フィリパ・ピアス
生涯
ケンブリッジシャーのグレイト・シェルフォードという村の代々続いたキングス製粉工場で育った。ケンブリッジのパース女学校に学んだ後、ケンブリッジ大学のガートンカレッジを卒業。その後ロンドンに移り、13年間、BBCのラジオの学校教育番組の番組制作の仕事に携わっていた。
1955年に最初の著書『ハヤ号セイ川をいく』(Minnow on the Say)を刊行する。その後の彼女の作品と同様、彼女が育ってきた地方、特にリトル・シェルフォードとリトル・バーレイの村々から着想を得たもので、ケンブリッジは「キャッスルフォード」という大学町になり(ウェスト・ヨークシャーに同名の町があるが、それとは無関係)、ケム川はセイ川になっている。
ピアスの最も有名な作品『トムは真夜中の庭で』(Tom's Midnight Garden, 1958年)は、時をテーマにした小説の古典といわれるようになり、映画化され、また何度もTV化されている。「真夜中の庭」は、実際に彼女が育った製粉工場の庭をモデルにしたものである。彼女はこの作品で、カーネギー賞を受賞している。
その他の作品としては、『まぼろしの小さい犬』(A Dog So Small, 1962年)、『ペットねずみ大さわぎ』(The Battle of Bubble and Squeak, 1978年)、『サティン入江のなぞ』(The Way to Sattin Shore, 1983年)などがある。『ペットねずみ大さわぎ』は、TVのチャンネル4の教育番組 "Talk, Write and Read" で全2回の番組として放送された。
フィリパ・ピアスの夫マーティン・クリスティは、最初の子どもが誕生して間もなく亡くなった。当時、彼女は既に40代に差しかかっていた。1973年以降、彼女はグレイト・シェルフォードの彼女が育った土地に住んでいた。
フィリパ・ピアスは決して多作な作家ではなかったが、晩年まで約50年間の執筆活動を続け、会議に参加し、アンソロジーを編纂し、短編も書き続けた。2002年にはイギリスの首相の公邸ダウニング街10番地での児童文学作家のレセプションにも出席した。2004年、20年がかりの初めての長編小説『川べのちいさなモグラ紳士』(The Little Gentleman)を出版している。
2006年12月21日、ニューカッスルにある児童書センター「Seven Stories」の展示室にて脳卒中で倒れ、86歳で死去した。葬儀は無宗教で行われた。(2006年2月27日 朝日新聞)
影響
アニメ映画監督の宮崎駿は、1990年の雑誌『図書』誌上の対談の中で、自分が影響を受けた外国の児童文学作家として、フィリップ・ターナー、エリナー・ファージョンらとともに、フィリパ・ピアスの名前を挙げている。
主要作品
- 『ミノー号の冒険』(Minnow on the Say (1955)、前田三恵子訳、文研出版、文研児童読書館) 1970
- 『トムは真夜中の庭で』(Tom's Midnight Garden (1958)、高杉一郎訳、岩波書店) 1967、のち岩波少年文庫
- 『おばあさん空をとぶ』(Mrs. Cockle's Cat (1961)、まえだみえこ訳、文研出版、文研児童読書館) 1972
- のち『コクルおばあさんとねこ』(前田三恵子訳、徳間書店) 2018
- 『まぼろしの小さい犬』(A Dog So Small (1962)、猪熊葉子訳、学習研究社、少年少女学研文庫27) 1970、のち学研ベストブックス 1976、のち岩波書店 1989
- The Children of Charlecote (Brian Fairfax-Lucy との共著、1968)
- 『りす女房』(The Squirrel Wife (1971)、いのくまようこ訳、冨山房) 1982
- 『まよなかのパーティ - ピアス短編集』(What the Neighbours Did and Other Stories (1972)、猪熊葉子訳、冨山房) 1959、1967、1969、1985
- のち『フィリパ・ピアス傑作短編集』上・下(長沼登代子注釈、南雲堂) 1994
- のち『真夜中のパーティー』(猪熊葉子訳、岩波少年文庫) 2000
- 『幽霊を見た10の話』(The Shadow Cage and Other Tales of the Supernatural (1977)、高杉一郎訳、岩波書店) 1984
