スラー酒

スラー酒(スラーしゅ、Surā)は、インド神話にも登場する酩酊飲料の1種で、悪性の酔いをもたらすとされる。乳海攪拌のさいに女神スラーデーヴィースラー[1]ヴァルナ神の妃ヴァルニーと同一視される[2])が持って現れたとされるが、現実的には糖蜜米粉、蜜(マドゥ。マドゥーカ花とも)で作られた3種類があるという[1]

スラー酒はラージャスーヤ祭で重要な役割を持ち、ソーマに匹敵する効能を持つともいわれる。しかし『リグ・ヴェーダ』では飲み方を誤ると飲んだ者を悩ませるとし[1]、神話でもしばしば敵を悪酔いさせて罠に陥れる策略にスラー酒が用いられることがある。

マヌ法典』によるとスラー酒はヤクシャラークシャサピシャーチャの飲み物であり[3]、スラー酒を飲むと歯黒病にかかるという[4]。さらにスラー酒を飲むこと(スラーパーナ)はバラモン殺しや黄金の窃盗などとともに5つの大罪の1つに数えられ[5]、3カースト[6](特にバラモン)が飲むことを禁じており[3][7]、誤って飲んだ場合の贖罪の方法も規定されている[8]

インド神話によるとインドラヴリトラ殺しには多くバリエーションがあるが、その中にはインドラがスラー酒を策略に用いた話がある。すなわち最初インドラはヴリトラと協定を結んだが、アプサラスラムバーを送り込んで誘惑させ、スラー酒を飲ませようとした。バラモンであったヴリトラは、スラー酒を飲むことが禁じられていることを知っていたが、断り切れずに飲んでしまい、気を失った隙にインドラによって倒されてしまった[9]

しかしインドラがナムチと協定を結んだときは、逆にインドラがスラー酒を飲まされて、あらゆる力を喪失するが、アシュヴィン双神と女神サラスヴァティーの働きによって回復し、ナムチを殺すことができたという。

脚注

  1. インド神話伝説辞典』, p. 190.(スラー)
  2. インド神話伝説辞典』, p. 82.(ヴィシュヌ)
  3. 『マヌ法典』11章96。
  4. 『マヌ法典』11章49。
  5. 『マヌ法典』11章55。
  6. 『マヌ法典』11章94。
  7. 『マヌ法典』11章95。
  8. 『マヌ法典』11章91-99。
  9. インド神話伝説辞典』, pp. 97-98.(ヴリトラ)

参考文献

  • 菅沼晃編 編『インド神話伝説辞典』東京堂出版、1985年3月。ISBN 978-4-490-10191-1。
  • 『マヌ法典 サンスクリット原典全訳』渡瀬信之訳、中央公論社中公文庫〉、1991年12月。ISBN 978-4-12-201864-8。

関連項目

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