:
AROUND EAST 3-7 M/S SOMEWHAT INCREASING; IN WESTERN
PART OF SKAGERRAK DURING DAY AROUND 10.
MAINLY GOOD VIS, IN SKAGERRAK AT TIMES SOME RAIN.
THE BELTS; WESTERN BALTIC: Belt,
EASTERLY 7-11. GOOD VIS.
NNNN
開始符号/送信局(J)/情報の種類(E)/シリアル番号(92)/送信エラー率
タイムスタンプ(17日05時00分 UTC 5月)
スウェーデンの気象予報
気象概要
スウェーデン南東側からグリーンランド沿岸まで波高し
西ヨーロッパは弱く
ロフテン島北西地域も弱く今日遅くから高くなる見込み
暴風雨警報 なし
予報 24時間有効
スケアガレック、カテガット、サウンド
東からの風 3-7 M/S 幾分スケアガレック西側で10時頃増す
視程良し。時々降水の可能性あり
ベルト、西バルト海帯にかけ
東寄りの風 7時から11時 視程良好
NNNN(送信終了)

脚注

  1. 海上保安庁が行う通信”. 海上保安庁 (2015年6月). 2021年3月3日閲覧。
  2. 海上における遭難及び安全の世界的制度(GMDSS)”. 総務省. 2021年3月1日閲覧。
  3. NAVTEX On Ships: Working, Types Of Messages And Advantages”. Marine Insight (2021年1月17日). 2021年3月2日閲覧。
  4. ナブテックス受信機”. 日本財団図書館. 2021年3月1日閲覧。
  5. Revised NAVTEX Manual (PDF). IMO (2011年5月23日). 2021年3月1日閲覧。
  6. Master Plan of Shore-based Facilities for the Global Marine Distress and Safety System (GMDSS Master Plan) (PDF). IMO (2018年7月30日). 2019年8月31日閲覧。
  7. 海上安全情報(ナブテックス)送信海岸局 (PDF). 海上保安庁 (2020年12月31日). 2021年3月2日閲覧。
  8. 20 Navtex Question (and answers) to Make Naxtex Your Friend For Life”. MySeaTime.com (2016年8月11日). 2021年3月2日閲覧。
  9. Focus on IMO - Shipping Emergencies - Search and Rescue and the GMDSS (PDF). IMO (1999年3月). 2021年3月1日閲覧。
  10. 鈴木治. 第4章 ナブテックス,EGC受信機 (PDF). RFワールド. 2022年5月24日閲覧。
  11. “[https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/denpa_kanri/pdf/kaisaishiryo_090413.pdf 無線設備規則及び特定無線設備の技術基準適合証明等 に関する規則の各一部を改正する省令案について 平成21年2月4日 諮問第7号]” (PDF). 総務省 (2009年4月8日). 2021年3月1日閲覧。
  12. 海上予報警報業務の概要と改善について (PDF). 海上保安庁. 2021年3月3日閲覧。
  13. Implementation of the NAVTEX System as a Component of the World-wide Navigational Warning Service (PDF). IMO (1987年11月19日). 2021年3月1日閲覧。
  14. 楽しいエレクトロニクス工作 第74回 NAVTEX”. FB News (2019年7月). 2021年3月3日閲覧。

関連項目

外部リンク

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