- 「影の檻」(The Shadow Cage)
- 「ミス・マウンテン」(Miss Mountain)
- 「あててみて」(Guess)
- 「水門で」(At the River-Gates)
- 「お父さんの屋根裏部屋」(Her Father's Attic)
- 「ジョギングの道づれ」(The Running Companion)
- 「手招きされて」(Beckoned)
- 「両手をポケットにつっこんだ小人」(The Dear Little Man with His Hands in His Pockets)
- 「犬がみんなやっつけてしまった」(The Dog Got Them)
- 「アーサー・クックさんのおかしな病気」(The Strange Illness of Mr. Arthur Cook)
- 『それいけちびっこ作戦』(The Elm Street Lot、百々佑利子訳、ポプラ社、ポプラ社の世界こどもの本) 1983
- 『ペットねずみ大さわぎ』(The Battle of Bubble and Squeak (1978)、高杉一郎訳、岩波書店) 1984
- 『サティン入江のなぞ』(The Way to Sattin Shore (1983)、高杉一郎訳、岩波書店) 1986
- 『ライオンが学校へやってきた』(Lion at School and Other Stories (1985)、高杉一郎訳、岩波書店) 1989
- 『エミリーのぞう』(Emily's Own Elephant、猪熊葉子訳、岩波書店) 1989
- 『ふしぎなボール』(The Tooth Ball、猪熊葉子訳、岩波書店) 1989
- 『こわがっているのはだれ?』(Who's Afraid? and Other Strange Stories (1986)、高杉一郎訳、岩波書店) 1992
- 「クリスマス・プディング」(A Christmas Pudding Improves with Keeping)
- 「サマンサと幽霊」(Samantha and the Ghost)
- 「よその国の王子」(A Prince in Another Place)
- 「黒い目」(Black Eyes)
- 「あれがつたってゆく道」(The Road It Went By)
- 「おばさん」(Auntie)
- 「弟思いのやさしい姉」(His Loving Sister)
- 「こわがってるのは、だれ?」(Who's Afraid?)
- 「ハレルさんがつくった洋だんす」(Mr. Hurrel's Tallboy)
- 「こがらしの森」(The Hirn)
- 「黄いろいボール」(The Yellow Ball)
- 『フィリパ・ピアス珠玉選』(The Best of Philippa Pearce、伊達壽曠,伊達桃子編、英宝社) 1997
- 『8つの物語 - 思い出の子どもたち』(The Rope and Other Stories (2000)、片岡しのぶ訳、あすなろ書房) 2002
- 「ロープ」(The Rope)
- 「ナツメグ」(Nutmeg)
- 「夏の朝」(Early Transparent)
- 「まつぼっくり」(The Fir Cone)
- 「スポット」(Bluebag)
- 「チェンバレン夫人の里帰り」(Mrs. Chamberlain's Reunion)
- 「巣守りたまご」(The Nest Egg)
- 「目をつぶって」(Inside Her Head)
- 『川べのちいさなモグラ紳士』(The Little Gentleman (2004)、猪熊葉子訳、岩波書店) 2005
- 『消えた犬と野原の魔法』(A Finder's Magic (2008)、さくまゆみこ訳、徳間書店) 2014
- 『ひとりでおとまりしたよるに』(Amy's Three Best Things、さくまゆみこ訳、徳間書店) 2014
脚注
- “Philippa Pearce | British author” (英語). Encyclopedia Britannica. 2020年11月13日閲覧。
参考文献
- 『フィリパ・ピアス』(三宅興子編、KTC中央出版) 2004